米国の警察・消防でのドローン活用[春原久徳のドローントレンドウォッチング]Vol.83
日本ではドローンのLevel3、Level4での運用が発展途上の中、米国では警察や消防がドローンを本格的に活用している。ドローン活用による迅速な現場対応の実例は、日本のドローン産業にも影響を与えそうだ
日本では、目視外飛行を規定するLevel3やLevel4における型式認証や操縦資格の法律が施行されてから、今年度末で2年が経過する。しかし、これらのレベルでのドローンの本格的な活用には、まだまだ至っていない。
そんな中で、米国においては、警察・消防といったパブリックセーフティにおいてのドローン活用が本格化している。
これは日本におけるLevel3やLevel4の活用にむけて大きな示唆となる事例となろう。
警察や消防機関でのドローン使用の増加
米国において、警察や消防におけるドローンの使用は増加し続けている。Commercial UAV Newsの記事によると、現在、米国では1400を超える機関が法執行活動にドローンを使用しており、過去6年間で54%増加している。
「Drone Adoption in Law Enforcement Continues to Rise」
2022年ぐらいから、導入が進みはじめ、現在に至っている。 その用途としては以下のようなものがある。
交通事故の現場検証犯人確保の戦術展開前の現場偵察SWAT作戦(建物の周囲、フェンスの後ろ、限定されたエリアの状況確認など)人質/立てこもりの状況(容疑者や人質の位置情報など)パトロールでの展開(パトロール車両のトランクにドローンを配置し、警官が事件現場に素早く配備して、対象者の所在、武器の存在、その他の関連する危険に関する状況認識を提供)科捜研の調査(現場全体の概要を提供し、後で確認できる 3D モデル作成など)行方不明者の捜索(地上の危険な場所や徒歩ではアクセスが難しい場所の捜索や夜間捜索など)交通パターンの確認(犯罪現場への早期駆け付けのため、車両の動きを確認し、最も効果的な交通の流れを実現するために必要な情報の取得など)屋内戦術作戦(建物内に飛ばし、警察官に危害を加えることなく遠隔で部屋の捜索の実施や「とまり木」のように一つの場所にとめて監視の継続など)
その他、緊急事態や自然災害時の活動、屋外の犯罪現場をマッピング、盗難品の所在の特定、爆発物の探知など多くのシーンで使われている。 (実際、筆者は国内外の刑事ドラマを見る機会が多いが、日本では「科捜研の女」ぐらいでしかドローンを見るケースがない。一方、米国の「FBI」シリーズなどでは、毎回のようにドローンの利用シーンが見られる。)
そういった警察でのドローンの有用性にあたり、段階的に、連邦航空局(FAA)は「戦術的目視外飛行(TBVLOS)」免除を承認してきている。これにより、公共安全機関は、法執行機関の戦術作戦、危険物事件、危険地帯の捜索などの危険な任務中に、FAA に特別な許可を求めることなく、建物の周囲や上空でドローンを飛行させることが可能になっている。
「First Responder Tactical Beyond Visual Line of Sight(TBVLOS)91.113 Waiver Guide」
また、米国においても、経費削減などにより警察人員の削減もあり、2024年現在、最も注力しているドローンの導入は、FAAのパイロットプロジェクトから生まれた、「ドローンによるファーストレスポンダー(DFR)」プログラムだ。このDFRプログラムは、911(日本の110番と同様)通報があるとドローンを飛ばし、警察官が到着する前に現場を監視できるようにシステムデザインされているものだ。現場の到着の前に警官にライブビデオをストリーミングすることで、貴重なリアルタイムの状況の提供を行う。
Droneresponders.orgは、オンラインリソースセンターを通じて、ポリシー、プライバシー、セーフティ、運用コンセプト(CONOPS)に関する情報を共有するDFR ワーキンググループを作成して活動をしてきており、2024年10月現在では、1698拠点において、このDFRプログラムが広がっていることが確認できる。
ArcGIS Dashboards|Droneresponders.org
このDFRプログラムの実施のためには、有人地域の目視外飛行(いわゆるLevel4)が必須要件となってくる。
そのためにFAAは公共安全機関でのドローン運用のために以下を義務化し、許可している。14CFR Part107規則(小型無人航空機システム規則、sUAS とも呼ばれる)に従っての飛行させるために、運用内の部署の 1 人以上のメンバーのFAA認定パイロット
「14CFR Part107規則」FAA 認可証明書(COA)を取得して、機関が「Public aircraft operator」となり、パイロットとドローンの両方のコンプライアンスの認証。
sUAS では、ドローンに耐空証明書は必要ないが、各ドローンはFAAに登録する必要がある。FAAには、すべてのドローンの使用に適用される一般的なルールと、緊急対応機関が運用する UAV に関する特別な考慮事項がある。また、その特別な運用ルールに関しても、2023年3月には Special Governmental Interest(SGI)により迅速な承認が可能なようにルールが改定された。
「Emergency Situations」
DFRプログラムを実施する上においては、この承認が必要なため、先ほど挙げた通り、米国の1698拠点において、有人地帯での目視外飛行(Level4)が既に現時点で承認され実行されていることになる。
ただし、その中で、そういった法執行機関のドローンは州議会議員やプライバシー擁護団体による監視の対象にもなっており、機関のポリシーで対処しなければならない禁止用途のリストが各々の州法ベースで上がってきている。 その内容は以下の通り。
無作為の監視と群衆制御兵器化(武装ドローン)刑務所や拘置所付近での飛行顔認識
そのほか、プライバシー権保護やデータの管理といったことに関しても様々な議論が始まっている。
こういったリスクも含めて、まさに米国においては、毎日のようにLevel4の飛行が多くの箇所で数多く、実施されており、その中での効果やリスクに関しても、実際の現場で検証され、データが蓄積されてきている。
そういった中で、FAAはこういった警察や消防だけでなく、通常の企業や業務においても、有人地区の目視外飛行のルール緩和を検討している。それは警察や消防のDFRプログラムは、民間企業でのセキュリティや工場や研究所などの地域監視、現場での無人監視システムにも応用が利くからだ。
日本ではLevel3やLevel4というと、物流やエアモビリティといった印象が強いが、米国においては、より実践的に目視外飛行の市場が急速に立ち上がってきている。 これは、ドローン業界全体、そして国も含めて、ドローンの本格的な活用を真剣に捉えるべきだろう。
DJI禁止法案の余波
以前このコラムでも紹介したが、Countering CCP Drones Act(中国共産党のドローン対策法)が2024年6月に下院を通過した。
この法案は、深圳大江創新科技有限公司(通称DJIテクノロジーズ)が製造または提供する通信機器およびビデオ監視機器またはサービスを、連邦通信委員会(FCC)が米国の国家安全保障に容認できないリスクをもたらすと決定した通信機器またはサービスのリストに含めることを義務付けています。現行法では、指定されたFCCプログラムを通じて利用できる連邦資金を、リストに載っている機器またはサービスの購入または維持に使用することを禁止しています。
Countering CCP Drones Act(中国共産党のドローン対策法)
これに対し、上院の議員2名がNational Defense Authorization Act(NDAA)(国防権限法の修正案として、6月に独自のバージョンを提出している。 この提案バージョンでは以下を求めている。
中国軍事企業の特定:国防長官はドローン製造業者を調査し、中国軍とのつながりがあるかどうかの調査DJI 製品の制限機器リストへの追加:DJIは、通信およびビデオ機器の使用が制限される企業のリストに追加されるよう求められている外国のドローン製造業者の1つ「ファーストレスポンダーセキュアドローンプログラム」の導入:警察や消防などの地方機関に、指定された「懸念される外国の団体」によって製造されていないドローンを購入し、使用するための助成金を提供することを目的としたプログラム
また、日本からみると少し異例にも思えるが、消防機関などがこの法案に反対している。
カリフォルニア州の800以上の消防機関を代表するカリフォルニア州消防署長協会は、法執行ドローン協会(LEDA)、空中公共安全協会などの公共安全擁護団体とともに、上院軍事委員会に送った書簡の中で、2025年度の国防権限法(NDAA)上院版に中国共産党ドローン対策法を盛り込むことに強く反対する旨を表明した。この書簡は、2024年6月12日に予定されている上院での議論に先立って届き、この法律が公共安全ドローン作戦に及ぼす潜在的な影響について重大な懸念を表明している。
この懸念は以下の通りだ。
エリーズ・ステファニック下院議員が提出した「中国共産党のドローン対策法案」は、中国の大手ドローンメーカーであるDJIをFCCの対象リストに追加することで国家安全保障上の懸念に対処しようとしている。この措置により、FCCは議会の承認を必要とせずに遡及的にすべてのDJIライセンスを取り消す権限が与えられ、実質的にすべての公共安全ドローン運用の約90%が廃止されることになる。この書簡は、これが軍人に影響を与えるだけでなく、アメリカ全土のコミュニティの安全と生活を危険にさらすことになるだろうと強調した。 (下線筆者)
いわば、公共安全ドローンの90%がDJIのため、DJIが使えなくなると消防や緊急にかかわる安全が損なわれ生活を危険にさらすと主張している。 (それだけ、日常的にDJIのドローンを使っているということだろう。)
First Responders Oppose Inclusion of Countering CCP Drones Act in NDAA
アメリカ大統領選の行方もあるが、この「DJI禁止法案」に関して、注目すべきは、上院議員の修正法案の中にある「ファーストレスポンダーセキュアドローンプログラム」、もしくは「Drones for First Responders Act(DFR)」法にある。
DFR法は、国家安全保障の強化と国内ドローン製造の支援との間で慎重にバランスを取ることを目指している法案で、以下がDFR法の主な提案となっている。:
関税とインセンティブ:この法律は、中国製ドローンに段階的な関税を導入。関税は30%から始まり、毎年5%ずつ増加。この措置は、中国製ドローンの輸入を抑制し、米国と同盟国のドローン産業を刺激することを目的とする。助成金プログラム:これらの新しい関税によって資金提供される助成金プログラムは、緊急対応要員、重要なインフラ提供者、農業部門が米国または同盟国で製造された安全なドローンを入手できるよう支援する。この取り組みは、重要なサービスに経済的負担をかけずに、脆弱な機器を安全で信頼性の高い代替品に置き換えることを目的とする。輸入規制の強化:2030年までに、米国に輸入されるドローンには中国で製造された重要な部品が含まれていないことが法律で義務付ける。この規則は、米国で使用されるドローン技術のあらゆる側面が外国の干渉から安全であることを保証することを目的とする。国内産業への支援:助成金プログラムには、ドローンの国内生産を強化するための規定も含まれており、中国企業からの補助金による競争に苦戦している米国の製造業者に、切望されていた支援を提供。
ここで想像されるのは、DJI禁止法がどうあれ、DFRプログラムを契機として、米国全土の警察や消防のすべてに米国のシステムが導入されることで、Mavicを中心としたDJIのシェアを切り崩し、結果的にDJIの排除の動きに拍車をかけていく動きである。
また、このソリューションは、先ほども書いたように、警察・消防だけでなく、通常の企業や業務にも浸透していく動きであり、また、Level4をブレークスルーする動きとなっていくだろう。
そして、その号砲は既にきられており、そのベースが以前から示している「Blue UAS」と連動していることも注目に値する。
BRINC Drones、Responderドローンとステーションを発表。緊急対応システムとシームレスにリンク、自律的に展開Flock Safety scoops up Aerodome boosting US-made drones
米国はようやく本格的にDJIを捉え始めたことを実感させられるものとなっており、日本のドローン産業にとっても、DJIから米国企業にそのメインが移ったということにならないためにも、日本国内のドローン産業の再構築に全力を注ぐ必要がある。