NHK紅白歌合戦の中森明菜「禁区」YMOが散開の年にリリースされた細野晴臣のテクノ歌謡
デビュー2年目、圧巻のパフォーマンス
オフィシャルYouTubeで公開中の、NHK音楽番組における中森明菜の歌唱シーン。新たに公開された『NHK紅白歌合戦』における6年分の映像の内、記念すべき初出場となったのが、1983年の『第34回NHK紅白歌合戦』で歌われた「禁区」である。
デビュー2年目、クールな表情を保ちながら見せる圧巻のパフォーマンスは、とても初出場とは思えないほど。“花の82年組" と呼ばれるほど優れたアイドルが輩出された前年デビューの新人たちの中で、1982年の紅白歌合戦に出場を果たしたのはシブがき隊だけで、2年目となる1983年も中森明菜と早見優の2人に絞られたのだった。翌1984年にはようやく小泉今日子と堀ちえみが初出場を遂げることになる。
セカンドシングルの「少女A」(1982年7月リリース)でブレイクし、新人の中では少々出遅れた感もあった中森明菜だが、この頃には、すでに同期の中でもトップのポジションを獲っていた様子が窺える。1983年12月31日に放送された『第25回日本レコード大賞』では、デビュー2年目の7組がゴールデン・アイドル賞を受賞し、さらに中森は同賞の特別賞を1人だけ授与されている。
作曲には細野晴臣を起用
「禁区」は1983年の9月7日にリリースされた、中森明菜の6枚目のシングルだった。来生えつこ × 来生たかおによるデビュー曲「スローモーション」から、バラード調の曲と激しめな曲が交互に展開されてきた中で、前作の来生姉弟による「トワイライト -夕暮れ便り-」に続いて出された本作は、作曲に初めて細野晴臣が起用された。作詞の売野雅勇にとっては、シングルでは「少女A」の芹澤廣明、「1/2の神話」の大沢誉志幸に続く3人目のパートナーということになる。
YMO(イエロー・マジック・オーケストラ)散開となったこの年、細野は4月に「天国のキッス」、8月に「ガラスの林檎」と、松田聖子のシングル曲を連続して提供していた。その直後となる中森明菜への楽曲提供はなかなかにインパクトがあったのだ。細野自身によるアレンジは萩田光雄との連名ながら、「天国のキッス」よりも明確なテクノ歌謡。同年には森進一「紐育物語」など、歌謡曲の作曲をほかにも手がけていた細野だが、特筆すべきは藤村美樹に書かれた「夢・恋・人。」だ。
「夢・恋・人。」は「禁区」の姉妹曲?
キャンディーズ解散後、メンバーのミキこと藤村美樹の唯一のソロシングルとなっている「夢・恋・人。」は、曲構成、全体の雰囲気など、「禁区」に通ずるところが顕著な楽曲で、姉妹曲と言ってもいいかもしれない。当初は中森明菜のために書かれたものの不採用となり、YMOがシングル発売した「過激な淑女」にも、「禁区」を想起させるフレーズが見受けられる。いずれも細野ならではの個性が反映された見事な仕事であった。
長らくレコードで聴き慣れてきた「禁区」であるが、改めて当時のライブ映像を見ると、秀でた歌唱力と相まってその迫力に圧倒される。さらに『NHK紅白歌合戦』という特別な晴れ舞台の魔法がかかっているので尚更のこと。サビのフレーズを歌い上げる崇高な表情に注目しながら、42年前の中森明菜の歌姿に酔わされて欲しい。