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【斉藤由貴 40周年記念インタビュー】② 現在の音楽活動と今だからいえるアイドル期の本音

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2025年02月21日 斉藤由貴のアルバム「水響曲 第二楽章」発売日

36年ぶりの全国ツアーの開催も決定している斉藤由貴


2025年に歌手デビュー40周年を迎えた斉藤由貴が、歌手活動を活発化させている。セルフカバーアルバムのリリースや、最新のスタジオライブ映像を収めたDVD&Blu-rayの発売、さらに36年ぶりの全国ホールツアーの開催も決定しているのだ。そんな彼女の言葉を2回にわたりお届けしたい。前編ではアイドル時代の複雑な心情について語ってくれたが、この後編では現在の音楽活動を中心に語ってもらった。ただし、そのなかで同時代のアイドルたちをどう思っていたかなど、今だから明かせる本音も出てくる。今回も全ての斉藤由貴ファン必読の内容だ。

アイドル時代とは異なる作品への関わり方


── 40周年を記念して、2021年にリリースされたセルフカバーアルバム『水響曲』の続編である『水響曲 第二楽章』がリリースされます。これはプロデューサーである武部聡志さんとの共同作業による作品のようですが、実際に斉藤さんはどのような関わり方をしたのですか?

斉藤由貴(以下:斉藤)最初から全部ですね。どんな曲にして、どんな並びにするかみたいなところから。当初はコロナ禍だったので、パソコンの中の武部さんと打ち合わせをしました。あれはなんていうんでしたっけ? …あ、Zoomですね。そうそう、それです。楽器のレコーディングも、武部さんから “今回はバイオリンを入れます” “ここにチェロを入れます” というアイデアが出てきたりするのですが、時間の許す限り現場にいて、その曲の仮ボーカルを入れる作業のときも立ち会いました。

── そこは、10代、20代の頃との大きな違いですね。

斉藤:はい。武部さんとは「卒業」から何年間かずっと一緒に仕事をご一緒しましたが、その頃より今の方がずっと仲がいいと思います(笑)。2人で話し合いながらいろんな意見を出し合って、複雑にしていきます。

── 複雑というのは?

斉藤:要は作品のクオリティを上げるために、単純に “あ〜 これでいいんじゃない?” じゃなくて “ここに何かを足したらどうなるだろう?” “何かを引いたらもっとよくなるのではないか?” と繊細な作業をしていくということです。言い方を変えれば “多層的” にしていくというか。たとえば、炊きたてのご飯は、梅干しを乗せただけで十分美味しい。ただそれは、美味しいお米と美味しい梅干しがあれば誰でも再現できると思うんです。だけど、“フランス料理のフルコースを出してください”って言われたら普通の人は簡単にはできないですよね。

── プロでないと難しいですね。

斉藤:そこには経験と熟練の技と膨大な知識が必要になります。多層的にするというのは、そんな感じのことかもしれない。シンプルなものをポンって出すんじゃなくて、そこに様々な技術とかアイデアとかいろんなものをレイヤーしていく。そういう練られた、クオリティの高い作品を目指して努力をすることって、きっとすごく大事なんです。“素敵なピアノと素敵なボーカルがあればそれで十分じゃん”。それも真なりなんですけど、そうじゃなくて、ブレインストーミングを重ねて、作品を複雑にしていくっていうことが今すごく武部さんと一緒にやっていて楽しい作業です。

── 映画作りとも似たところがあるのかもしれませんね。

斉藤:そうですね。そういうレイヤーの感じを横着しないで積み重ねられるかっていうことがプロフェッショナルなのかなっていう感じがします。うまく言えないけれど。

セルフカバーした「卒業」は圧倒されるアレンジに


── 複雑化、多層化の賜物である『水響曲 第二楽章』にはかつてのシングル曲を中心に全10曲が収録されています。ご自身の中で、特に感慨深い曲はどれですか?

斉藤:やっぱり、特に今回は「卒業」ですね。武部さんが驚くようなアレンジをしてくださっているので。胸打たれます。

──「卒業」は高校生の合唱とのコラボになっていますね。試聴音源を聴きましたが、胸を打たれました。

斉藤:そうですよね! なんか圧倒される感じ。あの年代の人たちにしか醸し出せないものがあり、それが充満していて。それから、「ORACION -祈り-」はものすごく久しぶりで、ちょっと新鮮でした。来生たかおさんとのデュエット曲で、あまり歌う機会がなかったんですね。でも、マネージャーさんが “これ、めちゃめちゃいい曲じゃないですか!” と押してくるので、“じゃあ歌ってみましょうか” という感覚で歌うことにしました。今回はデュエットではなく、私1人で歌ってみたら、それはそれですごく美しい、やわらかい曲になって、なんか面白い発見でしたね。それ以外だと、すごく素敵だなと思ったのは「Where 〜金色の夜〜」ですね。

──『TO YOU』というアルバムの収録曲ですね。ほかに、「ストローハットの夏想い」というアルバム曲も収録されていますが、この曲は近年になって再評価される現象がありましたね。

斉藤:不思議ですね。いつの頃からか “シティポップ” という言葉が出てきて、しばらくしてから私も知ったのですが、最初は “なんで、今「ストローハットの夏想い」?” と思いましたもん。この曲と、今回は収録されていませんが「自転車に乗って」というアルバム曲があって、どちらもポップでちょっと軽やかな曲なんですよね。私の雰囲気は、シリアスで重い感じを作品世界に与えるイメージが強いと思うんですけど、あの辺りの軽やかな感じの曲がすごく好きでライブでは歌っています。

── 斉藤さんの歌声は、それぞれの曲のリリース当初と全く変わらない印象があります。『水響曲』というアルバムのタイトルどおり、流れる水のような透明感を維持できているのはすごいことです。

斉藤:え〜そうですか? 私自身は聴いた時、やっぱり月日には逆らえないと思いましたよ。だから、そう言っていただいたことはビックリです。最近割と真面目にボイトレを2回ぐらい受けましたが。

斉藤由貴にとっての松田聖子と薬師丸ひろ子とは?


── 今回はまた『Studio Live 水響曲「四季」』というBlu-rayとDVDがリリースされます。こちらは、U-NEXTで『春』『夏』『秋』と過去に3度配信されたスタジオライブの映像に加え、新たな『冬』が収録された内容です。ここでは自分の曲以外のカバーにも挑戦されています。曲はどのように決めたのですか?

斉藤:2人で持ち寄ったかたちですね。私の好みと、武部さんが仕事をした曲などのなかから選びました。例えば「さよならの夏〜コクリコ坂から~」は、武部さんが音楽監督をしたジブリのアニメの曲ですし、武部さんはユーミンのライブの音楽監督もやっていますから、「春よ、来い」とか。

── 話題性が高そうなのが、斉藤由貴さんが松田聖子さん、薬師丸ひろ子さんの曲を歌っていることです。おふたりとも斎藤さんより少し年上のトップアイドルでしたが、10代の頃にはどのように見ていましたか?

斉藤:聖子さんに関しては、完全に別次元の人でした。その当時、デビューした人はみんな聖子さんや、それから(中森)明菜さんのことをそう思っていたと思います。アイドルとして完成されていたし、なによりすごく売れていましたし。思えば、40年前にデビューするにあたって、レコード会社のスタジオで私にどんな曲が合うかをテストするためにいろいろな曲を歌ったことがあったんです。あみんの「待つわ」とか、中島みゆきさんの「悪女」とか。そのとき、聖子さんの「SWEET MEMORIES」と「夏の扉」も歌っているんです。

── 斉藤さんの口から、聖子さん、明菜さんという名前が出るのはとても新鮮です。 今回収録されている松田聖子さんの楽曲は大滝詠一さん作曲の「風立ちぬ」です。このチョイスはどういった経緯で?

斉藤:最初 “「SWEET MEMORIES」はどうですか? “ と言ったのですが、『秋』の配信だったので “せっかくなら「風立ちぬ」はどう?” ということになったんです。確かにあんまり歌ったことないし、“それもいいですね” とすんなり決まりました。

── 聖子さんと比べると、映画に軸足を置いていた薬師丸ひろ子さんは斉藤さんに近い世界にいた方という印象がありますね。

斉藤:確かにそうかもしれません。でも、薬師丸さんとか、原田知世さんとか、同じ時期に映画に出ていた同じぐらいの年齢の方に対して、特に何か強く思ったことはないんですよ。“こういう作品をやっているんだな” “素敵だな” ぐらいの感じでした。ただ、今回カバーした、薬師丸さんの「Woman ”Wの悲劇”より」に関しては、当時から大好きだったんです。だから、何十年もの時を経てやっと夢が叶った歌唱なんです。

── そうでしたか。これも呉田軽穂名義での松任谷由実さんの作曲ですね。

斉藤:「風立ちぬ」と「Woman ”Wの悲劇”より」は、NHKの音楽番組『The Covers』でも歌いました。とてもラッキーでした。

「卒業」以外の “特別な曲” の思い出



── 答えにくい質問かもしれませんが、今回セルフカバーしたかどうかに関わらず、ご自身の楽曲の中で特に思い入れの強い曲はありますか?

斉藤:やっぱり「卒業」は別格というか、デビュー曲だし、私の歌う人間としての人生を決定づけた曲です。それ以外でしたら、『水響曲』の1作目でカバーした「AXIA 〜かなしいことり〜」はとっても好きなんです。

── ファーストアルバムの表題曲で、カセットテープのCM曲でもありますね。

斉藤:この曲は、それ以前にコマーシャルに出ている私を見て、銀色夏生さんが “この女の子を見ていたら歌ができました。だからこの歌を聞いてもらいたいです” と、レコード会社に持ち込んできたんです。夏生さんは作詞家なので “自分は楽器とか全然できないんですけど” と言いながら、鍵盤でポロンポロンとメロディを弾いて “こんな感じで” と持ち込んできてくれて。ディレクターさんは “詩人みたいで、よくわかんない人なんだけど、すごくいい曲なんだよ” と。それが「AXIA 〜かなしいことり〜」です。私にとっては特別な曲です。

── タイトルに、カセットテープの商品名が付いていますが、タイアップを前提に周到に用意された曲ではないということですか。そのタイトルについて、銀色さんはどんな反応でしたか?

斉藤:もともとは「かなしいことり」というタイトルでしたが、大人の世界で “コマーシャルで使うから曲名を「AXIA」にする” と決まって。そうしたら意外と夏生さん本人がそんなに頓着してなくて。“サブタイトルでつけてもらえれば、別に” みたいな感じで。

── 意外にあっさりとOKでしたか。

斉藤:その時に、私は彼女のスタンスを見ていて思いました。 “物事に執着しないのって大事だな” って。ときには “これじゃなきゃいけない” と執着することも大事だけど、ときには軽く手放せる。それぐらいの感覚がなんか軽やかでいいなっていうことをその時感じた記憶がありますね。

シングル曲を網羅する全国ツアーを開催


── “物事に執着しない" というのは以後の斉藤さんの芸能活動に通じている部分があるかもしれませんね。さて、そんな斉藤さんは実に久々となる全国ライブツアーを行います。今回のツアーは『斉藤由貴 40th Anniversary Tour “水辺の扉”~Single Best Collection〜』というタイトルがついています。

斉藤: “シングルベストコレクション” ですから、歌う曲名の一部は、すでにチラシに書いてあります。全部最初からオープンにしているんですね。ネタバレ上等みたいなね(笑)

── チラシには「卒業」「白い炎」「初戀」「情熱」「悲しみよこんにちは」「土曜日のタマネギ」「青空のかけら」「MAY」「砂の城」「夢の中へ」and more… と書いてありますね。これは “是非観たい!” という方が多いと思いますが、おしゃべりなど歌以外の要素についてはどうなりそうですか?

斉藤:今回のコンサートは武部聡志さんが全てご一緒してくださるので、2人のトークがメインに出てくると思います。でも、私1人でしゃべるところもあるので “すごく気をつけないとな” と思っています。ダラダラしゃべらないように(笑)。大抵、終わった後に “ちょっとトークが長かった” と言われるので。

── いや、皆さんそれを聞きたいと思います。すでにチケットがソールドアウトになっている会場が多いですが、お客さんにはどんなところを見てもらいたいですか?

斉藤:(数秒の沈黙を置いて)少し真面目な話をします。このコンサートツアーのセールスポイントの1つとして、武部聡志さんの存在があり、リリース当時のアレンジとキーのままお届けするっていうことが1つすごく大きな軸なんですね。で、「卒業」から始まったシングル曲を全て網羅してお届けします。“必ずや皆様に楽しんでいただけることをお約束しますよ”っていう前提のコンサートなわけです。

── それだけに、これまで以上の注目が集まっていますね。

斉藤:確かにアイドルだった18歳、19歳の頃の曲を歌うけれど、歌うのは40年の時を過ごした今の私です。そこをどう自分の中ですり合わせて、融合させていくか、パフォーマンスする人間として納得できるか、そこが重要な課題です。かわいい衣装を着て、体をメンテナンスして、かわいらしく歌えばいいってことじゃない。まだ、着地点が見えていない部分があります。これからリハーサルを重ねながらいろいろ発見していくことになると思います。自信を持って心からお届けできるようにしたい。それが、本当の意味で誠実にステージをお見せするということになると思います。で、戻るんですけど “何を見ていただきたいか?” と考えたときに、私が思いついたのは、歌う私を通して、その当時の自分を見て欲しいということです。私の歌を楽しむだけじゃなくて、私を応援くださっていたときの自分を思い出して、味わって、そして抱きしめてほしいって思います。

── ありがとうございます。思い出したい人は多いと思います。それで、思い出しついでに最後にもう1つだけ質問させてください。斎藤さんは1986年の大晦日に『第37回NHK紅白歌合戦』の紅組キャプテンをやり、紅組の歌手として出場されましたよね。

斉藤:はい。(左手の人差し指を立てて)『紅白』に出たのはその1回だけですね(笑)

── 近年では橋本環奈さん、浜辺美波さん、伊藤沙莉さんと、『NHK連続テレビ小説』のヒロインを演じた方が『紅白』の司会をするのは当たり前になっていますが、最初にその流れを作ったのは斉藤さんでした。

斉藤:そうだったんですか?

── そうだったんです。そこで質問です。2025年の大晦日、40周年の集大成として、NHKホールで高校生の合唱隊とともに「卒業」を歌う予定はありませんか?

斉藤:ハハハハハハハハ〜(笑いが止まらず)。え〜どうなんでしょう。今回の「卒業」はそれだけインパクトのあるアレンジですものね。そうかあ〜。素敵なアイデアですね。どうもありがとうございました。

歌手として、俳優として、40年のキャリアを積み重ねた斉藤由貴は、透明感あふれる声と高いプロ意識、独特のユーモアセンス、そして魅惑的なボキャブラリーを兼ね備えた人だった。そして、彼女の口から発する言葉は、パブリックイメージを一瞬たりとも揺るがすことがなかった。

Information

「水響曲 第二楽章」(初回限定盤)
斉藤由貴歌手デビュー40周年を記念した武部聡志プロデュースによるセルフカバーアルバム第2弾。初回限定盤は、セルフカバーした楽曲のリリース当時のオリジナルバージョンを収録した2枚組で発売。

▶︎発売日:2025年2月21日
▶︎アルバム(2枚組)
▶︎価格:4,800円(消費税込)

<収録曲>
1. 悲しみよ こんにちは
2. 土曜日のタマネギ
3. ストローハットの夏想い
4. 予感
5. 夢の中へ
6. ORACIÓN -祈り-
7. 青春
8. Where ~金色の夜~
9. 卒業
10.家族の食卓

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