全ての人の「生きづらさを小さく」。特別支援教育のエッセンスが詰まった良書・平熱先生が選ぶ3冊【発達ナビ・あの人の本棚から】
平熱先生が選ぶ3冊は?
発達障害・子育て・教育などの各分野で活躍される専門家や実践者の方々に、おすすめの書籍をご紹介いただく連載企画【発達ナビ・あの人の本棚から】。今回は、X(旧Twitter)で10万人を超えるフォロワーに支持され、特別支援学校での実践を通じて心温まる一方で本質を突く教育観を発信し続けている平熱先生に、「保護者の方へ」「支援に携わる方へ」「著者ご自身の作品」という3つの観点から、厳選した書籍をご推薦いただきました。
平熱先生が選ぶ!保護者の方におすすめの1冊:『「個性」と「才能」が伸びる シュタイナー式子育て』(赤川幸子著)
シュタイナー教育の実践者・赤川幸子氏が、子どもの個性と才能を伸ばすための家庭でできる子育て法を紹介する一冊です。オーストリアの思想家ルドルフ・シュタイナーの教育理念を土台に、「子どもを子どもとして尊重する」関わり方の大切さを伝えます。著者は20年以上シュタイナー幼児教育に携わり、具体的な声掛け方法などが数多く紹介されています。「自主性を育てるには?」「丁寧に言い聞かせてもうまくいかない場合の対処法は?」など保護者の疑問をあつめたQ&Aも。子どもの「考える力」「行動する力」を育みたい保護者にとって、大きなヒントとなる一冊です。
シュタイナーはよく知らないけど、かわいい表紙を理由に手に取った本。でも、第1章から「環境を整えることからはじめよう」だったので、これは特別支援教育でしかない!と確信して読み進めました。簡単に真似できないところ(デジタル機器を使わないとか)もありますが、「この子はどんな子?」を考え育むためのヒントがたくさん!
支援者の方におすすめの1冊:『「ついやってしまう」体験のつくりかた 人を動かす「直感・驚き・物語」のしくみ』(玉樹真一郎著)
「なぜあの人は行動を起こしてくれないのだろう」「どうすれば相手に興味を持ってもらえるのだろう」――そんな悩みを解決する"体験デザイン"を作るための実践的な1冊です。著者は世界で1億台を売り上げた任天堂のゲーム機「Wii」企画開発者である玉樹真一郎氏。人が「ついやってしまう」メカニズムや、「つい夢中になってしまう」構造、そして「つい誰かに言いたくなってしまう」物語の力などを、ゲームを例に具体的に解説しています。支援や指導において相手の心に響く体験を"設計"する方法とは?「行動を促せる人」に近づくためのヒントが豊富に詰まっています。
右を向いてるマリオが画面の左端にいる。これだけでマリオが右に進むゲームだと一発で理解できる視覚支援の完成です。特別支援教育うんぬんを学ぶのは、どんな本からだってできることを教えてくれる一冊。あと、個人的に特別支援教育で最も大事なのは(広い意味での)「デザイン」だと思っていて、それがとってもたのしく学べるマジ良書。天才。
発達ナビユーザーへおすすめの自著1冊:『むずかしい毎日に、むつかしい話をしよう。』(平熱著)
『むずかしい毎日に、むつかしい話をしよう。』は、平熱先生が、日々の実践から紡ぎ出した30の「むつかしい話」をまとめた一冊です。
「がんばって、できた」を「できる」で数えちゃいけない——答えの出ない等身大の問いかけを通して、やる気がないわけではないけれど頑張りすぎるのは嫌だという人に向けて、自分や誰かを今より少しだけ大切にする「平熱」マインドセットを提案します。成功者になれるわけでも人生が劇的に変わるわけでもないけれど、やさしさを理由に傷つかず、弱さを抱えたまま生きていくためのヒントが詰まった、心に寄り添う希望の書です。
過去最高にカロリーを使って書き上げた一冊。エッセイのようなコラムのような教育書のようなヘンテコな本ですが、これを教育出版社(東洋館出版社)から出させてもらったことにとっても価値を感じます。特別支援学校で働く上で大事にしたい30のあれこれを書きました。置かれた場所でも咲けるけど、咲きやすい場所で咲きたいです。このむつかしい話わかる?
まとめ
平熱先生が発信し続ける「特別支援教育は全人類に有効です」という言葉通り、これらの本は発達に特性がある子どもたちだけでなく、すべての人の「生きづらさを小さくする」知恵が詰まっています。子育てや教育に関わる方、自分自身の成長に悩む方、日々の人間関係に疲れを感じる方——どんな立場の方にも、きっと新たな気づきと勇気を与えてくれるはずです。ぜひ手に取って、平熱先生の「平熱で淡々と、でも確実に」という温かな視点を感じてみてください。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的発達症(知的障害)、自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、コミュニケーション症群、限局性学習症、チック症群、発達性協調運動症、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。