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藤原紀香インタビュー 舞台『カルメン故郷に帰る』自身の道を明るく力強く生きる踊り子のカルメンに

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藤原紀香

東京で踊り子として活躍するリリィ・カルメンが、ひさしぶりに故郷へ帰ってきた!のどかな村で、にぎやかな物語がはじまる——。

巨匠・木下惠介監督・脚本、昭和の名優・高峰秀子主演により、1951年に公開された映画『カルメン故郷に帰る』。日本映画史に残る名作が、このたび藤原紀香を主演に迎え、初の舞台化となる。脚本は羽原大介、演出は錦織一清。2024年8月17日(土)より新橋演舞場、9月5日(木)より大阪松竹座、仙台、名古屋,熊本、鹿児島など他各地での公演に先駆け、藤原が意気込みを語った。

■リリィ・カルメンは嵐のように

ーー原作は松竹30周年を記念して、日本初の日本製総天然色で作られた映画です。

日本初のカラー映画の初の舞台化、というキャッチーなお話をいただき光栄です。木下惠介監督と高峰秀子さんと言えば『二十四の瞳』なども拝見しておりました。今回、あらためて『カルメン故郷に帰る』を観て、映画が公開された当時のパンフレットも見つけ読ませていただきました。当時の最高の技術を結集させ、日本の皆さんに映画をカラーで見ていただきたい! という映画人たちの思いがつまっている作品なのだとよくわかりました。初の舞台化ということで、原作をリスペクトし人々が故郷を愛する気持ちを大切に表現したいですし、歌あり、ダンスあり、明るいエネルギー溢れる作品にしたいと思っています。

ーー藤原さんが演じるおきんちゃんこと、リリィ・カルメンはストリッパーです。カルメンの魅力をお聞かせください。

彼女は、枠に囚われず、自由で、ポジティブで、底抜けに明るい人物だと思います。原作の映画では、幼い頃に牛に蹴られ、少し人とは違うところがあるという設定でした(笑) 。

当時のパンフレットで高峰さんが、自身のお役のことを「フーテン」と書いていました。“現代感覚に敏感な者”という意味もあったようです。

台詞の中でおきんちゃんは、踊り子の仕事をしていると酔ったお客さんから物が投げられたりで悲しくなることもある……と打ち明けます。でも、「私はこの職業は“芸術”やと思ってんねん」と言うんです。差別や偏見が今以上に強かった時代に、それをものともせず自身が選んだ職業を肯定し、明るく前向きに歩いていく。その生き方は、現代の人々の心に響くものだと確信しています。

常に彼女は嵐のようにやってきて、皆をポジティブスパイラルの渦にいい意味で巻き込んで、気づけば最後、皆が幸せになっちゃう……型破りだけどとても素敵な女子なのです。

藤原紀香

ーー記者会見での藤原さんは、リリィ・カルメンのイメージにぴったりの赤いドレスと底抜けの明るさで挨拶されました。すでに役として生きているかのようで、いつでも本番を迎えられそうです!

ドレスは、高峰さんが演じたカルメンを意識して作りました。とても魅力的なキャラクターで、破天荒なところはあるけれど、役にはスッと入り込めそうな気がします。

全体稽古が始まる前に、いつでもどこでも歌えるように、テーマソングの「カルメン故郷に帰る」やカルメンが憧れるマリリン・モンローの曲などを自主練しています。どちらも、古き良き時代を感じさせる歌い方はコピーしたいなと思っています。

そして今回は、喜劇です。人を楽しませるのは難しく、笑わせるのはもっと難しいと、舞台『毒薬と老嬢』(2022年、演出:錦織一清)でも学びました。今回もコメディエンヌ的な要素がありますが、ニッキ先生の指導のもと全信頼を寄せ頑張ります!

■物語の舞台は和歌山、紀の川村へ

ーー原作の映画は浅間山のふもとの風景が印象的でした。今回は、和歌山県紀の川村が舞台となりますね。

私自身は兵庫の生まれですが​、両親はともに和歌山出身。紀の川の辺りのレンゲ畑でよくデートをしていたと聞きました。そこから「紀州の香り」で紀香という名前をつけてもらいました。

ーー和歌山での思い出は?

休みになると和歌山の祖父母の家に遊びに行きました。多くの思い出がありますが特に思い出すのは、紀の川の風景。紀の川と言えば鮎が有名で、祖父が釣りをするのですが、鮎は“友釣り”という子どもには難しい釣り方でしたので私は見ているだけでしたがそれでも面白くていつも見ていました。祖父は、「紀香は、紀の川の鮎やしよ(和歌山弁)」と。鮎は別名が香魚(こうぎょ)というので、やっぱり紀の川の香りなんだと教えてくれました。今でも鮎を食べるたびに天国にいる祖父を思い出しますね。

祖父母の家は農家でしたから、田んぼで稲を植えたり、畑を手伝ったりもしました。収穫した野菜たちとともに、小型トラックの荷台に乗ったり。懐かしいですね。和歌山は、魚も山の幸も美味しく、フルーツもとても美味しいところです。映画『翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて』でも出てきたように、私自身は“紀ノ川市の初代フルーツ大使”に任命されていましたのでフルーツには​うるさいですよ(笑)。

劇中では、浅草の踊り子たちとの会話は標準語で、和歌山の家族や村人たちとの会話は関西弁の台詞になります。和歌山弁は少し入れたいなと。関西弁の素のおきんちゃんと、ショーの時のプロとしての踊り子リリィ・カルメン。その違いを鮮やかに出せたら素敵だなと思います。

舞台『カルメン故郷に帰る』


■リリィ・カルメンは芸術家!?

ーー先ほどもお話に出ましたが、カルメンは自分の仕事は“芸術だ”と言います。藤原さんは、カルメンを芸術家だと思われますか?

そうですね。いろんな考えがあると思いますが、私は、人は誰しも芸術家の素質をもっていると思っています。でも、いろんな状況がありますし、その人生の選択で、守りに入り安全な方をとるのか、周りに反対をされても、こだわり続けてアグレッシブに我が道をいくのか、で分けられるのだと思うんです。芸術家は、人とぶつかることもあっても、それでも人に喜びを与えられるようにこだわり戦い続ける選択をとる人なのではないかと。

これはどんな職業にでも、誰にでも言えることで、だから私の中で、おきんちゃんはやっぱり、芸術家なのだと感じます。どんなリスクを背負っても、人を幸せにするために挑戦していきますから。

ーー藤原さんは歌舞伎俳優の妻であると同時に、ご自身も俳優としておばあちゃんの役から、アクションのあるキャッツ・アイ、新派の皆さんと演じた太夫さん、はたまたコメディエンヌなサザエさん、妖艶な大奥の御台所など様々な役に挑戦されています。守りに入らないその姿勢にカルメンと重なるものを感じるのですが、ご自身もまた芸術家という意識でいらっしゃいますか?

破天荒で型破りなところ、人を楽しませることを芸術だと思うところはカルメンと通じる部分があるかもしれませんね。演じる役でも、「あの人いつもおんなじイメージの役ばかり……」という俳優業には魅力を感じないので……やはり常に挑戦し、限界を突破し続けていきたいという気持ちがあります。

すると時々どこからか、「歌舞伎俳優の妻らしくしなさい」と言われることもあるのですが……「“らしく”ってなんだろう???」と感じちゃう。人が思う尺度や価値観に合わせて枠にはめ込まれるのは、​きっと限界を感じると思うんです。だから、あまり私はそういうことには耳を傾けません(笑)。やはり自分の人生ですから自身で選んだ道を責任持ってしっかり歩みたい。

その代わり、自身のおかれた状況の中で、公私共にやるべきことはしっかりつとめたいと思っていますし、最大の味方である夫や家族とはいつも沢山話すことにしています。

ーー昔からそのようなマインドだったのですか?

はい!(笑)

ーー時代的に、あるいは環境的に、ご自分らしい道を以前よりも進みやすくなったと感じますか? 転機はありましたか?

デビュー前までは、親の敷いてくれたレールに乗りリスクを背負うことなく生きていたかもしれません。四年生大学を卒業後すぐ、腰掛け程度に企業で働いてお見合いをして早く結婚を、と言われていました。でも阪神淡路大震災ののち、両親に反対されても、限られた人生だから、夢に挑戦すると決め、「何の援助も要らないから」と、なけなしのお金を持って上京してきました。売れなくても、失敗しても、全ては私の責任だと覚悟。決めて。

あの時に一歩踏み出したことが、人生の転機だったと思っています。

藤原紀香

ーー藤原さんのお父さまは芸能界入りを反対されていたとのこと、劇中で石倉三郎さんが演じるリリィ・カルメンの父親とイメージが重なりますね。

そうですね。踊り子の仕事など理解できないお父ちゃんと​カルメンの会話は噛み合わなくてとても面白くて(笑)。

台本を読んでて父を思い出しました。関西に住む私の父は昔気質な人なので、羽原先生が書いてくださった脚本にも、頷けるところがたくさんあります。

私がデビューした頃はグラビア撮影が多くて、父からは「なにが芸能界や!」「(水着の仕事に対して)裸になってんのと変わらんやろ!」と怒られました。でも私の頭の中には、媚びるセクシーさではなく格好良いポージング、姿勢、目線のイメージがあり、カメラマンとセッションしスタッフの方々と作りあげていけば、決していやらしいものにはならない、必ず素敵な作品になるはず、と志を持って、一つひとつの仕事に取り組みました。すると、“ヘルシー&セクシー”の一つの流れが生まれ、ブレイクにもつながって。懸命に向き合ってきたので、どんな仕事も無駄にはなっていない、と今でも思います。

ある時、実家に帰ると、私の出演したものはすべて録画してあるのを見つけて……。母からもこっそり「お父さん、新聞と雑誌とか全部切り抜いてるわよ」と。嬉しかったですね。

今でももちろん応援してくれています。舞台も「招待なんかしていらん。娘と言えど、舞台はお金払って観るもんなんや。俳優さんらが努力して作ってるもんやからな」と、毎回きちんとお客さんとして観に来てくれるんです。今ではすっかり仕事を理解してくれて……涙が出る思いです。

ーー藤原さんのリリィ・カルメンを楽しみにしています!

脚本家の羽原先生が、映画よりも色濃く人間模様や背景を膨らませてくださっていて、よりハートフルな物語になっています。カルメンの同僚の朱美は横山由依ちゃん。カルメンの初恋の相手は徳重聡さん。村は過疎化の問題に直面しながらも、「自然や伝統を守りつづけなければ」と考える人もいれば、「変わらなきゃ村が無くなってしまう」という人もいて。石倉さんが演じるお父ちゃん、渋谷天外さんが演じる村長さん、そして福田転球さん演じるビジネスマン、それぞれの思いが交錯して描かれます。

職業への偏見を持った人々の心を自然に溶かし、動かしていくその様子は、現代を生きる人々に勇気と希望を与えてくれるものだと思いますし、誰もがカルメンたちに勇気づけられたり元気をもらえる作品になるのでは。

楽しい物語の中に、誰もが故郷を思い出すようなノスタルジーも感じてくれたり。楽しんでいただいた後には、「久しぶりに故郷に帰ろうかな」「たまには電話しようかな」と故郷を懐かしむ方も多いのではないかしら。

取材・文=塚田史香     撮影=山崎ユミ

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