ジョージア国立バレエが"クリスマスの贈り物"『くるみ割り人形』を披露、名花ニーナ・アナニアシヴィリが20年かけ育んだ美の結晶~記者会見レポート
伝説の名プリマ、ニーナ・アナニアシヴィリ率いるジョージア国立バレエが来日し、2024年12月5日(木)~12月27日(金)『くるみ割り人形』(全2幕)を上演する(東京、神奈川、埼玉、千葉、福島、山形、新潟、群馬、栃木、静岡ほか全国で19公演)。今回はアナニアシヴィリの芸術監督就任20周年を記念する公演で、名花が20年かけて育んだバレエ団が、不朽の名作にして"クリスマスの贈り物"を各地の観客に届ける。冬の公演開催に先立ち、7月22日(月)東京都内で記者会見が行われ、アナニアシヴィリ、プリンシパルダンサーのニノ・サマダシヴィリ、そして特別ゲストのティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使が登壇した。
■ジョージアの至宝アナニアシヴィリ、名門バレエ団をさらに躍進へと導く!
ジョージア(旧称グルジア)は、ヨーロッパの東端に位置しており、コーカサス山脈と黒海に挟まれている。国土面積は日本の約5分の1。人口は約370万人。ジョージア国立バレエ(旧称グルジア国立バレエ)の起源は、1851年に首都トビリシに建てられた最初の劇場にまでさかのぼる。1896年に新劇場が完成し、1937年にザカリア・パリアシヴィリ記念ジョージア国立トビリシ・オペラ・バレエ劇場となった。
2004年、長い歴史のあるバレエ団の芸術監督に就任したのが、ジョージア出身の世界的名プリマ・バレリーナであったアナニアシヴィリである。ボリショイ・バレエ、アメリカン・バレエ・シアターのプリンシパルを務めるなど、東西冷戦末期から21世紀に至るまで華やかに活躍した巨星だ。アナニアシヴィリ率いるカンパニーは、旧称のグルジア国立バレエとして2007年、2010年、2012年に来演しており、12年ぶりに全幕作品をたずさえての日本公演となる(2017年にはアナニアシヴィリを中心としたメンバーがガラ・コンサート形式の公演として来日)。
会見冒頭、レジャバ駐日ジョージア大使が挨拶し、バレエ団の来日を歓迎すると共に母国の名花に最大限の敬意を表した。「日本には人間国宝(重要無形文化財保持者の各個認定)がありますが、まさにニーナ・アナニアシヴィリは私たちにとっての"人間国宝"であります」。
そして、ジョージアは国土面積や人口では小国ながら国民には「精神力の強さ」があると胸を張る。まずは、オリンピックでのメダル獲得者が多いこと、今年のサッカーのUEFA欧州選手権(EURO)でベスト16進出国の中で最も小さい国の1つであるといったことといったスポーツ競技にふれる。続いて、話題は芸術へ。12、13世紀の詩人ショタ・ルスタヴェリ、19世紀後半から20世紀前半の画家ニコ・ピロスマニら世界的な芸術家を生んだこと、20世紀初頭から映画産業が盛んであることを例に挙げ、精神面での強さは芸術にも発揮されていると語りかける。
バレエに関しては「まさにスポーツと芸術を掛け合わせた、そういうものだと認識しております」と述べる。20世紀バレエの開拓者である振付家ジョージ・バランシンのルーツがジョージアにあり、歴史的な名バレエダンサーのワフタング・チャブキアーニは同国出身であることを指摘し「世界的に多大な影響を及ぼしております」と誇る。現在では、アナニアシヴィリの活躍を喜ぶ。「私は日本において、ジョージアらしさを日頃から大変アピールしております。まさにそのエネルギーになるものですね。こういう素晴らしい方が、自分の国に貢献している。かけがえのないアイデンティティがあるというのが、私の原動力・自信になっております」と称賛した。
■ジョージア国立バレエが誇る、独自の『くるみ割り人形』が登場!
アナニアシヴィリは「日本でクリスマスの時期に公演するのは初めてだと思います」と話した。今回上演する『くるみ割り人形』は、ピョートル・チャイコフスキー作曲による三大バレエの1つで、時代を超えて広く愛される名曲なのは周知のとおり。チャイコフスキーに関して、アナニアシヴィリは「チャイコフスキー自身がトビリシをとても愛していました」と語り、チャイコフスキーがジョージアからインスピレーションを受けた楽曲のエピソードなどを紹介した。
ジョージア国立バレエの『くるみ割り人形』は、アレクセイ・ファジェーチェフとアナニアシヴィリが振付・演出したオリジナル版。ジョージアを舞台にした、ある医者の家族の物語だ。「私たちの『くるみ割り人形』は特別でユニークです。もちろんクラシック・バレエ作品ですし、物語も従来のものですが、ジョージア風といいましょうか、ジョージアの文化があちこちに現れています。ジョージアの踊り、独特な民族舞踊みたいなものが入っています」と説明する。「とくに強調したいのが舞台装飾です。ジョージアの著名な芸術家デイヴィド・ポピアシヴィリが自身の手で描いてくれた装飾を使っています。子どもをおとぎ話の世界に連れていってあげるような作品です」と形容し、「12月の公演で皆様にお目にかかることを楽しみにしています」とほほ笑む。
監督在任20年を振り返り「あっという間でしたが、これまでに私が手がけてきた仕事の結果を今見ることができていることをうれしく思っています」と手ごたえを感じている。本拠地での公演はシーズンを通して満席状態で、例年6月末に行う国際バレエフェスティバルも始めて5年となり軌道にのっているという。「とても才能がある若い世代のダンサーが活躍しています」と新世代の台頭が頼もしい様子。古典に加えてバランシン作品などを導入し「レパートリーも充実しています」と自負する。海外ツアーも多く、この8月には英国ロンドンでの2週間のツアーを控える。
サマダシヴィリはジョージア国立バレエの中心的なダンサー。『くるみ割り人形』の主役を踊るに際し心がけていることをこう話す。「金平糖の精の踊りが特に好きで、音楽も大好きです。音楽に対して精確さが求められる踊りのパ・ド・ドゥですが、とくに注意を払っています。踊るのが楽しくて仕方がないのですが、アナニアシヴィリさんもおっしゃるように難しい踊りです」。また2024年7月~8月に開催される『バレエの妖精とプリンセス』『親子で楽しむ夏休みバレエまつり』にも出演。「日本の観客の皆様の前で踊ることは大好きです。日本の全てが好きです。文化、食事、そして観客の皆さん!」と意気込んでいる。
■「長い歴史を誇る芸術を通して、ジョージアという国を知ってほしい」
アナニアシヴィリは往年の大スターらしい華やぎと芸術監督としての落ち着きのある表情を兼ね備えている印象で、会見での発言も明晰にして重みがある。レジャバ駐日ジョージア大使はアナニアシヴィリとは中学生の頃に初めて会ったと振り返るが、ジョージアにとってどのような存在かと問われると「上司である外務大臣や大統領と話すときも緊張しますが、ニーナさんと話すときは、それよりも緊張します。それくらい彼女は偉大なる存在でありまして、さきほど"人間国宝"だと言いましたが、かけがえのない存在です」とあらためて敬意を表す。
ちなみに、レジャバ駐日ジョージア大使がバレエを初めて観たのは日本に住んでいた若き日で、来日したアナニアシヴィリの舞台に接していたという。「ジョージア人を通して、要するに自分の国の人を通してバレエを知ることができたのは贅沢なことだったと今では考えます。日本にいる私たちの子どもたちも、ジョージアのバレエ団を通じて日本でそういうものにふれることができるのは素晴らしいことなのではないかと思います」と話し、12月の来日を心待ちにする。
ジョージア国立バレエの今後の展望に関して、アナニアシヴィリは「なによりも考えていることは、私の名前から独立していくことです。ジョージア国立バレエという名前だけで飛び立っていけること。それが私の一番のミッションであり願いです」と述べた。そして「海外公演に際して、ジョージアという国があること、その国から来た芸術だということを知ってもらうことが非常に重要だと考えています。ジョージアは芸術において長い歴史を誇り、私たちの劇場では過去に172シーズン公演してきました。その歴史を通して、世界中の人々がジョージアという国を知ってくれるようになることを期待しています」と前を見据える。
会見後、ジョージアの文化や世界最古の歴史を持つとも言われるジョージア・ワインについて、アナニアシヴィリとレジャバ駐日ジョージア大使によるトークを中心にしたミニ・イベントが設けられた。ジョージアと日本の友好の輪がさらに広がることが期待される。
【2024年12月開催】ジョージア国立バレエ「くるみ割り人形」PV
取材・文=高橋森彦