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小松和重×平田敦子×久ヶ沢徹 サモ・アリナンズプロデュース『蹂躙さん』座談会~子供からお年寄りまでわかりやすい“最上級にくだらない”勧善懲悪物語

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(左から)平田敦子 小松和重 久ヶ沢徹

例えば、久しぶりに会った友達と呑んだ帰り道。何を喋ったかなんて一つも覚えてないけれど、ゲラゲラ笑った感覚だけは身体にしっかりと残っている……「サモ・アリナンズ(サモアリ)」の舞台は、こんな楽しさを舞台に乗せられる稀有な劇団だ。そんな彼らが7年ぶりに始動(サモ・アリナンズ プロデュース第28弾『蹂躙さん』2025年3月23日~31日 下北沢 ザ・スズナリ)。さらに、これが最後の公演になると発表した。客演に荒川良々と宮藤官九郎を迎え、“最上級にくだらない勧善懲悪物語”で33年のファイナルを飾るという。往年のコアなファンも、近年彼らを知ったアナタも、おなじみのメンバーが勢揃いするラストをお見逃しなく。座長の小松和重、そして旗揚げメンバーである久ヶ沢徹、旗揚げからの常連客演平田敦子、湿っぽさゼロ、舞台さながらの笑い声の絶えない座談会をどうぞ。


―― サモアリ7年ぶり最後の本公演が、来年3月に行われます。まずは、このタイミングで「ファイナル」にしようと決めた理由から教えてください。

小松 劇団員の年齢はどんどん上がっていくわけじゃないですか。そうすると年々、身体を動かすのがしんどくなってくるんですよ。

久ヶ沢 きっと面白いことを思いついて実行できる、体力の限界ギリギリが今ですよね。

小松 あとほら、うちは乱暴なツッコミとかしちゃうから。やっぱりこのご時世は厳しいですよ。敦子が本領発揮できなくなるから。

平田 暴力を奪われたらね、なんにも残らないですよ。

―― いやいや(笑)。サモアリはアドリブも満載で舞台もエネルギッシュ。コメディは体力勝負ですから、おそらく皆さんが納得して、心身ともに充実して“サモアリ・ラスト”を飾るための「今」なんでしょう。上演作品は『蹂躙さん』。上演の都度タイトルこそ変わってきましたが、旗揚げや本多劇場進出など、劇団が節目節目で再演を繰り返してきた作品です。

小松 内容としては勧善懲悪の学園番長モノなんでね。子供からお年寄りまで、わかりやすい芝居だと思いますよ。

小松和重

―― 皆さんが初演と同じ役を演じるメモリアルな最後。演じる役について説明いただけますか。

小松 僕が演じるのは、関東一強い総番長です。

平田 その“マブ(彼女)”です。

久ヶ沢 悪の中の悪、悪の象徴のような役です……これで伝わらなかったら、もう伝えることはありません!

(一同笑)

久ケ沢徹

―― 逆になんかすいません、伝わるものがありました! 宮藤官九郎さんと荒川良々さんという豪華W客演。お二人ともサモアリのゲストではお馴染みですね。

小松 荒川くんは昨年末に酔っぱらって、「サモアリ、やるんでしょう? 俺、出ますから」って僕に動画を送ってくれていたんですよね。

―― お〜。

小松 嬉しいですよね。続けて「ダメ元で宮藤くんにもオファーしてみよう!」と動いてみたら、こちらも快諾してくれて。ありがたい限りです。

久ヶ沢 多分、宮藤くんにとっては、これがリベンジなんだよ。以前サモアリに出たのを宮藤くんの奥さんが観て「つまらない」ってダメ出しされたらしくて(笑)。

小松 あー、それ打ち上げでも言ってたね。サモアリに出るたびに「あなた全然ダメだった」って言われるって。俺らは十分、面白いと思っているんだけど。実はこの『蹂躙さん』という作品は「週刊少年チャンピオン」で連載されていた「Let'sダチ公」ってツッパリ漫画がイメージなんです。偶然、宮藤くんが書いたドラマ「不適切にもほどがある!」でもこの漫画を取り出す場面があって、「ちょっと待って、俺らの方が先だぞ!」ってなりましたよね(笑)。

―― 偶然とはいえ、ゲスト出演のフラグ状態だったんですね……! 1992年初演時の思い出を教えてください。

小松 旗揚げ公演にもかかわらず、ものすごくお客さんが入ってくれたんですよ。なんせあの手、この手でだましましたから。

―― だましたとは?

久ヶ沢 まずは、当時キャラメルボックスと同じデザイナーさんに依頼して、すごい可愛らしいチラシでキャラメルファンを取り込んで。

小松 あとは声優の皆口裕子さんを客演に呼んでね。そうしたら、第一回にもかかわらず動員が1000人超えたんですよ。

『マリーラフォレはもう聞かせないで~熱血!暴れ太鼓編~』 1992年(初演)

―― すごい。

久ヶ沢 そこから回を重ねるごとに、一人去り、二人去り……。

(一同笑)

久ヶ沢 だから、昔から観てくれていて、ファイナルにも足を運んでくれる人なんて、ホント宝くじみたいな確率じゃないですか? 今回、情報解禁後に「X」でエゴサーチしたら、「サモアリ、昔観たな」って書いている人がいて……。

小松 いいねぇ。その人フォローして来てもらおうよ。

久ヶ沢 でも反応が「また行きたい」じゃないのが気になるんだよ。

(一同笑)

平田 そういえばさ、旗揚げ公演前にみんなで合宿したよね?

久ヶ沢 山梨まで行って。

小松 稽古なんて一度もしないで、酒呑んで笑ってたことしか覚えてないけど。

久ヶ沢 大体、夜はずっとツイスターやってたし。

平田 いや、帰る日の朝に「ちょっと読もうよ」って読み合わせした記憶があるよ。

小松 「せめて1回ぐらいは読むか」ってなったんだろうね。

久ヶ沢 合宿中に 宣伝写真用の撮影もしたじゃない?

平田 そう、覚えてる! 2台のレンタカーを借りて「次パーキング入るよ」とか、トランシーバーで喋りながら撮影場所に移動して。あれが……「すげえ楽しい!」って思ったな。

(一同笑)

久ヶ沢 なんの感想だよ! しばらく真剣に聞いて損したよ!(笑)

平田 あっちとこっち、別の車と会話できるんだよ? 信じられないよ。

平田敦子

―― 90年代にはまだ、スマホなんてありませんでしたもんね(笑)。ちなみに基本的なことを伺うのですが、劇団結成前の出会いについて伺えますか。

平田 久ヶ沢さんと(作・演出を担当していた故)倉森(勝利)くんが通っていた養成所の先輩がつくった劇団*に、二人と私が客演したことがあって。小松は高校生の時からそこに所属してたんだよね。

*「劇団、僕らの調査局」、のちの「TEAM僕らの調査局」「ニンジンボーン」。80年代〜90年代の小劇場で活動し、ファンも多い伝説の劇団。

―― そこで意気投合し、自分たちの劇団を始めようと。

平田 意気投合? いや、別に。

(一同笑)

久ヶ沢 今だって仕方なく一緒にいるみたいなもんだよ!(笑)

―― そこは“奇跡の出会い”にさせてください……。長い活動の中で、ひときわ印象に残る瞬間や公演はありますか?

久ヶ沢 さっき別の雑誌の方にも同じこと聞かれて、僕たち、一つも出てこなかったんですよ。

小松 つい脇道の話ばっかり盛り上がっちゃうんだよね……。あ、スライムピープル*は印象に残っているかも。「大阪と東京の精鋭を集める」と宣言して、遊気舎と俺らの合同で開催したんです。大阪側は山内圭哉、楠見薫、川下大洋、福田転球と本当に凄かったけど、サモアリは「どこが精鋭なんだよ!」って言われて(笑)。

*1999年扇町ミュージアムスクエアと駅前劇場で上演、スライムピープルプロデュース ゴミ公演『恐怖!スライムピープル襲来』。後藤ひろひと&倉森勝利の作・演出。

平田 東京組は佐藤誓さん(当時花組芝居)も参加してくれたんだよね。

小松 そう、そう。それで東京公演のマチソワ(昼夜)間の休憩時間に、転球さんが急に「安全チェックしまーす」とか言い出して……。

(全員が思い出し笑い)

久ヶ沢 (当時の様子を)説明するとですね、みんな休憩時間ですから、駅前劇場の客席でダラダラしていたわけですよ。そうしたら転球さんが突然ガチ袋(大道具が腰に下げる工具入れ)をつけて、「点検しまーす」とか言い出した。それで舞台セットをガンガン!ガンガン!と叩いて、上手にあった回転扉から登場する動きを何度もやるんです。繰り返すうちに、ジャージがなくなり、ズボンがなくなり、どんどん軽装になって……最終的にはガチ袋のみ。「転球劇場」ですよ。

小松 あれは笑ったな〜! みんな寝っ転がって休んでるのに、いきなりそんなこと始まるから……ほら話が脇に行くんだよ(笑)。

『蹂躙』1997年(3回目)

―― では改めて、皆さんが感じる「サモアリでしか得られない楽しさ、面白さ」を教えてください。

小松 サモアリは、その場の会話とかその日の空気が、一番楽しめる場所だと思っているんですよ。すごい自由なんです。それでいて一番緊張もしますし。

平田 緊張するよね。舞台上で遊んでるみたいな体感もあるんだけど……。内輪ウケともまた違うし。

小松 常に「これウケないんだ」「あ、これはウケるんだ」っていう綱渡り状態というか、ヒヤヒヤがお互いに伝わってくるし、出演者同士で探り合いながら、どうにか持っていくんですよ。これって絶対に他の舞台で経験できないんだよなぁ。「どうする、どうする」っていう時間。これが好きなんでしょうね。

久ヶ沢 普通、演出家に怒られるからそんなリスキーなことしない(笑)。サモアリで「よし」とされていることって、他でやると大概叱られるよ。

平田 サモアリでは“クスクス”よりも“ドッカン!”と笑ってほしい気持ちが強いんですよ。これは、よそに出ている時はない感覚かもしれません。でも最後の公演から7年のブランクがあるじゃない? これは怖いし、緊張しますね。

久ヶ沢 俺たち、なまくら刀になっているかもしれないから。

平田 (つぶやくように)なまくら刀……。

久ヶ沢 うん、“なまくら”。漢字で書ける?

平田 …………(急に大声で)ひらがなでしょ!!

久ヶ沢 そんな声量で言うことじゃないでしょ!

小松 あはは、基本サモアリはみんな声がデカいんですよ。

―― 本日はいろいろな楽しい思い出をお話いただき、ありがとうございました。最後に、お客さまへのメッセージをお願いいたします!

平田 面白くなかった場合、絶対SNSに悪口は書かないでください。

久ヶ沢 それ、メッセージじゃなくてお願いだから……。まあでも、肩の力を抜いて、温かい目で観ていただければと思います。

小松 なんだろうなぁ……。「昔、サモアリ観たよ」って方も、初めて見る方も、過度な期待はせず(笑)、 優しい心でハードルは低めにご覧ください。とにかく楽しんで帰ってくれれば嬉しいです。

取材・文=川添史子  写真撮影=福岡諒祠(舞台写真を除く)

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