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Z世代に薦めたいデヴィッド・ボウイ!ベルリンで録音された2枚の前衛アルバムに要注目

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1977年10月14日 デヴィッド・ボウイ のアルバム「ヒーローズ」発売日

Z世代に語り継ぎたいロック入門ガイド Vol.5
デヴィッド・ボウイ

1970〜80年代のニューウェイヴを風化させぬよう語り継ぐ、温故知新型洋楽ガイド


今や化石化した “ニューウェイヴ” という音楽ジャンル。でも実は現代のロックにつながる重要な源流のひとつです。リアルタイム世代にとっては懐かしく、若い世代にとっては3周回ってカッコよく見えてくる 。

そう、平成生まれのニューウェイヴ伝道師として活動中の筆者が、“Z世代に語り継ぎたいロック” を、1970〜80年代のニューウェイヴを中心に、独自&後追いならではの視点からお届けします。めくるめく刺激とツッコミどころ満載なこのジャンルを風化させぬよう語り継ぐ、温故知新型洋楽ガイドをお楽しみください。

デヴィッド・ボウイとは何者なのか、どんな音楽を作り何が凄かったのか?


今回は1月10日の命日を偲んで、デヴィッド・ボウイを取り上げたい。“ニューウェイヴ” という音楽ジャンルができ上がるにあたって最大の礎となった人物であり、音楽史全般においても言わずと知れたロックスターである。しかし、その名声に対してアーティストとしての実態を説明しようとすると、決まってちょっと困ってしまう… そんな人は正直多いはずだ。ボウイとは何者なのか、どんな音楽を作り、何が凄かったのか。考えれば考えるほど、その正体がおぼろげな人はデヴィッド・ボウイを差し置いて他にいないだろう。

リアルタイムで彼の変容を追い続けたファンならまだしも、問題は我々、後追い世代。ボウイの最大の功績といえば、音とヴィジュアル表現が常に一緒にあったという点で、それはミュージシャンという枠を超えて、彼自身が総合芸術であり続けたこと。とはいえ、時代ごとに作風もキャラクターもまるで一貫性が無い(ように見える)し、現代のZ世代でも知っているようなヒット曲もほとんどないのだから、何が凄いのかいまいちピンと来ていない若者は多いんじゃないだろうか。

以前の前衛性がスパイス的に上手く残されているアルバム「レッツ・ダンス」


かろうじて皆さん耳馴染みがあるだろう最大のヒット曲「レッツ・ダンス」(1983年、英米ともに1位)にしても、その評価は一筋縄ではいかない。それ以前からファンだった人々の間では “ボウイが売れ線に走った” だの、“MTVに魂を売った” だの、散々な言われようが今でもあるみたいだ。実際に同曲を含むアルバム『レッツ・ダンス』は、それ以前の作風から極端に舵を切ってセールス的に大当たりした作品だ。しかし、彼がアルバムを発表するたびに見せてきた新たな音楽性への挑戦を考えれば、このアルバムだって立派なボウイの真髄の1つだし、ポップになったといえども、それ以前の前衛性がスパイス的に上手く残されている。

けれど、『レッツ・ダンス』以前と以後で確実に変わったのは、世間のボウイに対するイメージだ。誰もが知る伝説の存在として認識する後追い世代には想像しがたいが、ボウイ自身が “『レッツ・ダンス』をきっかけに、それまでカルトだった僕が急にメインストリームに出て、最初は居心地悪かった” と語っているように、1980年ごろまでのボウイは紛れもなくカルトのカリスマだったのである。

これだけの変遷を重ねたボウイだけに、後追い世代的にはどこから手をつけていいのか悩むのが問題。結局、最も伝説化されている『ジギー・スターダスト』(1972年)をメインとするカルト時代の1970年代グラムロック期、もしくは『レッツ・ダンス』を中心とする1980年代に二分されがちだが、このどちらを入り口とするかでボウイのイメージは大きく変わるので、その後も聴き続けるか否かの命運も分かれるところだ。

Z世代にオススメしたい1977年にリリースされた2枚のアルバム


しかし、ここで敢えて、ボウイ・ヒストリーの中でも最も難解で取っ付きづらいと言われがちな “ベルリン時代” と呼ばれる、1977年にリリースされた2枚のアルバムをZ世代にオススメしたい。それが、1977年にリリースされた2枚のアルバム、『ロウ』と『ヒーローズ』である。どちらも元ロキシー・ミュージックでアンビエントの祖、ブライアン・イーノとの共作で、音楽性も構成も似ている双子のような作品だ。

オススメする理由は、時代を先駆けた作品が多いボウイのアルバムの中でも、最も流行に左右されない不変の輝きがあると考えるから。グラム期のように後世であまりにも語られ過ぎ、真似され尽くした作風とも違った、今聴いても完全に孤高の作品だと思えるからだ。何より、この時代の音楽性は、その後に生まれるニューウェイヴという音楽ジャンルに最も影響を与えていると同時に、現代のインディロックやエレクトロニカ、例えば “ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー” に代表されるような現在のアンビエント好きにとっても、取っ掛かりとなってくれるであろう色褪せない魅力がある。

どちらもA面はヴォーカルメインのロックサウンド、そしてB面はシンセサイザーを中心に据えた、非常にダークで厳かなアンビエントミュージックという内容。両面で陰陽がパキッと分かれていることが大きな特徴である。この頃、薬物中毒に陥っていたボウイが療養を兼ねてベルリンに拠点を移し、そこで盟友イーノと一緒に、心酔していたジャーマンプログレ、いわゆる “クラウトロック” を取り入れて録音したというドイツとの深い関わりから “ベルリン時代” と呼ばれている。

パンク以後のニューウェイヴの音楽性を予見した「ロウ」


ちなみに、ニューウェイヴという音楽は1978〜79年頃、それまでパンクをやっていた連中が、そのブームが終焉した焼け野原からパンクのアティチュードを継承し、新たに構築したジャンルである。そしてその音楽性は、パンクの反骨精神を保ちながら、それ以前の様々なジャンルの音楽を内包しているのが特徴なのだが、その大きなインスピレーション源というのが、クラフトワーク、ノイ!、カンといったバンドに代表されるクラウトロックだったのである。

そう、それまでのロックにクラウトロックを取り入れ、パンク以後のニューウェイヴの音楽性を予見した『ロウ』の内容は、的確すぎるほど先駆的であった。このすぐ後にニューウェイヴのムーブメントが起こったことを考えても、自分たちのシーンが飽和状態だったパンクスにとって “俺たちが次にやりたかったのはこれだ!” といった音楽を既に完璧に作り上げていた。ロンドンパンク全盛期のシーンで、パンク以外の音楽なんて全部無意味だ、との信条を掲げていた過激派パンクスの間でも『ロウ』だけは聴くことを許された数少ないアルバムだったという。

ロバート・フリップが荘厳なギターを聴かせてくれる「ヒーローズ」


『ヒーローズ』に関しては、A面に収録された表題曲「ヒーローズ」だけがあまりにも有名で、この曲でボウイと初タッグを組んだキング・クリムゾンのロバート・フリップがその変態性を抑えた荘厳なギターを聴かせてくれる泣きの歌ものだが、アルバム全体で見ると、やはり浮いた感のある異色の曲だ。ただタイトルに関しては、プログレッシヴなノイ!の曲「ヒーロー」(1975年)から拝借されており、いかにこの時期のボウイがクラウトロックにハマっていたかが窺える。

『ロウ』のたった数ヶ月後に録音された『ヒーローズ』は前作よりもファンキーでロック味が強くなっており、こっちの方がニューウェイヴを先取った感は強い。クラウトロックへの憧れからプログレッシヴな音楽性が強い『ロウ』を作った経験を、それまでボウイ自身がやってきたソウル / ファンクやロックンロールといった音楽へと短期間でしっかりと落とし込み、さらなる新境地へと挑もうとした姿勢が感じられる。

先鋭的なボウイのソングライティングセンス


このように、当時の若者たちには賞賛を持って迎えられた『ロウ』、そして『ヒーローズ』。現代において難解なイメージが付きまとうのは、やはりB面のアンビエントサイドのせいだろう。どちらのアルバムもボウイのイメージを大きく覆すような不気味なインストが並び、A面とのあまりのギャップの大きさに、初めてのリスナーが困惑してしまうのも無理はないかもしれない。

しかしこのアンビエントサイド、一見難解でもその後の電子音楽を10年先、ともすれば30年くらい先を予見したような音作りだとも思うのだ。『ロウ』における「アートの時代」「嘆きの壁」といった曲でのシーケンサーの使い方などは、“OMD” のような80年代エレポップバンドにも見受けられるし、ボウイのソングライティングセンスも先鋭的。

また、『ヒーローズ』におけるイーノとの共作「モス・ガーデン」などは今日のアンビエントミュージックや映画音楽、晩年の坂本龍一にもそっくり受け継がれている。クラフトワークのフローリアン・シュナイダーに捧げた「V-2シュナイダー」「ノイケルン」では、ボウイ自身による超アヴァンギャルドなサックスを聴くこともでき、アルバム全体の不気味さに拍車をかけている。

ボウイとイーノの ”アイディア” の結晶


ところで、アンビエントの大家とされるブライアン・イーノだが、彼の活躍が、『ロウ』『ヒーローズ』双方のB面だけに留まっていたのかというとんなことはなく、A面のロックサイドでもその影響が感じられる部分がある。例えば『ロウ』のA面曲の歌詞には意味不明な言葉の連なりが聴こえるが、これは、以前からイーノが自身の作品を制作するにあたって用いてきたオリジナル手法 “オブリーク・ストラテジーズ・カード” にヒントを得たのではないか。

これは創作活動に行き詰まった時のためにイーノが考案した言葉のタロットカードのようなもので、ランダムに書かれたカード上の概念にしたがって詞や曲を書いていくというものだ。このように偶然性に委ねた手法を音楽制作に用いるイーノのやり方に、ボウイが影響された部分は大きかったのではないだろうか。当然のことだが、ボウイの歴史の中でも際立って前衛的なこの2枚のアルバムは、ボウイとイーノの ”アイディア” の結晶に他ならない。この2枚はA・B面それぞれの陰陽をまとめて味わって欲しいので、なんとしてもアルバム全体を通して聴いていただきたい。

そのキャリアの中で、それぞれ異なった音楽性で複数の黄金時代を築いたデヴィッド・ボウイ。その事実だけで彼の伝説を語るには十分すぎるほど、やはり彼は天才だ。天才には違いないのだが、グラムロック期にしろ80年代ポップ期にしろ、いつもその影には強力な右腕がいたことも忘れてはならない。そんなボウイとイーノの先取りの気性が如実に現れたことで、ボウイの作品の中で最も前衛的だとされる “ベルリン時代” は生まれたのである。

40年以上に渡り多種多様な “デヴィッド・ボウイ” を演じてきた歴史


ボウイの歴史とは変容の歴史。と世界中の評論家が口を揃えて述べるところだが、元々はロックンロール・フリークだった少年が、蓋を開けてみれば40年以上に渡り多種多様な “デヴィッド・ボウイ” を演じてきた歴史を振り返ると、彼は一貫して “音楽家であろうとしなかった” と言えるかもしれない。

その信念と反骨精神はやはりパンクであり、ニューウェイヴだなあ、と改めて思わされる。ニューウェイヴとは本来、ヒットチャート狙いじゃない音楽であり、パンク由来の反抗に、古きと新しき、一見相容れぬ音楽や文化をゴチャゴチャに異種交配して、破壊と再生を繰り返していく、そんな先鋭の音楽なのだ。ーーそれってつまり、デヴィッド・ボウイが生涯にわたって提示してくれたアティチュードそのものじゃないだろうか?

最後に、ボウイがアーティストとして常に心がけてきたというモットーを引用したい。ある人にとっては、もしかしたら容易に真似できる概念なのかもしれないが、私のような音楽オタクにとってはなかなか獲得し難い、しなやかさとカッコ良さに溢れた姿勢だ… 憧れる。

「僕は僕の音楽の奴隷ではない。音楽は僕のために鳴っているんだから。その代わり僕にはアイディアがある。そのアイディアにはどの音楽が相応しいのか選ぶのは僕なんだ。僕は “アイディア” に対して常に忠誠心を向けるべきだと思っているんだ」

(2002年、ロッキング・オン) より

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