【第48回静岡県高校演劇研究大会初日 】 パラレルワールド、寸劇の連なり、源氏物語翻案、ダークファンタジー
静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。今回は11月23~24日に菊川市の菊川文化会館アエルで行われている2024年度静岡県高等学校総合文化祭演劇部門・第48回静岡県高等学校演劇研究大会の初日リポート。県東部、中部、西部の各地区から推薦された12校が出場。1日に6校ずつ上演し、上位2校が来年1月の関東高校演劇研究大会への出場権を得る。(文・写真=論説委員・橋爪充)
◇浜松西 「つづきのはなし-A boy misses you-」
学校の大鏡がパラレルワールドの出入り口に。舞台に持ち込まれた高さ2.5m幅1.5mはあろうかという木の枠が、鏡になったり教室の引き戸になったりする。2011年の東日本大震災が下敷きになっているが、登場人物の「ユミカ」の地震や原発事故の記憶は曖昧。演じる部員たちも当時は幼かっただろう。物語と彼らの記憶のありようが重なって見えた。
◇星陵「あゆみ(弘前中央高校版)」
「はじめの一歩」が強調されて始まり、同じせりふで幕を閉じる。一人の女性の生涯を矢継ぎ早に繰り出す寸劇で描くが、全編の5分の4ほど進んだ所に「折り返し地点」がある。冒頭のせりふが、終幕時は全く違って聴こえる。女性が長年連れ添った夫を亡くす場面が、腰を曲げた人物が舞台を斜めに横切るという無言劇で表現されていて、思わず落涙した。
◇伊豆伊東「ラフ・ライフ」
学級委員の小笠原薫は、クラスメイトの黒崎希から漫才コンビ結成を懇願される。黒崎には、崩れてしまった家族の絆を「お笑い」で取り戻そうという切なる願いがあった。2年前に三島南が演じて関東大会進出を勝ち取るなど、過去に数多く取り上げられた有名戯曲に挑戦。テンポのいいせりふのやりとりが、クライマックスの漫才まで切れ目なく続いた。
◇浜松聖星「肩甲骨がかゆい~天使になれない私たち~」
同校を思わせるミッションスクールを舞台に、女子高校生たちの他愛もないおしゃべりが連綿と続く。自習室にパソコンを持ち込み、締め切り間近の課題に取り組む生徒たち。だしを使わないみそ汁、麻雀ブーム、チャットGPT、生理休暇、SNSアプリ「ビーリアル」…。とりとめもない話の連鎖が、「高校生でいられる」幸せを存分に表現していた。
◇清水南「しんしゃく源氏物語」
源氏物語第六帖「末摘花」を演じる演劇部を演じる、という入れ子構造の演目。来訪が絶えて久しい源氏の君を待ち続ける姫だが、荒れ果てた屋敷からは奉公人が次々離れていく。そんなストーリーラインを部員が次々やめていく演劇部に重ねていた。絢爛豪華な衣装、スリットドラムやトーンチャイム、和太鼓を効果的に使った劇伴も印象的。
◇浜松市立「軍神、二人。」
「母親殺し」という物騒な言葉の連呼で始まるオリジナル劇。若き軍人カルリは「軍神」とも言うべき隊長ユーリウスの部隊で才を磨くが、戦争という「悲劇の連鎖」の中でしか力を発揮できない自らに葛藤を覚える。詰め込んだせりふとボディーアクションが異形のグルーブを生んでいた。シルエットを多用した舞台のシンメトリー構成が緊張感を高めた。