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【独占】イーロン買収後の激動、日本初の開発拠点立ち上げの思惑とは? X日本法人代表・松山歩が明かす

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【独占】イーロン買収後の激動、日本初の開発拠点立ち上げの思惑とは? X日本法人代表・松山歩が明かす

激動の2年間だったーー。X(Twitter Japan)代表取締役の松山歩さんは、イーロン・マスクのTwitter買収からの変化をそう振り返る。

2022年10月、Twitterを買収したイーロン・マスクが同社CEOに就任。取締役の解任や大規模な人員整理、非上場化、社名変更などが矢継ぎ早に実施され、大胆な経営変革が行われてきた。

「Xは以前とは全く違う会社に生まれ変わった」と松山さんは明かす。

だが、痛みを伴う改革によって『X』はいま、一つの「ソーシャルアプリ」から、生成AIやペイメント機能などユーザーの生活に必要なあらゆる機能を搭載した「Everything App(万能アプリ)」へと生まれ変わるためのスタートラインに立った。

そして、この目的を果たすために満を持して実施されるのが、日本初となる開発チームの立ち上げとエンジニア採用だ。すでに数名が入社しており、今後も引き続き採用を行っていく予定だという。

この開発チームをトップとして率いるのは、現在同社でCTOを務めるイーロン・マスク(以下、イーロン)。彼が日本のエンジニアに寄せる期待とは一体何なのだろうか。

X (Twitter Japan株式会社)
代表取締役
松山 歩さん(@ayumu_matsuyama)

X (Twitter Japan株式会社)
代表取締役
松山 歩さん(@ayumu_matsuyama)

Twitter Japanの代表取締役 として、国内の広告事業を統括。1999年東京大学工学部卒。99年から2005年までは読売広告社にて営業を担当し、インターネット広告の提案活動を推進。06年から14年までは、日本マイクロソフトにて、広告事業部門の部長として主に広告会社様担当組織をリード。14年、Twitter Japan入社後は広告主担当部門の部長として主に、消費財、通信業界等を担当。19年からは執行役員、広告事業本部長として、国内大手広告主様担当部門をリードし、顧客中心主義の組織構築、業務運用体制の構築に従事

日本の開発拠点立ち上げは、長年の悲願

そもそも、Xにとって日本は最も活発なユーザー基盤を持つ重要な拠点だ。

同社が指標として定める「ユーザー・アクティブ・セカンズ」(利用者数×平均の滞在時間)と一人当たりの投稿数は、世界で圧倒的な一位を誇る。さらに、一日あたりの利用者数は約4000万人。月間では約6700万人にものぼる。

「日本のユーザーは、すごくクリエイティブに『X』を使ってくれています。大喜利のような独自の文化があったり、さまざまなフィルターを駆使して高度な検索を行っていたり。こうやって『X』を使いこなしてくれる人たちが求める機能こそが、われわれにとって『正しい機能』です。

今後『Everything App』を目指すためには、洗練されたユーザーが多くいる日本からイノベーションを起こしていくべきなのではないか。そう考えて、日本に開発拠点を置くことになりました」

実は、日本に開発拠点を置く目論見は、イーロンが同社を買収する以前からあった。だが、長らく実現には及ばなかったのは、「開発はセントラライズド(中央集権化)されるべき」という思想が強かったからだ。

しかし、イーロンの徹底した現場主義によって状況は一変。同社にとって重要な拠点で課題解決に取り組むためには、「その場にエンジニアがいるべきだ」という判断が下された。

「イーロンが嫌うのは、チェーン・オブ・コマンド。要は、組織が縦割りになっていたり社内に階層がたくさんあったりすることで伝言ゲームが起きてしまい、問題を正しく把握できないこと。これが、ビジネスのスピードも正確さもにぶらせてしまうからです。

日本の利用者が何を欲しがってるのか、エンジニアたちがその場で見て・聞いて・感じて、その場で判断して、すぐに作る。そういうサイクルを高速でまわせる体制をつくっていきたいと考えています」

イーロンに提案、現場発信で課題解決に取り組む

今回、日本の開発拠点で採用されたエンジニアが配属されるのは、広告開発チームとプロダクト開発チームの二つだ。

「生まれ変わったXは、まさにスタートアップ企業。少数精鋭の会社なので、米国本社の開発チームとも密接にコラボレーションしながら仕事をしてもらうことになると思います」

日本の開発拠点で働くエンジニアの上司にあたる人物は、本社のエンジニア。そして、その先にCTOのイーロンがいる。

「イーロンから急に依頼される仕事もあるかもしれないけれど」と前置きした上で、「基本的にはほぼすべての仕事が現場発信で生まれる」と松山さんは言う。

「現場で発見した課題を根本的に解決するにはどうすべきか、エンジニア自身が考えて、上長やイーロンに提案してすぐに改善する。そして、アウトプットに触れたユーザーからフィードバックをもらい、改善を重ねる。日本の開発拠点でも、そういう動きをスピーディーにとっていくことが期待されています」

同社ではこの2年で縦割り型の組織を一切排除。意思決定を速めるために、役職レイヤーを2分の1まで減らし、現在は現場のメンバーからCEOまでを5階層に整理した。「調整ごとに時間を費やすくらいなら、目の前で起きている問題を一つでも見つけて解決すべき」というのが、イーロンの考え方だ。

「イーロンは『ファースト・プリンシプルズ』という言葉をよく使うんですけど、目の前で起きている課題の根本的な原因は何なのかをまず突き止めて、あらゆる手段を使ってその問題を解決に導き、事業をスケールさせることをわれわれに求めています。

さらに、縦割りの組織や役職レイヤーも少ない環境ですから、エンジニア一人一人が自分の役割を制限せずに課題解決に取り組む必要がある。オールラウンダーとして働ける人が高く評価される環境だと思います」

万能アプリ目指す『X』、フェイクニュース対策など課題も

日本に開発拠点を置くと同時に今後Xが目指すのは、『X』をEverything Appへと進化させることだ。その第一歩として、xAIが開発した『Grok-2』のベータ版や動画コンテンツの視聴に特化したタイムラインがすでにリリースされている。

「生成AI『Grok』に関しては、いまイーロンが特に力を入れて取り組んでいる分野で、『X』の各種サービスの中に組み込まれる予定です。例えば、広告プロダクトの中に『Grok』が導入されれば、広告配信先のターゲティングをサポートしたり、投稿するクリエイティブの改善を促したり、さまざまなサポートをしてくれるようになるでしょう」

さらに、スマートテレビ向けのアプリやペイメント機能の搭載など、複数の新たなプロダクトのリリースが近い将来に予定されている。

また、「言論の自由を推進する」というミッションを掲げる同社にとって、大きな課題の一つとなっているのが、フェイクニュース対策だ。先日、英ガーディアン紙がXの利用中止を発表したことが、世界的に波紋を呼んでいる。

「われわれが企業として一番大切にしているのが、言論の自由を推進すること。これは、基本的な人権の一つで、民主主義社会の根幹をなす権利です」

「『自分の本音が言える場所』『人の本音が聞ける場所』を、引き続きわれわれの手で守っていきたいと思っています。

一方、2024年の初めに能登地震がありましたが、その時に、東日本大震災の津波の様子が出回るなど、フェイクニュースによる影響が出てしまう事例がありました。こうした問題に対しては、以前からコミュニティーノートの機能が効果を発揮しており、投稿に注意書きがつくスピードも最速で約20分とかなり向上しています」

コミュニティーノートの運営は、2022年12月からスタート。今では全世界に80万人ほど存在するコントリビューターと呼ばれるボランティアが投稿内容の真偽を確認し、注意喚起のコメントを追加している。

「ただ、『言論の自由』を守りつつ、『X』をさらに安心して使ってもらえる場所にしていくためには、現状の取り組みだけだとまだまだ足りない。日本のエンジニアの皆さんの力も借りて、さらに改善を重ねていきたいと思っています」

日本に新しい開発カルチャーをもたらす

日本に開発拠点ができたことは、『X』が今後サービスを進化させていく上で大きな意味を持つことは間違いない。ただ、「その影響は、社内だけにとどまるものではない」と松山さんは言い切る。

「イーロンと共に働き、Xの開発思想や課題解決の手法を学んだ人が国内に増えていくこと。そして、その人たちが新しい開発カルチャーをどんどん広めていくこと。そうすることで、日本社会の進化をより加速させていくはずです」

Xの社内には、「課題解決のための五つのステップ」という考え方が浸透している。これは、イーロンが事業をスケールさせるために重視する考え方で、このステップにのっとって仕事をすることで、イノベーションが生まれやすくなるのだという。

「これから先、テクノロジーが社会を変えていくことは言うまでもありません。そのような時代にあって、エンジニアの皆さんは人々の生活や行動様式を変え得る大きな可能性を持っています。そんな皆さんが、上記で紹介したような課題解決へのアプローチ方法を習得すれば、日本社会はよりいっそう良い方向に進むはずです」

日本の開発拠点からどんなサービスが生まれるのか、そこで働くエンジニアが日本の開発カルチャーにどんな影響を与えるのか、今後の動向にも注目していきたい。

松山さん写真撮影/竹井俊晴 取材・文/栗原千明 編集/栗原千明、玉城智子(編集部)

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