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いのちを想う② ~マナーニの動物介在教育(前編)~

わんちゃんホンポ

皆さんは「動物介在教育」という言葉を聞いたことがありますか?

もしかしたら、「はて?」と思った方も多いのではないでしょうか。

動物介在教育とは、読んで字のごとく「動物」が「介在」する「教育」のこと。「そんなことは読めばわかる。そうじゃなくて、それがどういう意味なのかを知りたいんだ」という方、ごもっともです。

では、動物介在教育(AAE:Animal Assisted Education)とは何なのか?

動物の世話をし、ときには世話をした動物の死を目の当たりにすることで「いのちの尊さ」を学び、他者を思いやる心を育むこと、これが「動物介在教育」です。

皆さんが子どもの頃、学校に鳥やウサギなどの動物がいて、児童や生徒が交代で毎日動物の世話をしていませんでしたか。動物介在教育の歴史は古く、明治末期から学校で動物が飼育されるようになりました。当初は理科教育のひとつとして行われていたようですが、戦後からは道徳教育のひとつとして、学校での動物の飼育が行われていたんです。

かつては、学校に動物がいることは当たり前のことで、動物介在教育の重要性を声高に訴える必要などなく、日常の光景として動物とふれあう子どもたちを見ることができたんですね。

余談ですが、ミュージシャンの「いきものがかり」の名前の由来は、メンバーが小学生の頃に「生き物係」だったことに由来しているそうです。

3つの”日本で唯一”を持つ「こども笑顔のラインプロジェクト」

一般社団法人マナーニが主催する「こども笑顔のラインプロジェクト」では、座学や犬とのふれあいなどを通じて「犬にも個性や感情があり、いのちは温かくて躍動感にあふれている」ことを体感することができます。

このプロジェクトには以下のような3つの”日本で唯一”があります。

文部科学省・環境省の後援事業東京学芸大学との共同研究によるプログラム開発とふれあい学習による効果検証道徳科としての学習指導案(教育者のための学習指導の計画書)

マナーニが行っている小学校での動物介在教育は、犬の専門家による「ふれあい授業」と、担任教師による「ふりかえり授業」で構成されていることが特徴といえます。単に犬とふれあうだけでなく、体験し感じたことを振り返り考えることで、学びをより深めていきます。

そして最終的に、自分も他人も同じように大切なんだと思う心が育まれ、いのちの営みのすべてを「自分ごと」として考えるようになっていく。これこそが、この授業のねらいなのです。

全国の国公私立小学校が対象で、講師とハンドラーなどの専門家と、1クラス(30名程度)につき5~6頭の犬が派遣されます。

マナーニの授業では、アレルギーや恐怖心のある子どもには条件付きでの参加や離れての参加など、必要な対応がとられています。

また、介在犬は十分にトレーニングされており、事前に適正およびスキル試験をパスして認定を受けた犬だけが参加しています。また、原則として、犬とともにトレーニングを積んだ飼い主とのペアで授業に当たります。

コロナ禍で変化してしまった子どもの「犬への恐怖心」

2014年に始まったマナーニによる動物介在教育は、現在までに126の小学校で行われ、278クラス8,416名の児童が授業を受けました(2024年6月30日現在)。

毎回授業の前に保護者に対して行われる事前アンケートで、子どもに「犬への恐怖心」があると回答した保護者の割合が、2020年まではおおむね7~8%程度で推移していたのですが、2021年以降急激に上がり、昨年までの3年間の平均が24.9%にまで跳ね上がってしまったのです。

原因は、コロナ禍。

長らく続いた「STAY HOME」の暮らしが、子どもたちから冒険心や好奇心、他者との関わりを通して得る心の柔軟性などを奪ってしまったと考えられます。

マナーニが行った教員への取材でも、「新しいことや知らないことへの恐怖心が強くなった」や、「自己中心的な児童や自己顕示をすることが難しい児童が増えた」「話し方がわからない、伝えられない、表現ができない児童が増えた」など、ネガティブな回答が寄せられたそうです。

しかし、授業前と授業後のアンケートを比較してみると、授業前には犬に対して「苦手・恐怖」という感情を持っていた児童の約9割が、授業後には苦手意識を克服できたと回答しています。

たった45分間の授業ですが、実際に「生きた」犬とふれあうことがどれだけ大切かということを、このアンケート結果が物語っています。動画やテキストだけではけっして得ることのできない、貴重な体験だといえます。

マナーニの授業は、飼育意向にも変化をもたらしています。

授業後に行っている児童と保護者へのアンケート調査(2021年~2023年)によると、授業を受けたあと、約3割の児童が「犬と一緒に暮らしたいと思った」と答えています。また、「今後ペット(犬に限らず)との暮らしを検討している」と答えた保護者も、約3割にのぼります。

子どもの体験が親の意識にも影響を与えているのかもしれませんね。

マナーニの授業は、「犬と一緒に暮らしたい」という飼育意向をも生み、飼育者になるための動機づけの場でもあるといえます。

犬のまっすぐな反応が子どもたちの心にダイレクトに響く

コロナ禍が去ったいま、子どもたちにとって大切なのは、さまざまな体験。犬とのコミュニケーションの中から相手を感じ、相手の「きもち」を考えるようになり、そこから「まなび」を得ることができます。

犬はいつだってまっすぐです。よろこびも悲しみもさびしさも怒りも、すべてまっすぐにぶつけてきます。どんな相手にも平等に。だから子どもたちの心にもダイレクトに伝わるのではないでしょうか。

私たち大人がどんなに言葉を尽くしてもできないことを、犬たちはいともたやすくやってのけてしまうのですね。

マナーニが行っている動物介在教育は、とても大切な「種まき」。

学校教育のなかで「犬」とのふれあいを通じて「いのちに興味を持ち、感じ、考える」機会を提供しています。言語を持たない代わりに、体全体を使って感情を表現する犬とふれあうことは、子どもたちにとっての大切な「心の学び」となるでしょう。

犬の温もりを体感して“いのち”の尊さを知り、相手を思いやる心を育み、他人を大切に思うことと同じように、自分自身も大切にする子どもが日本全国にあふれることを願ってやみません。

まとめ

犬は、私たちの身近にいる動物の中でも、特に表現力の豊かな動物です。そして、犬は誰に忖度することもなく、すべての人に平等に接します。嫌なことはイヤ、うれしいとき楽しいときは全身で喜びを表現します。

犬たちは大人にとっても子どもにとっても、単に癒しをくれるだけでなく、温もりや感情表現を通して「いのち」や「こころ」の学びのおすそ分けをしてくれる存在なんですね。

記事の監修

獣医師徳本一義一般社団法人ペットフード協会 新資格検定制度実行委員会委員長一般社団法人ペット栄養学会 理事有限会社ハーモニー 代表取締役日本獣医生命科学大学、帝京科学大学、ヤマザキ動物看護専門職短期大学非常勤講師

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