宇宙一うまい! ほっぺたが落ちそうになる「牛下がり」【福岡市・寺塚】
初めて訪れたのは、もう30年ほど前だろうか。
ネットやSNSなど存在しない時代、「うまい焼鳥屋があるらしい」という噂を聞きつけて、友人と足を向けた。カウンターに座ると、隣では若い女性2人が食事を終えて歓談しているところ。すると焼き場から眼光鋭い大将が女性客に向けて、「あんたたちは焼鳥を食べに来たんね、お喋りしにきたんね」と言い放ったのだ。2人はいそいそと会計を済ませて店を出ていったが、今なら完全に炎上案件。横で見ていた僕らはビビり上がっておとなしく焼鳥を食べていると、これまた鉄火肌の女将さんが「あんたたちは、どこから来たん?」と、声をかけてくれた。「はいッ!今は福岡ですが、2人とも地元は北九州です」「あらっ、私も若松よ」。そんなやりとりから少しだけ打ち解けることができ、しばしば通うようになったのが「元祖 無法松」だ。
ある時、妻と長男が所用で出かけていて、まだ小学校低学年だった次男と連れ立って行ったことがある。ちょうど空いていた焼き場の前に座ると大将はジロリと次男を睨み、「坊やはそこでおとなしく食べられるか?」と訊く。下を向いてモジモジしながら「ハイ」と答えた次男は、およそ10年後の高校生の時に、この店で人生初のアルバイトデビューを果たすことになる。
備長炭を使った焼鳥は何を食べてもうまいのだが、僕が日本一、いや世界一、いや宇宙一うまいと思っているのが「牛下がり」だ。最初に食べた時、あるはずもないのだが「味の素かかってますか?」といいたくなるほど旨味が強く、「ほっぺたが落ちそう」という陳腐な慣用句が浮かんだ。ライターを生業とする身としては語彙力の敗北だが、「うまいものはうまい!」のだ。
そんな「無法松」も今は代替わりし、焼き場に立つ二代目大将の江口竜太さんは、元ラガーマンにしてスイーツ男子というイケメンのナイスガイ。ガンコ親父を絵に描いたような先代とは好対照なキャラながら、「一子相伝」「一串入魂」の精神で焼く「牛下がり」が食べられる限り、僕は通い続ける。
焼鳥・ろばた 元祖 無法松
福岡市南区寺塚1-26-18
092-512-4073