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“愛のかたち”と命のつながり“をモチーフに、失踪と心臓移植の現実を重ねて描く『たしかにあった幻』

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“愛のかたち”と命のつながり“をモチーフに、失踪と心臓移植の現実を重ねて描く『たしかにあった幻』

“愛のかたち”と“命のつながり”をモチーフに、日本の失踪者と心臓移植の現実を重ねて描く珠玉の人間ドラマ。河瀨直美監督の最新作『たしかにあった幻』が、2026年2月6日より公開される。このたび、メインビジュアル2種と、河瀨監督作品の常連である尾野真千子、永瀬正敏ら全キャストが解禁となった。

日本の失踪者と心臓移植の現実を重ねて描く

目に見える形がなくなっても、別の誰かの体や記憶の中で生き続ける命。生かされ、遺された者にできるのは、それが確かに存在した証(あかし)を記憶し続けること。暗闇に目をこらし、大地の囁きに耳をすませば、今はもう会えなくなった彼らがいつでもあなたのそばにいる。

メインビジュアルAは、主人公のコリーが光が差し込む森の中の水辺で耳に手を逆さにあてている姿が映し出されている。そうしていつも聴いている音が違う方向の音を拾う瞬間。全く違った感覚が鼓膜に響き始め、新しい扉を開いた彼女の穏やかな表情が、未来への希望を彷彿とさせる。メインビジュアルBでは、コリーが心臓疾患を抱える子供の手を握る場面と、神の島と呼ばれる世界遺産・屋久島の原生林の神秘を捉えた場面が並ぶ。“医療”と“神秘”のイメージ写真を組み合わせることで、それらもまた繋がりを持ち始める本物語の多層的な構造を具現化している。

メインビジュアルA
『たしかにあった幻』© CINÉFRANCE STUDIOS – KUMIE INC – TARANTULA – VIKTORIA PRODUCTIONS – PIO&CO – PROD LAB – MARIGNAN FILMS – 2025
メインビジュアルB
『たしかにあった幻』© CINÉFRANCE STUDIOS – KUMIE INC – TARANTULA – VIKTORIA PRODUCTIONS – PIO&CO – PROD LAB – MARIGNAN FILMS – 2025

フランスから来日したコリーは、日本における臓器移植への理解と移植手術の普及に尽力するが、西欧とは異なる死生観や倫理観の壁は厚く、医療現場の体制の改善や意識改革は困難で無力感や所在のなさに苛まれる。また、プライベートにおいても屋久島で知り合った迅と同棲を始めるが、お互いが使う時間のズレからくるコミュニケーションの問題に心を痛めていた。そんな中、心臓疾患を抱えながら入院していた少女・瞳の病状が急変するが…。

「幻」とは実在しないものがあるかのように見えること、あるいは存在自体が疑わしいもの、の意に相当する。それを修飾する言葉として「たしかにあった」という表現は、論理的には成立しない。にもかかわらず、相反するワードを敢えて同義的に並べたタイトルは、二項対立を超えてゆく新しい思想を提案する本作の内容を知らしめている。また、この映画は、河瀨直美監督にとって6年ぶりとなる劇映画の最新作でもあり、オリジナル脚本としては8年ぶりである。物語を支えるテーマは二つ。一つは、先進国の中でドナー数が最下位という日本の臓器移植医療について。もう一つは年間約8万人にのぼる日本の行方不明者問題だ。河瀨監督は『あん』(15)で差別と偏見の果てに生きる歓びを人々に与えたハンセン病患者の生き様、『光』(17)で失われゆく視力に翻弄される人生の中で気づかされた新たな愛を獲得したカメラマンの人生、『朝が来る』(00)では特別養子縁組で救われた命の尊さと二人の母の絆など、旧来の常識や血縁とは異なる、他者との関係性の中に存在する「愛」を描いてきた。「死」が終わりではないという気づきの先に、移植医療が人の命を繋いでゆき、「生」の意味を問いかける本作は、第78回ロカルノ国際映画祭でのワールドプレミア上映にて、河瀨監督のマスターピース(傑作)と評された。

主人公コリーを演じたのは、『ファントム・スレッド』(17)『蜘蛛の巣を払う女』(18)などで知られるルクセンブルク出身のヴィッキー・クリープス。聡明な大人の女性であると同時に、時には少女のような無邪気さや脆さをうかがわせ、孤独と向き合う繊細な心の揺らぎとそれゆえの限りない優しさを全身全霊で演じ切る。コリーが屋久島で運命的に出会う謎めいた青年・迅には『爆弾』『そこにきみはいて』(25)など公開作が相次ぎ、連続テレビ小説「ばけばけ」(NHK)にも出演中の寛一郎。河瀨作品には初参加ながら、ワイルドで自由な存在感とある日突然姿を消してしまうような危うさを両立させた。なお、東京国際映画祭コンペ部門にノミネートの『恒星の向こう側』(監督:中川龍太郎)では役者としての河瀨直美と共演も果たしている。

また、『萌の朱雀』(97)で河瀨監督に見出された尾野真千子が最愛の息子を失い、一周忌を迎えた今も罪悪感に苛まれるめぐみを、河瀨監督の短編『狛-Koma』(09)や『主人公は君だ!』に出演してきた北村一輝が元捜査一課の刑事であり、とある事件をきっかけに現在は弁当屋として過ごす亮二を、ドナーとなる少年の父親には近年の河瀨作品に欠かせない永瀬正敏、また母親に早織、心臓病を患う少年、久志の母親・由美に岡本玲、同じく小児病棟に入院中の少女、瞳の母親・裕子に松尾翠、人手不足が深刻な移植コーディネーターの浜野に小島聖、臓器移植医療を担当する小児科医・平坂に平原テツ、迅の父親・英三に利重剛、母親・幸江には中嶋朋子と、錚々たる実力派が顔を揃えた。そして、河瀨監督がオーディションで見出した子役二人、久志役の中村旺士郎、瞳役の中野翠咲の実力派俳優顔負けのリアリティある演技にも注目だ。

『たしかにあった幻』© CINÉFRANCE STUDIOS – KUMIE INC – TARANTULA – VIKTORIA PRODUCTIONS – PIO&CO – PROD LAB – MARIGNAN FILMS – 2025

撮影には『光』と『Vision』(18)で河瀨監督の右腕をつとめた写真家の百々新と、河瀨監督のドキュメンタリー『東京2020オリンピック』(22)の撮影統括を担当した鈴木雅也が参加。音楽は本作が初の映画音楽となりパリを拠点とするピアニスト/作曲家の中野公揮、編集は『殯の森』以降これまでの河瀨監督の劇映画全てを手がけてきたティナ・バスがパリでの編集作業全般を担当した。本作はフランス・ベルギー・ルクセンブルク・日本の合作となっている。劇中で日本の移植医療関係者たちが交わすディスカッションや、心臓移植手術の現場をとらえたシーンは、実際に小児臓器移植に携わる人々の協力のもとで、役者と現役医師や看護師、また映画スタッフが入り混じってドキュメンタリーのように撮影された。さらに世界遺産にも登録された屋久島の、1000年以上生きてきた屋久杉が織りなす光景は、自身が生まれ育った奈良の森や奄美大島の海をはじめとする自然の神秘と一体のフィルモグラフィーを築いてきた河瀨監督だけに、人類の原初的な鼓動のように生命の源たる息吹を放っている。それはまるで地球の記憶のごとく、見るものの魂と響きあってこの世界に提示されてゆく。

『たしかにあった幻』は2026年2月6日(金)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

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