小3自閉症長男、最初の違和感は1歳半からの「常同行動」。同じ場所を行ったり来たり…その理由は【専門家アドバイスも】
監修:初川久美子
臨床心理士・公認心理師/東京都公立学校スクールカウンセラー/発達研修ユニットみつばち
新生児の頃、長男がおとなしかった理由は……
長男は生後1ヶ月の頃、先天性甲状腺機能低下症と診断されました。成長に大切なホルモンが正常に出ていないと医師に話をされました。あまり泣かずよく寝ており、「おとなしい子だなぁ」と感じていましたが、それは先天性甲状腺機能低下症の影響であると説明を受けたのでした。
治療を開始し症状は安定しましたが、発育について私はとても心配していました。しかし歩行や発語の遅れは特に感じず、身長や体重などの成長も順調でした。
1番初めに覚えた違和感……同じ場所を行ったり来たり常同行動が始まった1歳半の頃
心配をしながらも長男は順調に成長していきました。そのような日々のなかで、私が1番最初に長男の行動に違和感を覚えたのは、だいぶ走れるようになった1歳半過ぎの頃でした。
「特定のお気に入りの物を持ち、同じ直線を行ったり来たり走る」という常同行動が目につくようになったのです。男の子がよくヒーローの世界などに入り込み、走ったり戦ったりすることは聞いたことはありましたが、そんな要素もありつつ、でも何か違うような……。
しかしまだ幼いこともあり、よくある子どもの行動かもしれないと様子を見ていました。 しかし、2歳になるとその常同行動を1日に何度もやり、多いときは1日の半分以上走っているということもよくありました。
夫も若干何か感じていたようで、当時何度か夫婦で話をしましたが、本人がとても楽しそうなので、なんとなく「これは長男にとって大切な時間なのかもしれない」と、2人で納得していました。行ったり来たり走っている時も声をかければ切り替えもできていたし、特に誰かを傷つけたり迷惑をかけるということもなかったので深く考えすぎないように見守っていました。
2歳頃、保育園での息子の様子は
長男は2歳で保育園に通い始めました。登園時に泣くこともありましたが、徐々にすんなりと通えるようになりました。
保育園ではおままごとのフライ返しがお気に入りだったようで、お迎えに行くとそれを持って1人で部屋の隅をちょこちょこと走っている姿を毎日毎日見かけました。
保育士さんに「1人でいつもよく走っていますか? この行動について何か感じたりしますか?」と尋ねたことがありました。
保育士さんは「みんなで取り組む時はちゃんと参加していますよ。受け答えも切り替えもきちんとできてますし、問題行動もありませんよ。本人も楽しそうに過ごしているので、私からは特に何も感じないですよ」とおっしゃってくださいました。
集団行動が苦手なのかもしれない……。でも、発達障害と結びつけるのも……
しかし後から思えば、集団行動の苦手さもあり、集団を避けていたのもあるのかなぁと感じています。
なぜなら、 長男は3歳の時、2つ上の長女と一緒にダンスの習い事をしていたのですが、長男はあまり取り組むことはなく体育館の隅っこでずっと同じところを行ったり来たり走っていることが多く見られました。そして、私が声をかけても逃げてしまい、なかなか取り組むことができませんでした。
その時もダンスの先生に「小さい子だと最初はやらないことも多いですよ。でも、だんだんとやるようになってくると思うから大丈夫!」と言われました。たしかに気分で取り組んだり、発表会などはきちんとできていたのですが、長男の様子を見ていた私は、ダンスの習い事を一旦辞める選択をしました。
この習い事先での様子も、私の中ではずっと抱いて長男の違和感で、集団行動が苦手なのではないかと気づいてゆく出来事の一つでした。 しかし、園や習い事でも集団行動ができている時もあり、発達障害に結びつけて良いものか当時は本当に分かりませんでした。
そしてこの常同行動が、就学後、長男にとって学校がつらい場所となっていく原因の一つとなるのですが、それは、また別の機会に詳しく書いていこうと思います。
小学3年生なった長男、常同行動はどうなったかというと……
小学3年生になった今も長男はこの常同行動をしますが、主に自宅だけです。 年齢が上がるとともにやってはいけない場面を自分なりに理解したり、人の目を気にしてやらなかったりと、変化しているようです。
でも、この行ったり来たりする行動は、長男にとって楽しい時間であり、大切なんだと今は自分で言っています。また、トランポリンも好きで家で頻繁に跳んでいます。長男にはストレス発散になっているようで、 常同行動と同じくらいスッキリすることなのだと聞いて、私も長男にとっての常同行動がどのようなものなのか、理解できたような気持ちになりました。
執筆/ねこじまいもみ
(監修:初川先生より)
長男くん2歳の時に覚えた違和感、常同行動についてのエピソードをありがとうございます。
違和感がありつつも常同行動をやめさせたり、集団活動が苦手そうだなと感じつつも集団活動にちゃんと参加しなさいと強く促したり、そうした働きかけをせずにいてくださったこと、長男くんにとってどれほど救われたかと思います。
子育ての中で、「……あれ?」という違和感を感じることは多かれ少なかれあると思います。その際に、自分の思いや思い込み(○歳なら普通こうするもんでしょ!)でお子さんの言動を“変えよう”とするのではなく、お子さんの様子を観察し、どうしてこういう言動が出ているのか考えたり、園の先生方はじめ相談できる人に相談したり。そうした動きが初発であることがとても良いと感じます。
集団行動自体は取れていても、あまり得意そうではないから、習い事として(つまり園生活プラスアルファとして)続けることを止められたという判断にもつながったのですね。苦手そうなことを日常生活にプラスしてまでやるかどうかはよく考えたいところです。
特に、嫌だ、苦手だという表出が少なく、やろうとしたらできるけれどすごく疲れる、あるいはかなり時間が経ってからそのつらさが出てくるタイプのお子さんもいるので、そのあたりの細やかな見取りは長男くんにとってとても助かったと思います。
常同行動のその後についてもありがとうございます。成長とともに出し方が変わってくる様子があるのですね。
人によってはコンディションによって出方が変わったり、あるいは変わらなかったりということもあると思います。お子さんにとって常同行動によって得ているもの(安心、スッキリなど)は何か、あるいはどんなときにそれが出やすいか(不安、緊張など)をよく観察しておけると良いだろうと思います。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。