100マイラー・佐々木 希のトレイルランニング・ギア選び:#03 ランナーが命を託すトレランザック
舗装路から岩場、ぬかるみまでさまざまな路面で構成されるコースを、刻々と移ろう天候や気温に対処しながら延々と走り続ける「トレイルランニング」には、優れたアイテム、マテリアルが不可欠。「決して諦めなければ、私は160kmを駆け抜けられるのだ。」そんな決め台詞で完結する、ULTRA-TRAIL Mt.FUJI 2023 参戦記を寄稿してくれた“100マイラー”佐々木 希選手が、自らのトレイルランニング・ギアを紹介する連載、第3回は「トレランザック」。
トレイルランニングを始めるにあたり、靴が決まったら、次にほしいのはトレランザック。
登山道・林道などの未舗装路を走るトレイルランニング。自然の中を駆けるには、相応の装備を持ち運ぶことが欠かせない。飲料、食料、ファーストエイド(携行用応急処置用品)に加え、必要に応じ防寒具、雨具、ヘッドライトなど。
トレランザックはそれらを入れて走っても、揺れないよう体にしっかりフィットする。登山用よりコンパクトながら物の出し入れがしやすく、走りながらでも飲料を補給できるように、ソフトフラスク(柔らかい樹脂でできたランニング用給水ボトル)などが胸の前に入るように作られている。
私が”なんちゃってトレラン“を始めたのは、当時住んでいた栃木の自宅から近くの里山だった。往復30分〜3時間程度しか走らなかったし、トレランザックというものの存在すら知らなかった。携行したのは、ペットボトル1本を入れたランニング用のウエストポーチだけだった。
環境が変わって、ランニング仲間が増え、グループランをする機会もでき、そのために購入したザックはネットで見つけた容量3リットルの安いものだった。現在使っているものと比べるとかなり揺れるしポケットも少ない、フラスクも少量サイズのものしか入らない。不便ながらもそれをなんとか使っていた。
その後、友人がザ・ノース・フェイス「TR10」をプレゼントしてくれた。他メーカーもそうだが数字は容量(リットル)を表す。使用感の良さに驚いた。体にピッタリフィットして揺れを感じない。外側には機能的なポケットがいくつもついており、胸には左右2つ、500mlのフラスクが収まる。もちろん背部にハイドレーション(ソフトボトルにチューブがついていてその先から給水できる)もセットできる。
トレランザックはアウトドアブランドから数多く販売されており、大きさも形状もさまざま。「走る」のに余分なものはもたないのが理想。つまり、なるべく軽くコンパクトなものがいい。なのでその時必要な容量のものを使えば良い。ラインナップは3リットルくらいから1リットル刻みに15リットルくらいまである。しかしなかなか値段も高いし、始めからいくつも増やすには抵抗がある。ファーストザックにおすすめなのは10リットル前後。最も使いやすいサイズだ。
TR10と、もう一つの3リットルのもので回していたが、状況によっては容量が足りないケースが出てきた。冬場は防寒着や雪山用のチェーンスパイクなどが増えて荷物がかさばる。スタートとゴール地点が違う一方通行のプラン、いわゆるワンウェイの場合には、終了後の着替えや風呂道具なども入れなければならない。そこで、リーズナブルなサロモン「アジャイル 12 ノクターン」を購入。これで、日帰りくらいのプランであればまかなえるようになった。しかしながら、揺れやすく、スペックなど満足いかないことが多かった。ストレスあるものをレースでは使いたくない……。
本当は、用途に合わせて種類を増やしていきたい。しかしネックになっていたのは高額なこと。レースにも出るようになると、少しでもいいものを使いたくなるが、高機能で信頼性も高いものとなると、2万円前後が目安になる。トレイルランニングは、始めのうちは買わなくてはならないものが多く、出費がかさんだ。悩んだが、多少高くても最低限抑えるべきところは抑えたものを揃えて行こうと決めた。
次々ニューモデルが出たり、新色が出たりして買い時も悩ましい。ショップやトレランサイト、仲間などから情報をもらって吟味した。その後、サロモン「アドバンススキン12」(メーカー希望小売価格:¥19800)、「アドバンススキンクロスシーズン15」(同:¥18700)、ザ・ノース・フェイス「TRロケット」(同:¥27280)(15リットル)と必要に応じて徐々に増えていった。どれもメジャーで、ブランドの中でも定評のあるシリーズだ。同じ15リットルでもそれぞれいい点、良くない点があり、欲を言えば自分でフルオーダーのものが欲しいと思うほど、完璧!と思うザックにはまだ出会えていない。
昨年出走した100マイル・レースには、クロスシーズンを使用したが、今年の100マイルには悩んだ末、TRロケットに代えた。TRロケットは、クロスシーズンに比べて前面や側面の収納が充実していて、携帯品が多いロング・ディスタンスのレースに使いやすいのだ。それでも、背面の収納は足りなかったので、元々クロスシーズンに装着されていたパーツやカラビナをとりつけたり、使いやすいようにアレンジした。
こうした具合に、同じ容量のものでも使い勝手は微妙に異なるのがトレランザック選びの難しさだ。
一般的なザックと比べると高価だが、使い始めてTR10は4年、アドバンススキン12は2年半も経つ。月に平均6回は山に行っているので、かなり劣化しているが、修理にだしたり、自分で補修したりして使っている。十分すぎるほど元はとれただろう。
それくらい愛着のわく一点に出会うには、十分に情報収集することと、試着は必須だ。その際も実際に使うものをつめて、装着したり、取り外したり、ポケットの中のものが取り出しやすいか、フラスクの出し入れがしやすいか、トレランポールの取り付け位置の確認など、実戦同様のシミュレーションをすること。靴と同様、妥協なくいいものを選べたら、トレランがより楽しくなるはずだ。
佐々木 希
都内在住ながらほぼ毎週末、登山かランのため山に通うトレイルランナー。野菜ソムリエプロ資格を取得、エステティシャンの経験もあることから健康や身体づくりに目覚め、ヨガ、ランニング、登山、ウェイトトレーニングなどに取り組み、ボディコンテストで表彰台を獲得。2021年からトレイルランニングのレースに参加し、第2回ジャングルぐるぐるMAX G2(80km)女子優勝をはじめ入賞5回。2023年に100マイル・レースであるULTRA-TRAIL Mt. FUJIに初参戦・初完走。良質な脂質、低糖質・高タンパクの材料を中心とした食生活を心がける一方、レース前以外のディナーは好きなメニューを楽しむ。日本大学文理学部卒。