静岡のサッカー指導者必見!日本代表の守田や三笘の恩師たちが語った「2人は学生時代、何がすごかったのか」
静岡県サッカー協会技術委員会が2月16日に静岡市内で開いた指導者研修会「子どもたちの未来のために」で、日本代表の守田英正選手(スポルティング)や三笘薫選手(ブライトン)の大学時代の恩師たちが講演とパネルディスカッションを行いました。
講師を務めたのは、守田選手の母校・流通経済大の中野雄二監督と、三笘選手の母校・筑波大の小井土正亮監督。2人は、世界を舞台に活躍する教え子の学生時代に触れながら、どうしたら子どもたちをサッカーに夢中にさせることができるかアドバイスしました。
各講演と、県サッカー協会の古賀琢磨ユースダイレクターが加わったパネルディスカッションの要旨は次の通りです。
中野雄二氏(流通経済大監督)「人生のレギュラー目指せ」
私は茨城の古河第一高校時代、1980年度の全国高校サッカー選手権の決勝で清水東高と対戦し、サイドバックで出場しました。清水東は錚々たるメンバー。私たちが2−1で勝ちましたが、あるサッカー雑誌には「古河一のサッカーは非近代的だ」と書かれていました(笑)「日本一になったのに、こんな批判をされるなんて」と高校生ながらショックだったことを覚えていますが、清水東のようなサッカーをやりたいとも思いました。
法政大でも多くの静岡の選手たちとプレーしましたが、とにかくみんなうまくて「こんなにサッカーに違いがあるのか」と、まざまざと見せつけられました。
私の育った古河からは、まだ日本代表が一人も出ていません。静岡からはたくさんの代表が生まれています。静岡には50年前から「将来を見据える」という指導のベースがあったからでしょう。
今、学生たちにはいつも「人生のレギュラーを目指せ」と言っています。プロになりたいという夢は悪いことではないですが、それだけだと、プロになれないと悟った時に何も残りません。サッカーを通して、人間として成長することが第一です。
<根性論でやってきたけれど…>
大学では今は、技術指導よりもマネージメント部分を主に担当しています。今、心配しているのは、世界中で起きている天候の変化や異常気象です。日本でも暑熱対策が問われていて、日本サッカー協会は夏の公式戦は避けるべきとしています。
自分は根性論でやってきた指導者です。夏の暑い中で苦しい練習をすれば鍛えられると、選手をトコトン頑張らせてきました。でも、ここ1、2年は自分も外に出るのが辛い(笑)「この暑さで練習しても効果的なトレーニングにならないのでは」「精神が疲弊するだけじゃないか」と思うようになりました。
これからは国内にも、空調設備が整った練習場をつくっていく必要があると考えています。今のままでは親御さんも心配になり、「体育館でやるバレーボールやバドミントンの方がいい」と思うことでしょう。これからサッカー人口が大きく減ることを心配しています。
<大学サッカーの位置付け>
カタールW杯では日本代表の中に、大学出身者が9人いました。簡単に言えば、大学に進学してきた選手は18歳の時点では負け組だったと言えます。18歳の時にプロになれなかった選手たち。守田の例で言えば、彼は大学に入るまで、小中、高校で県選抜などに選出されたことがない選手でした。その子たちが日本代表にたどり着いている現実が、この国にはあります。日本のサッカー文化の中で、大学はすごく大切なカテゴリーだと感じています。
私たちは次の世代のために仕事をしています。生きているうちに日本がワールドカップを掲げる光景を見てみたいと思っています。
小井土正亮氏(筑波大監督)「子どもが言語化できるように」
6年間、清水エスパルスでコーチとして働かせてもらい、その後静岡を離れて15年近くたちます。今回与えられたお題は「育成年代に求められる指導」。私は実際に学生の指導もしているし、研究室でもコーチング論をテーマにしているので「コーチングとはなんぞや」という話をしたいと思います。
<子どもが伸びる条件>
どんな時に子どもが一番成長するのか。それはやはり、必死にやっている時、夢中になっている時。それが伸びるための必要条件です。
子どもが望んでもいないのに、こちらが何かを与えても何も吸収しません。「空腹が一番のおかず」と言われるように、やはり子どものお腹が減っている状態がいい。減っていれば、何でもおいしい。コーチが選手を「腹八分」の状態にさせているかが重要だと思います。
中学生の指導者を見ていると、「ちょっとやらせ過ぎかな」と思うことがあります。子どもを必死にさせるために、小中学年代は休ませることも大事じゃないでしょうか。
私は、いろんな意味でセルフコーチングができる選手を育てたいと思っています。進路選択でも練習方法でも、自分で考えて自分の行きたい方向に自分自身を導いていけるような選手になってほしい。時間軸で、もうちょっと先を見てあげることが大事ではないかと思っています。
<三笘選手のすごさ>
皆さんは「三笘は大学時代、無双してたでしょ」と思われるかもしれませんが、全くそんなことはありませんでした。天才肌でしたが、「まあまあ速くて、まあまあうまい」ぐらいの選手。ボールを追わないし、守備の強度も低かった。
大学1年の時はリーグ戦22試合のうち300分しか出場していませんでした。たまに光るので、スーパーサブとして起用していましたが、最初は「この選手を一流にするにはどうしたらいいのだろう」と思っていました。
そんな彼が、どう思考を変えていったか。
彼は「自分が何をしなければいけないか」を考え、サッカーノートの中で言語化することができていました。僕が教えたわけではなく、ユース時代からそうだったのだろうと思います。言語化することで「やらなければいけないこと」が具体的になり、自分で「やらなきゃ」と思う。その能力が三笘選手はすごかったと思います。
僕は結局、三笘選手に何も教えていません。リバプール戦のゴールも、僕が教えたわけではない。彼はどんな環境でも、自分の力で成長するスキルを身につけているんだと思います。だから、三笘選手はまだまだ伸びると思っています。
<岡崎慎司選手は…>
清水エスパルスで6年間一緒にやった岡崎慎司選手も同じでした。私が誰よりも、これまで一番教えられたことが多かったのは岡崎選手でした。
最初にエスパルスで見た時は足は遅いし、皆さんが思っている以上に、本当に下手でした(笑)当時は僕のほうが絶対にうまかった。でも、そこからうまくなっていきました。「自分は成功する」と信じ続けて、陸上の杉本龍勇さん(バルセロナ五輪代表)に自分で話を聞きにいったりして、自分の力を高めるために努力して、気づいたらあそこの位置にいました。
<正解はない>
今はさまざまな情報が得られる時代ですが、効率的に、最短でサッカーをうまくさせる方法はないと思っています。コーチングに正解はありません。YouTubeにも答えはありません。目の前にいる子がどんな目でサッカーをしているか、夢中になっているのか、そうではないのか、今は休ませるべきなのか。選手によって、何をどう教えるか、関わり方やタイミングは違ってきます。
もちろん成長期にやってはいけないトレーニングなどはあり、基礎的な知識は必要です。でも、指導のマニュアルはありません。目の前の子どもと向き合い、子どもたちが「やるぞ」となった時には、私たちが将来の夢や希望に目を向けて接してあげることが大切なんだと思います。「可能性は誰にでもあるぞ」と。
私が好きな選手は小野伸二選手です。アイデアがあって、プレーしている本人が一番楽しそう。彼のような選手を、また静岡から生んでほしいと思います。私たち指導者は学び続けなければいけないし、「今日のあの一言はいらなかったな」「なんで、この言葉があの時出てこなかったのか」などと考え続け、目の前の選手や生徒に関わっていくしかないんだろうなと思っています。
パネルディスカッション
ー子どもたちがトップレベルで長くサッカーを続けていくために、小中学年代に身に付けておいたほうがいいことは?
(中野)サッカーの原点はゴールを決めること、ゴールを守ること。そのためにはどうすればいいかを、子どもたちにもう少し自由に考えさせることも大切ではないかと思っています。ストロングポイントをもたせることも重要です。今、三笘選手があれだけ輝いているのは推進力のあるドリブルがあるから。その子にしかない特徴を生かしてあげてほしいと思います。
(小井土)考える力と、言語化する力だと思います。子どもとコミュニケーションを取って、子どもたちに考えさせて、それを言葉にすることを身に付けさせてほしいと思います。技術的なことは、できるようになる時が必ず来ると思っています。
あとは、まず基礎的な生活習慣を身につけてほしい。ちゃんと食べて、ちゃんと寝るということができない子が多い。ケガをしやすい選手は当たり前のことができないような気がします。
(古賀琢磨・県サッカー協会ユースダイレクター)小中学年代の指導で大事なのは、止める蹴るの技術をしっかり身につけさせることと、武器を持たせてあげることだと思います。ぜひ、選手の良いところを見つけてあげてほしいと思います。
ー選手の才能や特徴のある選手をどのように見つけ、伸ばしてあげればいいか。
(小井土)日本代表になった選手はサッカーが大好きで、その気持ちを持ち続けたからこそ可能性が広がり、最後にグッと、ひと伸びしていったんだと思います。
発育の差は大きいので、15歳ぐらいで世代別代表やトレセンに選ばれなかったからといって駄目のレッテルをはったりするのが一番良くないと思います。
(中野)流経大からプロになった選手は100人以上いますが、みんなそれぞれでした。ただ、Jリーガーになった選手は目標に向かって、食事も睡眠も、言われてやるのではなく、自分の中できちっとプランを立てて実行できていました。
小中学年代では、戦術などをたたき込みすぎないことも大切なのでは。そのシステムの中でしか機能できなくなる傾向や、頭打ち状態になったりすることがあるのかなと思います。サッカーばっかりやらない方がいいんじゃないかな(笑)
ーファンタジーあふれるサッカーが好きだが、今はフィジカル重視のサッカーになっている。今後どうなっていくのか。
(小井土)それは、もう止められないと思います。アスリート化が高まっていって、さらにその上でアイデアや美しいプレーができるかどうかの勝負になっていく。昔の「10番」は消えたと思っていいと思います。
(中野)大学でも選手のアスリート化は進み、スプリント能力も持久力もすべてデータ化されています。
(古賀)今の子どもたちは、運動能力やコーディネーション能力がちょっと足りないのかなと思います。技術の練習も大事ですが、練習の前に少しだけ他のスポーツをやらせてみたり、前転や受け身をやらせたりする時間を取ってもらえたら、ケガも少なくなるのではと感じています。
ー今は映像分析が入って、教えすぎの傾向があります。どう活用していけばいいですか。
(小井土)筑波大では全部の練習を定点カメラで撮影しています。選手もスタッフもアクセスできて、自分の練習を見ることができます。でも、学生が見るのは自分とボールの映像だけになりがちなので、こちらが見るポイントを伝えてあげるようにしています。