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すべては息子の一言から。『もったいないばあさん』の母が伝えたい「ケチ」と「もったいない」の違い

OTEMOTO

「もったいないことしてないかい?」。もったいないことを伝えるために、どこからともなくやってくる「もったいないばあさん」。2004年に絵本『もったいないばあさん』シリーズが始まり、今年で20周年。2024年3月に最新刊『もったいないばあさんのおばあちゃん』(講談社)を出版した真珠まりこさんに、シリーズに込めてきた思い、ご自身の考える「もったいない」ことについて聞きました。

出典:『もったいないばあさんのおばあちゃん』(講談社)

――最新刊『もったいないばあさんのおばあちゃん』では、もったいないばあさんそっくりのおばあちゃんが登場。山の向こうから昇る朝日や稲穂が揺れる絵、稲を通して命の循環を伝える内容に心打たれます。

もったいないばあさんが、なぜもったいないばあさんになったのか。なぜ「もったいない」なのか?ということがわかる絵本を作りたいと、ずっと思っていました。

もったいないばあさんにも、大好きなおばあちゃんがいました。

田んぼでお米を育てていたおばあちゃんは、お日さまや雨、風、土、一緒につくってくれた人たちにも、「ありがたや、ありがたや」と感謝をする人でした。そして、おばあちゃんは、そのまたおばあちゃんに大事なことを教えてもらい……。

命がつながって私たちは今を生きている、というメッセージも感じてもらえたらと思います。

真珠まりこ(しんじゅ・まりこ) / 絵本作家
神戸生まれ。大阪とニューヨークのデザイン学校で、絵本制作を学ぶ。はじめての絵本『A Pumpkin Story』(1998年)は米国で出版。絵本『もったいないばあさん』(講談社、2004年)でけんぶち絵本の里大賞、ようちえん絵本大賞を受賞。2020年にはアニメとなって7カ国語で公開される。2008年より地球上で起きている問題と 私たちの暮らしとのつながりを伝える「もったいないばあさんのワールドレポート展」を開催。そのほか、『おべんとうバス』『おたからパン』(以上ひさかたチャイルド)、『なないろどうわ』(アリス館)、『おつきさまのパンケーキ』(ほるぷ出版)など。最新刊は『もったいないばあさんのおばあちゃん』(講談社)
写真提供:真珠まりこさん

農作業と絵本づくり

ーーアイデアはどこから?

この本をつくろうと思ったきっかけは、息子の言葉でした。

彼が小学生の頃、もったいないばあさんシリーズの新しいアイデアを考えていて、「次の本は、どんな話を書いたらいいと思う?」と聞いてみたんです。そうしたら「もったいないばあさんが、どうしてもったいないばあさんになったのか、という話を書いたらいいんじゃない?」と返ってきました。そのときは、どんな内容にすればいいのかわからず、できなかった。それからずっと考えていたテーマでした。

もったいないばあさんは知恵を伝えるおばあちゃんですが、その知恵は、やはりおばあちゃんから受け継がれてきたものなんじゃないかな、と連載やシリーズの制作を続ける中でだんだん思うようになりました。

そして、日本人にとってお米は特別なもの。「ひとつぶのこさずたべるべし!」というのはもったいないばあさんの絵本にも出てきますが、私自身、母や祖母から、ごはんつぶは残さないようにと言われて育ち、自分も息子に残さないようにと言ってきました。それはなぜなんだろうと考えるうちに、絵本のストーリーが浮かんできたんです。

東日本大震災で園児と職員が亡くなった宮城県山元町のふじ幼稚園を定期的に訪れている
写真提供:真珠まりこさん

昔ながらの田植えや農作業に参加したり、機械化されていない時代のお米づくりや昔の服装についても、農家のお年寄りに聞いて回ったりしました。種籾から発芽させる方法や、藁をなう方法を教わって、自分でもやってみたりしました。

その時代のことを覚えている方々に出会えてよかったです。その世代の方がおられなくなったら、手作業で行なっていたお米のつくり方は、誰もわからないということになるかもしれない。

いろいろな方のお話を聞いて少しずつ、もったいないばあさんがこどもだった頃の話や背景を思い描いていきました。

昨年は、田んぼでお米の成長を見ながら同時に本をつくることができたのも、すごく良かった。田んぼの周りの草花や生きものたちがどうやって過ごしているか、お米の花がどんなふうに咲いているか、実際の様子をオンタイムで見ながら表現することができました。稲穂の1つ1つなどすべての絵は、和紙を染めて切って貼って制作したものです。

「なぜ残しちゃいけないの?」

――「もったいないばあさん」を書くきっかけは、何だったのでしょう。

息子が4歳の時に、「もったいないってどういう意味?」と聞かれて、答えられなかったことです。

4歳ですから、「あれなあに?これなあに?どうして?なぜ??」といろんなことを聞いてくる時期で、そのたびにうまく説明したり答えたりしていたのですが、「もったいない」という言葉は他のわかりやすいひとことで説明できず、答えに詰まってしまいました。

食べものを残していたので、「全部食べようね」というと、「どうして残しちゃいけなの?」と返ってきて、「もったいないからよ」と言う私に、「もったいないってどういう意味?」と聞かれて。「この食べものがテーブルに並ぶまでには、雨の日も風の日も農家の方が……」と説明しようとしたのですが、話が長すぎてわからない様子。

小さい子は長い説明がわからなくても、心で思うようになんとなくイメージでわかるだろうと、「もったいない」の意味がわかりやすそうな絵本を探してみたんですが、見つけられなかった。「それじゃ自分でつくってみよう」と思ったんです。

――ご自身の経験から生まれた絵本だったのですね。

自分は親から「もったいない、もったいない」と言われて育ったので、意味がわかっているけど、もしかしたら、息子には意味がわからない暮らしをしているのかも、ということにも気がつきました。

忙しくて、「残していいから早くして」と言っていたかもしれない。ものが壊れても、「また買えばいいじゃん」と言いかねないほど、修理するより買ったほうが安いものがあふれている。

物を捨てたり食べ残したりすることに、自分は罪悪感があるけど、「もったいない」ということをちゃんと伝えていかないと、もったいないことをしてもこどもたちが悪いと思わず、使い捨てばかりになったら、いったい社会はどうなるんだろうと、怖くなりました。「ちゃんと伝えていかなければ」と。

当時、息子には毎晩絵本の読み聞かせをしていたのですが、もったいないばあさんの話をコピー用紙にマジックで描いて、紙芝居にして読んでみたら、

「もう一回読んで!もう一回!」と、すごく喜んでくれたんです。

これはきっと、絵本としても楽しめる本になると思いました。

『もったいないばあさんのおばあちゃん』(講談社)
Rika Naganohara

分け合う楽しさ

――今や、息子さんだけでなく、多くのこどもの心をとらえていますね。

以前、読者のお子さんに、「すごく『けちんぼな』おばあちゃんだね」と言われて、「ケチではない」と思いながらも、うまく説明できなかったことがありました。

今言えることは、もったいないばあさんが「もったいない」と言うのは、いただく命や自然の恵みに感謝する気持ちから。そして「大好きな人にもらったから」「それが大好きだから」という愛情があってこそ。

一方で、ケチというのは、「自分だけのもの」「人にあげるのはイヤ」という執着心。

もったいないばあさんは、いいものは分け合ったほうが楽しいと思っているんです。

「もったいない」を一言で言うと、「敬う心」なんだと思います。それは、感謝の気持ち。分け合うこと。思いやり。自分たちだけが正しいと言うのではなく、他の人が大切に思うことを同じように大切にすること。

民族や国や言葉や文化、宗教が違っても、その人たちが大事に思っていることを同じように大事に思って、敬って、リスペクトすれば争いは起こらない。

限られたものを誰かが「もっと」と思って多く取ると、誰かのぶんが少なくなってしまう。みんなが必要なものだからこそ、分け合うのが大事だと思う。

「もったいない」は、世界平和につながるコンセプトだと思うんです。

もったいないばあさんのワールドレポート展
写真提供:真珠まりこさん

2008年から、地球で起きている問題と私たちとのつながりを伝える「もったいないばあさんのワールドレポート展」を開催しています。これもやはり最初は、息子の一言がきっかけでした。

ある日、ストリートチルドレンのテレビ番組を一緒に見ていて、「どう思った?」と息子に聞くと、「ぼくは日本に生まれてよかった」と言うのです。彼は、自分はそんな厳しい環境にいなくてよかった、と思っただけなんですが、親としてもっと何か言いたかった。でも、なんて言っていいかわからなかった。あの子たちとこんなふうに関係しているよと言いたかったのに言えなかったことから、まずは私が知りたいと思って、今地球でどんなことが起きていて、それが日本に暮らす自分たちとどう関わっているのか、調べることにしました。

写真提供:真珠まりこさん

地球環境パートナーシッププラザ(現GEOC)の方に世界の問題について教えていただくことになり、話を聞けば聞くほどに、「今世界で起きている問題は、命を一番に考えていたら起きなかったと思うことばかり」と思うようになりました。

命の大切さを伝える「もったいない」と言う言葉と、もったいないばあさんからのメッセージで伝えたらわかりやすいのではと、GEOCの方々と一緒に展示会を始めることにしたんです。

会場で私が行うギャラリートークの内容は、『もったいないばあさんと考えよう世界のこと』に収録されています。

『もったいないばあさんの てんごくとじごくのはなし』では、天国と地獄にいる人々では、スプーンの使い方が違うという話を描きました。

「自分さえ良ければいいと思わず、分け合う気持ちがあれば」と言うもったいないばあさんからのメッセージを、小さなお子さんにも絵本を読むことで、感じてもらえたらと思います。

ーー「MOTTAINAI」の心は海を越え、「もったいないばあさん」は2020年にはアニメとなって、いま7カ国語で公開されています。

環境省やNPOの方々のご協力で実現しました。また、JICAと連携した講談社とのプロジェクトで2016年から、インドのこどもたちに絵本を使った環境教育をする試みがはじまりました。もったいないばあさんの絵本はヒンディー語にも翻訳されて、多くのこどもたちが読んでくれています。2019年にはガンジス川流域を旅したことがきっかけで、『もったいないばあさん かわをゆく』という本ができました。

インド・デリーにて
写真提供:真珠まりこさん

――ご自身で、もったいないことをしないために心がけているとはありますか。

「ひとつぶのこさずたべるべし」はもったいないばあさんの口ぐせですが、やはり自分も、ごはんつぶだけは残さないようにと思っています。

私は親から、「ごはんつぶを残したらバチが当たる」と言われて育ちました。「お米には七人の神様がいる」とも。

ごはんは日本人にとって、特に大切な食べもの。そんな大切なものを残したら罰が当たって目が見えなくなる、といわれていたのですが、「命のつながりという大事なものが見えなくなるよ」という意味もあるそうです。

「七人の神様」については諸説ありますが、お日さま、雨、風、土、草、虫、一緒に作ってくれた人たちなど、そのおかげでお米ができたことに感謝をしてのことだと聞いて、納得しました。

息子にも、ごはんつぶは残さないようにと言ってきましたが、大人になった今もきれいに食べているようです。

ーーシリーズのなかで、まずお勧めの一冊は?

やはり、最初の本『もったいないばあさん』。そして新刊『もったいないばあさんのおばあちゃん』も、日本中の方に読んでいただきたいです。

ひとつぶひとつぶ、ありがたくてもったいない。

なぜ「もったいない」のか。

絵本を読んで、大切なこと、日本の心を、感じていただけたらうれしいです。

OTEMOTO

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