初めて遊郭建築に入ってみたら違和感が → 2階に上がって気づいたその正体 / 語られない歴史を現代に残す熱海「旧つたや」
現代ではアニメやマンガでしか見ることがなくなった遊郭。あの遊女がいる家のことを妓楼と言うらしいけど、戦火での焼失や老朽化などもあって現存するものは少ないのだとか。そもそも遊郭が無くなった理由が戦後のGHQによる公娼廃止指令なので近代社会に向かうにあたって保存する気もなかったのかもしれない。
でも、実は熱海には妓楼建築が廃墟のように残っている場所があるという。それが熱海市中央町で、今回、たまたまその現存する妓楼の1つ『旧つたや』の中に入る機会があったので様子をレポートしたい。
・表通りと空気が違う
熱海の駅前を離れ、南西に坂を下っていくと、海沿いに観光的なキラキラとは一線を画した建物が並ぶ一帯がある。ここが「糸川べり」と呼ばれたかつての赤線地帯だ。なお、現在Googleマップ上では「糸川旧特飲街」と表示されている。
表通りとは背中合わせの立地だけど、路地に入ると空気が変わるところがなんとも独特である。そんな街の中心に『旧つたや』が佇んでいた。
・入った理由
築70年と見られている『旧つたや』。建物の大部分は廃墟状態で放置されていたという。今回そんな『旧つたや』に入ることになった理由は……
ギャラリー会場となっていたから。『GLOUND ATAMI』というアートプロジェクトでアート好きの友達に誘われたから来てみたわけ。ゆえに、法律を犯したわけではないので安心して欲しい。入場料無料だし写真を撮ってもOKとのことだった。
・違和感
ただ、入ってみると妓楼の中は思ってたのと違った。っていうか、入る前からなんとなく違和感は感じていたのだが、2階に上がってみて違和感の正体がハッキリした。あ、そうか、これって……
狭いのだ。
遊郭の妓楼って聞いた私は『鬼滅の刃』とかに出てくるのを想像していた。永遠に廊下で部屋が何部屋もあって天井も高いみたいな。なんなら『モノノ怪』とかもそうだ。妓楼の中が国みたいになっている。
でも、『旧つたや』はむしろ逆。入口も廊下も階段も風呂も部屋も狭い。小さな空間がぎゅっと詰まった圧迫感がある。
アニメやフィクションに登場する妓楼ってワンパターンだから、「妓楼=広い」と無意識に思い込んでいたことに入ってみて初めて気づいた。
・ロマンではないリアルさ
だが、その狭苦しさは妙なリアルさも放っている。放置されていた場所だけに、当時の時代の面影が比較的そのまま残っているように感じた。
2階の部屋1つ1つに名前がついていることや、広くないのに8個も部屋があるちょっと変な間取りなど、時代の真空パックを開けたみたいな雰囲気が漂っている。
その中で暗い部屋に映像作品が置かれていたりするから微妙に怖い。私はアートを解する人間じゃないんだけど、街から含めて不思議な世界に迷い込んだみたいな非日常的な感覚があった。
・普通に入れるようになる予定
なお、私が行ったのはギャラリー最終日の10月26日だったのでGLOUND ATAMIの期間はすでに終わっている。ただ、このイベントは『旧つたや』の再生プロジェクトの一環で、最終的にはここに個性的な店を集めて人を呼び込む新たな拠点をつくることを目標としているようだ。
そんな旧つたや再生プロジェクトのクラウドファンディングページによると、11月上旬に「つたや雑貨店(仮)」オープン予定になっているため、普通に入れるようになる日もそう遠くないのではないかと思われる。
そんなわけで、アニメのような豪華絢爛かつロマンチックな妓楼ではなく、市井の妓楼が残るこの場所。そのリアルさに語られない歴史を肌で感じたのだった。
参考リンク:旧つたや再生プロジェクト、GLOUND ATAMI
執筆:中澤星児
Photo:Rocketnews24.