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【市之瀬交流ヴィレッジおかえりのアートイベント「The Forest-市之瀬 ARTでであう ARTでひろがる」】 藤枝市市之瀬地区の風景に「取り囲まれる」

アットエス

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は藤枝市の「市之瀬交流ヴィレッジおかえり」で3月7日に開幕したアートイベント「The Forest-市之瀬 ARTでであう ARTでひろがる」を題材に。

2021年6月から藤枝市地域おこし協力隊として活動を続ける現代美術家楡木令子さんが企画した「ザ・フォレスト市之瀬 アートでであう アートでひろがる」は、国内外のセラミックアーティスト二人を招いたアートイベント。かつては幼稚園の教室として用いていたスペースに、楡木さん、坂本紬野子さん(長崎県出身)、高辰翔さん(台湾出身)の作品が並ぶ。

1990年代から紙を素材にした立体作品を発表している楡木さん。今回も紙を素材にした2作品を展示している。

「見えないものたちとの時間」と題したインスタレーションは、光源を仕込んだ大小のボール状の物体が並ぶ。一つ一つ、竹の骨組みに紙を貼っているようだ。光をさえぎった教室に浮かび上がる球体群は、それぞれがどっしりした存在感を放っている。

教室に入ってきた夫婦が「ああ、いろいろいるんだ」と話していた。「あるんだ」ではなく「いるんだ」との言葉が、実に鋭くこの作品を言い当てていると思った。

13枚の和紙に市之瀬周辺の山の風景を描いた作品は、天井からつるした筒のような形状で展示され、観覧者はその中に入っていく。パステルの色彩がほどよくぼんやりとしている。上がり下がりする稜線から麓にかけての山林のさまざまな表情に「取り囲まれる」感覚だ。

天井からつるしてあるため、窓からの自然光が紙を通過する。平面に描かれた杉林、山桜、茶畑、ススキなどの群落に奥行きが与えられている。紙の特性を表現に生かしてきた楡木さんらしい作品である。四季の移り変わりも感じられ、中国の山水画のようだ。個人的には2023年に東京で開かれたデイヴィッド・ホックニーの個展で、彼がiPadを用いて描いた英国の田園風景を思い起こした。全長90メートルの絵巻物のような作品にも春夏秋冬の時間の経過が感じられた。

同施設で子どもたちの美術教室なども実施する楡木さん。3月で地域おこし協力隊の任期は終了するが、同じ場所でアート活動を続けたいという。「地域の方々と自然なハーモニーが生まれてきた」とこれまでの活動の成果を語った。

(は)

<DATA>
■市之瀬交流ヴィレッジおかえり「The Forest-市之瀬 ARTでであう ARTでひろがる」
住所:藤枝市瀬戸ノ谷7509-3  
開館日:木~日曜の午前10時~午後4時 ※観覧無料
会期:2025年3月23日(日)まで

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