東京・丸の内を散歩してパブリックアート鑑賞を。「第44回 丸の内ストリートギャラリー」
丸の内といえば、金融機関や大手企業の本社が集まる日本を代表するオフィス街。実は、この街には丸の内仲通りを中心に、舟越桂氏の「私は街を飛ぶ」や三沢厚彦氏の「Animal 2017-01-B2」などの彫刻や現代アート作品が点在し、忙しい日常にちょっとしたアートな瞬間を運んでくれるのだ。作品の一部は数年ごとに入れ替わっていて、2025年7月から「第44回 丸の内ストリートギャラリー」として17の彫刻作品が展示されている。丸の内~有楽町を歩くとき、パッと目につく彫刻の背景を知ると、いろいろなものが見えるようになるかも。
丸の内ストリートギャラリー(まるのうちストリートギャラリー)
丸の内仲通りで1972年から始まった歴史ある野外彫刻展示
丸の内仲通りを中心に、近代彫刻や世界で活躍する現代アーティストの作品が展示される「丸の内ストリートギャラリー」。周辺でビル事業や街の開発を行う三菱地所と、彫刻の森芸術文化財団が芸術性豊かな街づくりを目指して1972年から行っている、実は歴史あるパブリックアートのプロジェクトなのだ。
数年おきに作品の一部が入れ替えられて、2025年7月8日からは「第44回 丸の内ストリートギャラリー」となった。新しく登場したのは、4人の日本人アーティストが制作した新作と、彫刻の森芸術文化財団が所有する3作品。以前から展示されている10作品と合わせて合計17作品が展示されている。
作品の入れ替えに伴う発表会で、彫刻の森芸術文化財団の坂本浩章(さかもとひろあき)さんは「今回入れ替えた彫刻は、都市の森からいのちを授かったような作品を選定しました」とコメント。
丸の内仲通りは、2002年に丸ビルが生まれ変わったのと同時に、ケヤキをはじめカツラ、アメリカフウ、シナの木など、背の高い樹木が多く植えられた。それから20年以上経ち、木々は高さ8mほどまで成長。まるで都市にある森のように、丸の内が緑豊かであることが作品選定の背景というわけだ。
“都市の森”に出現。4人の日本人作家による新作
妖精が上下に2体重なっているような中村萌(なかむらもえ)さんの作品は、「Whirling Journey」と名付けられている。「今回の作品は、ぐるぐると頭の中で巡る思考や空想などとその先に向かっていく希望の形のようなものをイメージして制作しました」と中村さん。
作品は最終的にはブロンズで仕上げられているが、原型に用いたのは太くて曲がったヒノキの丸太。中村さんは「曲がりながらも上に伸びていくような、姿は確かだけれど、柔らかく上へ上へ伸びていく力強さを感じた」と丸太の傾きや直径を生かしている。
「街を歩く人の目に触れたときに、もう1人の自分のような存在として作品を感じてもらえたらうれしい」と、中村さんはたくさんの人が行き交う場所での展示へ期待を寄せている。
山本桂輔(やまもとけいすけ)さんは、絵画や木彫を主に制作するアーティスト。中村さんの作品と同じく、原型を木でつくったブロンズの作品「眠りながら語らい、歌う」を制作した。「素材の特性を生かしながら作るのが、僕の基本的なスタイルです。木は元々外にあったものなので、(作品を)野外に1度戻したい。野外での展示は自分の中では特別なことです」とコメント。
「眠りながら語らい、歌う」は6つの彫刻がひとつの作品となっていて、中にはきのこをイメージした彫刻もある。きのこの本体は地底にある菌糸体で「地底の中に小さな物語や会話みたいなものが生まれていて、それを吸い上げて、形がぶわっとできていくイメージを持っています」と山本さん。その勢いを想像しながら作品を見ると、見えている地面の下にまで想像が及んでくる。台座部分に野外ではあまり使われない木材が採用されていて、今後屋外でどのように変化していくかも楽しみだ。
佐藤正和重孝(さとうせいわしげよし)さんは、御影石など石材の質感を生かして、形の美しさに引かれた甲虫の作品を作っている。佐藤さんは「都会にないものを作りたい」と今回の作品「Symbiosis(共生)」を制作。モチーフはフンコロガシ。フンコロガシは日本に生息していないが、日本にも同じように動物のフンを食べて分解する甲虫がいる。「昆虫の活動と人間とのつながりに少しでも興味を持つ手伝いができたらと思って、今回は作品を作っていました」とのこと。彫刻作品としてなら、普段は苦手な人も虫の形に興味を持ってもらえることを期待しているそう。
イワタルリさんはガラスを素材として、キャストワーク(鋳造)による大型彫刻から日常使いができる工芸品まで手がける作家。今回制作された大型の作品は、粘土で作った原型から石膏で型を作り、その中に溶けたガラスを竿に巻き取って、何度も鋳込んで作られたものだ。
作家としての自身の背景と今回の作品について話す中で、終戦から6年後に生まれたイワタさんが何度も口にしたのは「存在感」という言葉。「世界中の人がお互いの存在感を尊重し合っていけたらと思っております。そういうことが作品の根底にあります」とイワタさん。
丸の内仲通りビルの前に置かれた作品「No.2506031」は、荒々しくどっしりとしているが、繊細な緑色を帯びていて、角度や時間によって見える色が変わることにも注目したい。
全17作品からお気に入りを見つけよう
「第44回 丸の内ストリートギャラリー」のために制作された4つの新作以外にも、世界的に著名な彫刻家の作品や、国際的に活躍する日本人作家の作品もある。平和への願いが込められた作品などもあり、見応え十分。
ほとんどが丸の内1丁目から3丁目の丸の内仲通り沿いに置かれているが、「丸の内オアゾ」前、『三菱一号館美術館』前の一号館広場にも作品がある。普段は美術館や展覧会に足を運ぶことはない人も、彫刻の前で足を止めてちょっとした対話を楽しんでみるのもいいかもしれない。
丸の内ストリートギャラリー(まるのうちストリートギャラリー)
住所:東京都千代田区丸の内1~3丁目、有楽町1丁目、丸の内仲通り/アクセス:JR・地下鉄東京駅から徒歩1分
取材・撮影・文=野崎さおり
野崎さおり
ライター
2016 年よりライターとしての活動を開始し、複数のweb媒体で食べ物やお出かけネタを中心に執筆。おいしいものはもちろん、作る人とその背景に興味あり。都内をバスか徒歩で移動するのが好き。