高齢者の推し活がもたらすメリットとは?〜介護現場で高齢者に広がる応援文化〜
「推し活」とは?
執筆者/専門家
伊藤 浩一
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14
「推し活」とは、自分が応援したい対象を見つけ、その成長や活躍を支える活動のことです。対象はアイドルや俳優、スポーツ選手に限らず、ペットや孫などにも広がります。
日本の推し文化には「成長を見守る」要素が強く、ファンは未完成な存在に心を寄せ、努力や変化を共に体験することに喜びを感じます。この「誰かを応援し、支えたい」という感覚は、人間に本能的に備わった気持ちであり、年齢を問わず大きな意味を持ちます。
ミドル世代に広がる推し活
介護や医療の現場で働く女性職員の中には、「推しのライブがあるから仕事を頑張れる」と語る人が少なくありません。
【実際の声】
「週末〇〇のコンサートにドームまで行った!」
「韓流ドラマを一気見した!」
「韓国行っちゃった!」
これらは心理学でいう「自己拡張(Self-expansion)」に該当します。新しい経験や知識、人間関係を通じて自己を広げようとする欲求です。
子育てが一段落し、家族に向けていたエネルギーの行き場を失ったとき、推しが新しい対象となり、日常に張り合いを生み出します。大変なシフト勤務や感情労働を乗り越える「ご褒美」としての推し活は、職員の回復力やモチベーションを支える重要な要素です。
高齢者にとっての推し活の意味
高齢者は身体的・社会的な制約から楽しみを見失いがちですが、「応援する対象」を持つことで心に再び火が灯ります。
脳科学の研究では、他者を応援して勝利を喜ぶとき、人は自分のことのように報酬系が活性化するとされています(代理報酬:vicarious reward)。つまり、「推しを応援する喜び」には科学的な根拠があるのです。
【専門家が見た】施設での実例
■実例1:地元バスケットボールチームの応援
地元のバスケットボールチームの試合をパブリックビューイングした際、初めてプロバスケを観る高齢女性が「最後まで応援したい」とメガホンを振り続けました。
点が入るたびに笑顔になり、周囲と喜びを共有する姿は、推し活の「応援の本能」を象徴していました。
■実例2:野球ファンの利用者さん
某野球チームの熱狂的ファンである利用者さんは、試合のある日は必ずテレビ観戦し、翌朝には新聞で結果を確認。勝敗をカレンダーに記録するのが習慣でした。
これは彼の「応援の記録帳」であり、生きがいそのもの。職員との会話のきっかけにもなり、関係性が深まりました。
高齢者の推し活がもたらす効果
高齢者が推し活をすることで、以下のような効果が期待できます。
・心理的効果:ときめきや幸福感を感じ、生活に張り合いが生まれる
・認知的効果:新しい情報を追うことで脳が刺激され、認知機能の維持に役立つ
・社会的効果:推しについて語ることで会話が広がり、孤独の軽減につながる
・身体的効果:イベントや観戦で外出機会が増え、自然と活動量が上がる
介護の現場で「推し活をどう支えるか」を考えることは、利用者さんのQOL(生活の質)向上に直結します。
介護の仕事は「日常の繰り返し」の中で疲労感を伴うことがあります。 しかし、利用者さんが推し活に夢中になる姿に触れることで、「人は誰かを応援することでこんなにも輝く」という実感を得られます。これは介護職員自身にとっても大きな学びであり、自分自身の生き方を支えるヒントになります。
介護の専門性は、単なるケアにとどまりません。環境の力をつくりだすことも介護の専門性の一つです。利用者さんが推しを見つけ、応援する喜びを持ち続けられるよう支援することも、たしかな介護の力なのです。
まとめ:高齢者にとっての推し活は「生きがいの再発見」
推し活は若者だけの文化ではありません。介護職員も高齢者も、誰にとっても「人生を豊かにするエンジン」です。
推しを持つことで、人は心を動かされ、生活に意味を見出します。施設の中でも、好きなチームや人物を応援する時間は、生きがいを再発見する大切な機会になります。
そして最後にお伝えしたいのは、「介護職員自身もぜひ推し活を楽しんでください。」
自分の好きなものに心をときめかせることは、心の安定につながります。その安定こそが、利用者さんに寄り添う良い介護サービスの源泉になるのです。
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