神奈川大学サッカー部の寮は竹山団地。地域の課題に取り組みながら成長する日々
横浜市緑区にある竹山団地は高度成長期に入居が始まった約2800戸、45haの大規模団地ですが、50年以上たち、高齢化率は45%を超えています。この竹山団地に、神奈川大学サッカー部の部員寮があります。キャンパスと練習グラウンドのちょうど間にあるのが竹山団地。学業や部活動だけでなく、住民と共に、地域の課題に取り組んでほしいと、神奈川大学は4年前、県の住宅供給公社と連携・協力の協定を結び、2020年の5月から入居が始まりました。名付けて「竹山プロジェクト」。
エレベータがないため空き部屋が多い4階、5階に、60人の部員全員が基本1部屋3人、そして、コーチの家族、監督の合わせて64人が竹山団地に住んでいます。お祭りなどイベントの手伝い、清掃活動、中高年向けのスマホ教室や小学生の宿題を見る学習支援など、自治会の要望を受け、部員それぞれが学業や部活の時間と調整して取り組んでいます。消防団員の部員もいます。
団地の掲示板には、神奈川大学サッカー部が開く様々な教室のポスター
また、寮の食堂は商店街の空き店舗を改装したのですが、2023年の4月から、昼間の時間は、カフェ「神大喫茶」、シェフによるスパイス料理教室などを開いています。
サッカー部寮の食堂で開かれた「介護予防教室」。厨房ではシェフと学生がワンコインスパイスランチの準備
崎山記者が取材したのは週2日開かれている「介護予防教室」。取材した日の参加者は32人で、トレーナーが体操メニューを作り、おしゃべりも交えながら賑やかに、簡単なストレッチや有酸素運動、脳トレを行いました。トレーナーと共に教室を手伝っていた4年生の森睦真さんは「ただ体操するとかじゃなくて、ちょっと世間話っていうか、いろんな日々の日常のことだったりっていうのを話すことで、楽しく活動ができるっていう風に捉えています。自分たちが、団地を引っ張っていく存在になっていけたらっていう気持ちで今活動してます」と話します。
竹山団地の住民も、神大サッカー部の試合の応援に駆け付ける(提供:神奈川大学)
体操教室の後、希望者は、寮食堂のシェフ特製、スパイスをほどよく利かせたワンコイン、500円のランチの時間です。教室を手伝っていた若いコーチの家族、赤ちゃんもいて、参加者の会話も弾みました。「昔は子どもが多かったから、活気があった。いま、活気がないもんね」という言葉に対し、「ここができて、多少は変わってきたなと思う」という人も。ほとんどの方が40年、50年暮らしていますし、暮らす環境は良いと感じていて、みなさん「終の棲家」にするつもりのようでした。そして、サッカー部の次の試合に行こうという話も。「みんないい子。みんな孫みたいなもの。どこでも、この辺で会えば、あいさつしてくれる」。赤ちゃんもすっかりおなじみで、参加者が交互にだっこしていました。
神大喫茶の日のカレーランチ。
介護予防教室は横浜市の委託で補助があり、手伝う学生にはアルバイト代も出ます。そして、長年住んでいる人たちから得られるものがあるようです。サッカー部の大森酉三郎監督は「竹山団地に住んでいる人たちは、自分たちの街、故郷という意識が強い。地域の教育力が高いので、そこで育んでもらえている、というのはほんとラッキーです。地域の方は、我が部のコーチ、という感じです」と話します。
介護予防教室を手伝っていましたが、普段は、「神大喫茶」の店長という4年生、佐藤瑠意さんは「自分が何かちょっとお手伝いできることがあったら、お手伝いをした後に、煮卵を煮たから取りに来なよ、とか言ってくれたりとか、そういうやり取り一つ一つが自分にとってはすごく幸せです。大学に入るまであんまりサッカー以外で人とコミュニケーションを取るっていうことがやっぱりなかったので、いろんな方とほんとコミュニケーションをとるようになって自分自身本当に、人として成長できたなっていうのが一番感じられますね」と話していました。
大森監督は「様々な社会課題のある団地では様々な経験ができる。地域が元気になり、学生の成長にもつながる。サッカーのプレーにも反映するし、これからの人生にも大事です」と話します。学生は卒業する一方、新入生が入ります。活動のやり方は変化しながらも続け、成果をゆっくり積み重ねていきたいということでした。
一階が竹山団地の中央商店街
神奈川大学サッカー部のこうした活動は、団地内の病院、福祉関係者、学校、自治体、そして住民との協力、連携の中で行われ、竹山団地にこれからも多様な人が住み続けられることを目指しています。時間をかけて注目していきたい試みです。