最初の一歩から、もっと深く。ASD理解を深める大島郁葉先生が選ぶ名著3選【発達ナビ・あの人の本棚から】
大島郁葉先生が選ぶ3冊は?
育児や発達支援の専門家が「人生を豊かにした一冊」や「多くの人に薦めたい名著」を紹介する【発達ナビ・あの人の本棚から】。
今回ご協力いただいたのは、子どものこころの発達教育研究センター教授の大島郁葉先生。長年、発達障害のある方の支援を続けてきた先生に、「保護者向け」「支援者向け」「自著」の3テーマでASD(自閉スペクトラム症)の理解を深めるという3冊の書籍をご紹介いただきました。
大島郁葉先生が選ぶ!保護者の方におすすめの1冊『はじめてまなぶ自閉スペクトラム症 診断から実践へ』(本田秀夫/著)
信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部部長で、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』にも出演された本田秀夫先生による、ASD(自閉スペクトラム症)の理解と支援に関する実践的な一冊です。『臨床心理学』誌の連載を中心に、2013年から2024年にかけて執筆された論文やコラムに書きおろし原稿を加えて収録されており、長年の臨床経験に基づいた深い知見が詰まっています。
保護者の方が本書を読むことで、お子さんの日常の行動や反応の背景にある特性をより深く理解できるようになるでしょう。「なぜこの場面でパニックになるのか」「どうして同じことを繰り返すのか」といった疑問に対して、医学的根拠に基づいた明確な答えが得られます。
また、"バイリンガル"な支援という著者独自の視点は、お子さんと周囲の人々をつなぐ「通訳者」としての保護者の役割を再認識させてくれます。専門的な内容でありながら、家族の立場に寄り添った温かい筆致で書かれているため、読み進めるうちに「うちの子のことをもっと理解したい」という気持ちが自然と深まっていく、保護者にとって心強い指南書です。
本書は、章ごとに内容が整理されているため読みやすく、子どもから大人までの発達の流れが分かりやすく説明されています。保護者の方にとって、子育ての全体像を見通す手がかりとなる一冊です。日々の子育てでは、つい目の前のことに気を取られがちですが、本書を読むことで、長い視点からどのような選択をしていけばよいのか自然と理解できるように構成されています。落ち着いて今後の子育てをじっくり考えたい方に、特におすすめです。
大島郁葉先生が選ぶ!支援者の方におすすめの1冊『新訂増補 子どもから大人への発達精神医学 ―神経発達症の理解と支援―』(本田秀夫/著)
発達障害の支援に携わる専門職にとって、理論と実践を結ぶ確かな指針となる一冊です。30年以上にわたって発達精神医学を臨床の主たる対象としてきた筆者の経験から生み出された臨床研究と実践的知見の集大成として書かれています。乳幼児期から成人期までを縦断的に捉えた「発達精神医学」の視点から、DSM-5-TR、ICD-11での変更点も含めて大幅改訂された本書は、発達障害のある人への支援において「なぜこのアプローチが有効なのか」という理論的背景を深く理解できる内容となっています。
教育・福祉・医療といった多分野にわたる連携の重要性についても具体的に解説されており、単なる手法の紹介ではなく、支援の根本的な考え方から学べる、専門職としてのスキルアップに欠かせない専門書です。
本書は、発達障害領域に携わる医療/福祉/教育の専門家にとって、必読の臨床実践ガイドです。乳幼児期から成人期までを縦断的にとらえ、DSM-5改訂を踏まえた神経発達症(発達障害)の診断・予後・併存症・支援体制に関する最新知見を豊富に含んでいます。とりわけ、軽度精神遅滞(知的障害/知的発達症)・境界知能のある人の思春期以降の精神医学的問題や、環境設計(ユニバーサルデザインからコンプリヘンシブ・デザインへ)の議論は、現場でのインターベンション設計に資する示唆に富んでいます。支援者として理論と実践の橋渡しを求める方に、信頼できる知見と方法論を提供する一冊です。
発達ナビユーザーへおすすめの自著『おとなの自閉スペクトラム症の心理カウンセリング』(大島郁葉/著)
おとなになるまで診断も支援もされなかった二人の、苦難と、希望と、生きる道を丁寧に描いた、ASD(自閉スペクトラム症)の成人支援における画期的な一冊です。大島郁葉先生が、長年の臨床経験と研究の成果を結実させた、支援者必携の実践ガイドとなっています。
本書の最大の特徴は、二人の架空のASD(自閉スペクトラム症)当事者、斉木勝と野島華子の長きにわたるストーリーを、当事者目線と専門家目線で細やかに読み解くという独創的なアプローチです。診断を受けずに成人期を迎えたASD(自閉スペクトラム症)当事者が抱える複雑な生きづらさを、単なる症状の羅列ではなく、一人の人間の人生として深く理解できるよう構成されています。
ASD(自閉スペクトラム症)当事者が実際に生きている世界観を肌で感じながら、専門家としての基本姿勢やカウンセリング技法を学ぶことができます。さらに、ジェンダー、スティグマ、カモフラージュ、トラウマ、医療モデル/社会モデルなど、ASD(自閉スペクトラム症)の支援に欠かせない知識も体系的に解説されており、現代のASD(自閉スペクトラム症)支援に求められる多角的な視点が身につきます。
理論だけでなく、実際のカウンセリング場面での葛藤や転機、そして当事者と支援者双方の成長プロセスが生き生きと描かれているため、読み進めるうちに支援者としての感性が自然と磨かれていく、まさに「事例×解説でまなべるASD(自閉スペクトラム症)ケアガイド」です。
本書には、2人の架空の大人が登場します。彼らは子どもの頃からASD(自閉スペクトラム症)の特性が見られていましたが、周囲の大人の思い込みや都合によって、そのアイデンティティを認めてもらえませんでした。やがて自分もASD(自閉スペクトラム症)かもしれないと気づいたとき、強いスティグマや戸惑いを感じることになります。そんな二人がカウンセリングにたどり着き、丁寧な話し合いや環境の見直しを経て、ようやく「自分はASD(自閉スペクトラム症)として生きていいのだ」と自らのアイデンティティを取り戻していく物語です。本書を通して、周囲の無理解が当事者をどれほど深く傷つけ、混乱させるかを知っていただきたいと思います。
まとめ
大島郁葉先生が選ばれた3冊は、ASD(自閉スペクトラム症)の理解を深めるための異なる視点を提供してくれる貴重な書籍です。
保護者向けの『はじめてまなぶ自閉スペクトラム症』は、お子さんの特性を医学的根拠に基づいて理解し、家族が「通訳者」として寄り添う方法を学べる実践的な指南書。支援者向けの『子どもから大人への発達精神医学』は、30年にわたる臨床経験から生み出された理論と実践の集大成として、専門職の確かなスキルアップを支援します。そして大島先生ご自身の著書『おとなの自閉スペクトラム症の心理カウンセリング』は、成人期の当事者支援における新たな地平を切り開く、革新的なアプローチを提示しています。
これら3冊に共通するのは、ASD(自閉スペクトラム症)のある方々を一人の人間として深く理解し、その人らしい生き方を支えるという温かい視点です。保護者の方にも支援者の方にも、そして当事者の方にも、新たな気づきと希望を与えてくれる、まさに「人生を豊かにしてくれる本」と言えるでしょう。ぜひ手に取って、ASD(自閉スペクトラム症)への理解をさらに深めてみませんか。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
知的発達症
知的障害の名称で呼ばれていましたが、現在は知的発達症と呼ばれるようになりました。論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、などの知的能力の困難性、そのことによる生活面の適応困難によって特徴づけられます。程度に応じて軽度、中等度、重度に分類されます。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。