テック界の権威、レイ・カーツワイルの最高傑作『シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき』
ユヴァル・ノア・ハラリ、ビル・ゲイツほか各界の著名人が絶賛、「ニューヨーク・タイムズ」ベストセラー!
レイ・カーツワイルの最新話題作『シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき』が11月25日に発売し、即増刷となりました。テクノロジーの加速度的な進歩による社会の変化を予測して、ことごとく的中させてきたカーツワイル。その研究の集大成となる本書のイントロダクションを特別公開します。
イントロダクション
2005年に出版した『シンギュラリティは近い』[原題:The Singularity Is Near(紙版書籍邦題は『ポスト・ヒューマン誕生』)]のなかで私は、テクノロジーの発達における技術的収束[もとは無関係であった技術がその進歩にともなって次第にひとつの機器や媒体に統合されていくこと]と指数関数的な傾向は変革をもたらし、人類をまったく変えてしまうだろうという説を発表した。
現在、その鍵となるいくつかの分野で同時に成長が加速しつづけている。コンピュータの計算能力は安価になりつづけ、ヒューマンバイオロジーの理解が深まり、エンジニアリング可能なスケールがより小さくなっている。AI(artificial intelligence人工知能)がその能力を高め、情報へのアクセスが容易になるにつれて、これらの能力と、人間が本来もつ生物学的知能とがこれまでにないほど密に結びつく。いつの日かナノテクノロジーによって、クラウド上のバーチャルの神経細胞(ニューロン)層と人間の脳が接続され、脳が直接的に拡張されるまでに至るだろう。こうして人間はAIと融合して、人間が本来もつ力の数百万倍の計算能力を有するようになる。これによって、人間の知能と意識は想像もつかないほど大きく拡張される。これが「シンギュラリティ」によって起こることだ。
「シンギュラリティ(特異点)」は、数学と物理学で使われる言葉で、他と同じようなルールが適用できなくなる点を意味する。数学の例では、有限数を0で割ると値が無限になるように、定義されない(計算不能な)点がそれであり、物理学の一例では、ブラックホールの中心にある無限に密度の高い点のことで、そこでは通常の物理法則は破綻している。私がこの言葉を隠喩として使ったことは重要なので覚えていてもらいたい。指数関数的な成長が無限の成長を意味していないのと同じように、「技術的特異点(テクノロジカル・シンギュラリティ)」という私の予測では、変化の割合が無限になると言っているのではないし、物理的特異点を迎えると言っているのでもない。ブラックホールは重力がとても強く、光さえもとらわれてしまうが、量子力学では真に無限の質量を説明する方法がない。私がシンギュラリティの隠喩を使ったのは、現在の人間の知能ではこの急激な変化を理解できないことを示すためだ。だが、変化が進むにつれ人間の認知能力は増強されるので、対応できるようになる。
前著の『シンギュラリティは近い』のなかで私は、長期トレンドからシンギュラリティは2045年頃に起こると予測した。前著の出版時にそれは40年、二世代も未来のことだった。それだけの時間的隔たりがあっても、この変革をもたらす広範囲の力を予測することができたが、このテーマはほとんどの読者にとって、2005年の日常生活とかけ離れていた。そして批判の多くは、私のタイムラインが楽観的すぎると言い、さらには、シンギュラリティは起こりえないと言っていた。
だが、それから注目すべきことが起きている。疑いの声をものともせずに進歩は加速しつづけたのだ。SNSや携帯電話は世界の半分以上の人々とつながっていて、あるのがあたりまえで、もはや存在に気づかないほどだ。アルゴリズムに関するイノベーションとビッグデータの登場により、AIは専門家の予想すら超える速さで驚くべきブレイクスルーをなし遂げた。クイズ番組の〈ジェパディ!〉や囲碁で名人に勝ち、車を運転し、エッセイを書き、司法試験に合格し、ガンの診断をする。今ではGPT-4やGeminiといったAIの強力で柔軟な大規模言語モデル(large language models=LLM)[大量のデータとディープラーニング(深層学習)技術によって構築された言語モデルで、生成AIの基盤となっている]は、自然言語の指示をコンピュータコードに変換できるので、人間と機械のあいだにある障壁は劇的に減った。あなたが本書を読んでいるときには、数億人もの人々がそれらの可能性をじかに経験していることだろう。そのあいだにヒトゲノムの解析費用は高いときの10万分の3にまで下がりつづけ、ニューラルネットワーク[人間の脳の仕組みを模倣した機械学習モデル]は、生物学的プロセスをデジタルにシミュレートすることによって大きな医学上の発見をいくつもなし遂げている。人類は最終的には、脳とコンピュータを直接に接続する能力さえも得ようとしている。
これらの発展の基礎には、私が「収穫加速の法則(the law of accelerating returns)」と呼ぶものがある。コンピューティングのような情報テクノロジーは、ひとつの進歩が次の進歩のステージを設計しやすくするので、そのコストは指数関数的に安くなるのだ。その結果、インフレ調整後の価格で見ると、『シンギュラリティは近い』が店頭に並んだ2005年と比べて、本書を執筆中の今では、1ドルで買える計算能力は1万1200倍になっている。
くわしくはあとで話すが、下の表は人類の技術文明に力を与えてきた最重要な傾向を示したものだ。1ドルで買える計算能力が長期にわたり指数関数的に伸びていること(縦軸を対数目盛りにしたグラフではほぼ直線)を表している。有名なムーアの法則は、トランジスタの小型化は着実に続き、コンピュータの性能は上がっていくと言うが、それは収穫加速の法則のひとつの表れにすぎない。その法則はトランジスタが発明されるはるか前からすでに当てはまっているものであり、トランジスタが物理的限界に達して、新しいテクノロジーにひき継がれたあとでも当てはまるはずだ。本書で紹介する次のブレイクスルーのほとんどにおいても、その実現に直接的、間接的に貢献するだろう。
つまり、これまでシンギュラリティは約20年前に私が予想したとおりに進んでいるのだ。今、本書を急いで出版する必要性は、テクノロジーの指数関数的な変化の性質それ自体から発生している。21世紀が始まったときには、その傾向は気づきにくいほどかすかなものだったが、今では数十億人の生活に強い影響を与えている。2020年代に入るとすぐに指数曲線は急角度になり、イノベーションのペースはこれまでにないほど社会に影響を与えている。その点から言うと、2012年に私が最後に出した本『いかにして心を創造するか(How To Create a Mind)』のときより、あなたが本書を読んでいるときは、最初の、人間の知能を超えたAI(超知能AI)が生まれる瞬間に近づいているのだ。そして、私が1999年に著書『スピリチュアル・マシーン』を出したときよりもシンギュラリティに近づいているはずだ。人間の一生という物差しで見ると、今の赤ちゃんが大学を卒業する頃にシンギュラリティを迎えることになる。だから、個人のレベルで「near(近い)」という言葉は、2005年のときと現在ではまったく異なるものになっている。
これが理由で私は本書を記した。人類は1000年にわたりシンギュラリティを目指して歩んできたが、いまや全力疾走に入っている。『シンギュラリティは近い』の序文で、私たちは「この変化の初期ステージにいる」と書いたが、今は変化のピークにさしかかっている。前書は遠くの地平線をちらりと見たものだったか、本書はそこに至る最後の数マイルの道を見るものになっている。
幸運なことに、今ではその道がはっきりと見える。シンギュラリティを達成するにはまだテクノロジー上の課題が多く残っているが、主な課題を研究する先駆者たちは、理論科学の領域から実際的な研究開発の領域へと急速に移行している。これからの10年で人々は、まるで人間のように思えるAIとかかわるようになり、今のスマートフォンが日常生活に与えるのと同じくらいの影響を単純なブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI=脳とコンピュータを接続すること)が与えることになるだろう。バイオテクノロジー分野のデジタル革命は、病気を治療し、健康寿命を延ばす。だが、それと同時に、多くの労働者が経済的混乱による痛みを味わい、この新たな可能性について偶発的あるいは意図的な乱用が起きる危険性に私たち全員が直面するはずだ。2030年代には、自己改良型AIと成熟したナノテクノロジーによって、かつてないほど人間と機械が結合することになり、それによって未来の可能性と危険がともに高まる。これらの進歩がもたらす科学的、倫理的、社会的、政治的課題に対処することができれば、2045年までに地球上の生命はよい方向に大きく変容するだろう。しかしながら、課題を克服できなければ、人類は生存の危機にさらされる。だから本書では、シンギュラリティへの最後のアプローチについて、私たちの知るこの世界の最後の世代が直面するに違いないチャンスと危険について記したのだ。
はじめに、シンギュラリティがどのように起こるのかを見ていき、それを、人類がみずからの知性をつくり変えてきた長い歴史という状況のなかに置いてみる。テクノロジーと脳が融合することは、重要な哲学的問題を提起するので、この変化が私たちのアイデンティティや目的意識にどう影響するのかを考えよう。そしてこれからの数十年間を特徴づける実際的な傾向を見ていく。収穫加速の法則が、人類の幸福を反映するさまざまな指標において指数関数的な前進をうながす。イノベーションのもたらす明白なマイナス面のひとつは、さまざまな形態の自動化が生みだす失業だ。その害は現実のものだが、そこには長い目で見ると楽観的でいられる強い理由があるし、人間はAIと競争することにならない理由もある。
これらのテクノロジーが文明に大いなる物質的豊かさをもたらすと、私たちの関心は人類の全面的な繁栄を妨げるであろう次なる障害に向けられる。それは人間のもつ生物学上の弱点だ。だから、次はこれからの数十年間に、生物学的プロセスをコントロールするために利用されるであろうツールについて考えよう。まずは、肉体の老化を防ぐツールを紹介し、それから、限界のある脳を拡張し、シンギュラリティへと案内してくれるツールを見る。しかしながら、それらのブレイクスルーはまた、私たちを危険な立場に置きかねない。バイオテクノロジーやナノテクノロジー、AIにおける革命的な新システムは、破壊的なパンデミックや、自己複製機械の暴走といった人類の生存にもかかわる大惨事を招く危険性をもつのだ。最後に、それらの脅威を評価しよう。脅威ゆえに慎重な計画が求められるが、脅威を軽減するとても有望なアプローチがあることを紹介する。
ここから先は歴史上もっとも興奮し、もっとも重要な年月になるだろう。シンギュラリティ後の人々の生活がどのようなものになるのか確言することはできない。それでもシンギュラリティにつながる変化を理解し予測することは、そこへ向かう人類の最後のアプローチを安全で確実なものにすることに役立つのだ。
各界の著名人、メディアから絶賛の声
「本書は、私たちの未来について、最も深淵な哲学的問いを投げかける、魅力的な探究だ」
――ユヴァル・ノア・ハラリ(『サピエンス全史』著者、歴史学者)
「レイ・カーツワイルは、私が知る限り、人工知能の未来を予測する上で最高の人物である」
――ビル・ゲイツ
「シンギュラリティ(技術的特異点)の到来は、もはや遠い未来の話ではないのかもしれない」
――『WIRED』日本版
『シンギュラリティはより近く 人類がAIと融合するとき』目次
イントロダクション
第1章 人類は六つのステージのどこにいるのか?
第2章 知能をつくり直す
第3章 私は誰?
第4章 生活は指数関数的に向上する
第5章 仕事の未来:良くなるか悪くなるか?
第6章 今後30年の健康と幸福
第7章 危険
第8章 カサンドラとの対話
謝辞
日本語版解説 松島倫明
訳者あとがき
付 録 (「コンピュータの価格性能比」の根拠について)
著者
レイ・カーツワイル (Ray Kurzweil)
1948年ニューヨーク生まれ。世界屈指の発明家、思想家、未来学者であり、AI 研究開発に60年以上携わる権威。Google 社で機械学習と自然言語処理の研究を率い、現在は同社の主任研究員兼AIビジョナリー。MIT在学中に20歳で起業。以来、CCDフラットベッドスキャナー、オムニフォント式OCRソフト、視覚障がい者用の文章読みあげ機、大語彙音声認識ソフトウエア、音楽シンセサイザー「Kurzweil K250」などを世に送りだしてきた。
著書に“The Singularity Is Near”(紙版 『ポスト・ヒューマン誕生』/電子版改題 『シンギュラリティは近い』NHK出版)と“The Age of Spiritual Machines”(『スピリチュアル・マシーン』翔泳社)など。