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大沼心②アニメ業界で生きていこうと思えた 思い切った演出を詰め込んだ 『ef – a tale of memories.』

Febri

Febri TALK2025.06.11 │ 17:00

大沼心演出家/アニメーション監督

②アニメ業界で生きていこうと思えた 思い切った演出を詰め込んだ
『ef - a tale of memories.』

『ぱにぽにだっしゅ!』や『化物語』など多くの新房昭之監督作品に参加し、そのイズムを受け継ぎ、現在は監督として数多くの作品を手がけている演出家・大沼心が選ぶアニメ3選。2本目は、TVアニメ初監督作品にして、現在へと続く基礎を確立した『ef – a tale of memories.』。

取材・文/岡本大介

ef - a tale of memories.アニメクリエイターインタビュー_FebriTALK

思い切って仕掛けや演出を詰め込むことができた

――『ef – a tale of memories.』は大沼さんにとっての初監督作品ですね。
大沼 そうですね。厳密に言えば、その前に1本だけOVAの監督をやらせていただいたことがあるのですが、TVシリーズはこれが初めてで、実質的には初監督作と言ってもいいと思います。これは自分のクリエーターとしてのマイルストーンというか、どうしても外せない作品なので、今回挙げさせてもらいました。

――原作は美少女ゲームですが、そもそもお好きなジャンルですか?
大沼 大好きです!(笑) 「葉鍵(はかぎ)」と呼ばれていたブランド(※Leaf、Key)のタイトルはほとんどプレイしていたくらいなので、監督をまかされたときにはすごくうれしかったですね。アニメーター一筋でやっていくつもりはなく、いつかは演出や監督をしたいと思っていたので「やってやろう」と気合いが入りました。

――伏線や謎が多くちりばめられているストーリーだけに、構成は大変だったのではないですか?
大沼 そこは最初から最後までずっと頭を悩ませていました。ただ、原作サイドから「話の骨格さえ守ってくれれば、あとは好きにやってください」と言っていただけたので、思い切って仕掛けや演出を詰め込むことができました。今振り返ると「若いな」と感じるところも多いんですけど。

――おっしゃる通り、随所で尖った演出が光っていて、この時代のシャフトさんらしいイズムを感じます。
大沼 そうですね。かなりピーキーな映像が多いのですが、当時はこういった試みを前向きに受け止めてくださる方が多かったと思います。デジタル技術の発展もあって、全体としては写実的でリアルな絵作りへと移行していた時代でしたけど、一方でそれを窮屈に感じる人たちもまだたくさんいて、僕もそのひとりだったんです。それこそ子供の頃に衝撃を受けた『ガンバの冒険』は、パースを無視するのも当たり前だし、画面がとてもデザイン的じゃないですか。絵がうまくなりたいと思ってアニメーターになった僕ですけど、リアルタッチな絵ばかりを描いていると「これって本当に面白いのかな?」と思うこともあったんです。幸いにも僕の師匠に当たる新房(昭之)さんも出﨑(統)作品がすごく好きで、そういう自由度の高さを認めてくださる方なので、そこはうれしかったですし、僕もこの作品で突き抜けたいなと思ったんですね。

第2話の新房さんとのやりとりはとても勉強になった

――本作にはその新房さんが監修として参加しています。実際の作業はどのように進めたのですか?
大沼 シナリオを見てもらったり、コンテを見てもらったり、新房さんにはいろいろなところで手伝っていただきましたが、基本的には僕の自由にやらせてもらいました。個人的に大きかったのは、新房さんに第2話の絵コンテを見てもらえたことですね。どんなにたくさんの言葉よりも、ひとつの制作物を見せてもらったほうがより多くのものが伝わってくるんです。とくにラスト付近の海辺をバックにした長尺シーンは、膨大なカットがフラッシュバックしてオープニング曲がかかる構成になっているんですけど、じつはコンテではその演出はなかったんです。ただ、ここは(新藤)千尋の記憶障害が明かされる場面ということもあって、新房さんから「それに紐付けた演出をしたらどうか」と提案されて、編集段階で変更しました。これは強烈に印象に残っていて、自分のその後の演出にも大きな影響がありますね。

――それで言うと第7話のBパートで、宮村みやこの留守電メッセージが画面を埋め尽くしていく演出も印象的でした。
大沼 第2話で新房さんのコンテや演出のアイデアを間近で見せてもらえたので、それをベースに発展させたのが第7話ですね。僕自身も美少女ゲームが大好きですし、当時のユーザー感覚からすると、きっとこういった演出も受け入れてもらえるだろうと思ったんです。さらに当時は自分で撮影することもできたので、コンテが上がった段階でいったん自分で撮影してみて、画面として成立するかを検証した記憶があります。ここに声と音が入ればいけるだろうという確信が持てたので、そのまま突き進みました。

――その他で、とくに印象深いシーンはありますか?
大沼 第11話ですね。コンテと演出を宮崎修治君にやってもらったのですが、とくに学校の屋上シーンはかなり綺麗に決まったなという思いがあります。校舎をぐるっと回り込む映像については、じつは原作のオープニングアニメの素材を使わせてもらっているんですよ。

――新海誠さんが作ったアニメーションですね。
大沼 そうです。僕らとしては原作オマージュというわけではなかったんですけど、結果的にはそう受け取った人も多くて、そこは複雑な気持ちでしたね。でも、いいフィルムになったのはたしかなので、結果オーライなのかなと思います。

――いろいろな思い出が詰まった作品になったんですね。
大沼 そうですね。もともとゲーム好きだったので、この作品に携わることができたことがまずうれしかったですし、いろいろな方の力を借りてではありますけど、監督として作品をトータルでコントロールすることの喜びも味わいました。ゲーム業界を選ばなかった未練や迷いのようなものが吹っ飛びましたし、これから先もずっとアニメ業界で生きていこうと、心の底から思えるようになった作品です。

KATARIBE Profile

大沼心

演出家/アニメーション監督

おおぬましん 1976年生まれ。東京都出身。アニメーターとして活動後、演出家へ転向。多くの新房昭之監督作品に参加して頭角を現す。主な監督作は『バカとテストと召喚獣』『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』など。現在、監督最新作『プリンセッション・オーケストラ』が好評放送中。

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