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【佐橋佳幸の40曲】Char「Still Standing」少年時代に憧れたギターヒーローをプロデュース

Re:minder

2015年05月22日 Charのアルバム「ROCK+」発売日(Still Standing収録)

連載【佐橋佳幸の40曲】vol.32
Still Standing / ​​Char
作詞:鈴木桃子
作曲:佐橋佳幸
編曲:佐橋佳幸

少年サハシが憧れたギターヒーロー、Char


どんな腕ききギタリストもかつてはギター少年だった。ギター小僧だった。そして、心から憧れを抱くスーパーギターヒーローがいた。もちろん、佐橋佳幸にもそんな時代があった。少年サハシのヒーローはふたり。彼はその憧れのふたりを “ダブルC” と呼ぶ。どちらも同じ東京育ち。同郷のギタリスト。佐橋にとって “東京のギタリスト” の先輩でもある。ひとりはCHABOこと仲井戸麗市。そしてもうひとりが、Charだ。

「僕にとっては、最初に “わ、ロックやってる人がテレビに出てる!カッコいい!” と思ったギタリスト。それがChar先輩でした。とにかく、やることなすことカッコよくてね。僕らみたいに60〜70年代の洋楽ロックが好きな子供たちにとって、Charさんの登場は本当に衝撃的だった。テレビ番組『ぎんざNOW!』にもよく出ていてね。あの番組、まだ雑誌くらいしかまともな音楽情報がなかった時代、本当に貴重な情報源だったの。「逆光線」とか歌っていたな。僕らにしてみたら “ロックスターがテレビに出てる” っていうイメージだった。今ならば珍しくないことだけど、あの時代、そんな人はまだCharさんくらいしかいなかった。かと思えば、フツウにトークで人生相談に答えたりしてね。そんなところもまたロックだなぁと思ったな(笑)」

佐橋がUGUISSの面々と出会って活動を始めた頃、すでにCharはソロアーティストとしての活動初期を経て、元イエローのジョニー吉長、ザ・ゴールデン・カップスのルイズルイス加部という顔ぶれと、最強ロックトリオ “ジョニー・ルイス&チャー”(のちのピンク・クラウド)を結成。日本のロックシーンを牽引する存在だった。

「初めてCharさんのライブを見に行ったのは1979年の日比谷野音。ジョニー・ルイス&チャーによる『Free Spirit』という伝説のフリーコンサートでした。UGUISSのメンバー、全員で行きましたよ。なぜかというとUGUISSのオリジナルメンバーのあっちゃんこと伊東暁さんが、もともとカルメン・マキ&LAFFのキーボードプレイヤーだったということもあって、けっこうCharさんたちと近い場所にいたんです。でね、その後、これまたあっちゃんのツテで、Charさんの知り合いがやっている練習スタジオを使わせてもらっていた時期があるんです。すごい音楽好きの方で、経営している会社の建物にスタジオがあって。ちょっとした録音もできて。ジョニー・ルイス&チャーもよく練習していたの」

「で、その時期、あっちゃんがUGUISSと掛け持ちしてたのが、西慎嗣さんのラディックスというバンド。で、このスタジオで慎嗣と知り合うんですよ。この頃はまだ楽器車もないから、僕、アンプもスタジオにあるやつを借りてたの。そしたら、ある時、慎嗣が “俺、今、ブギーってメーカーのモニターやってるんだけどさ。ここにいっぱい置いてあるから、使っていいよ” って言ってくれて。ブギーといったら当時、憧れのアンプだよ。“おお、サンタナと同じだよ〜” って(笑)。ずっと慎嗣のを使わせてもらってたな。そんなこんなするうちに、ある日、そのスタジオでついにCharさんとお会いするんですよ。たしか、慎嗣が紹介してくれたんだったと思う」

UGUISSのデビュー前から佐橋の存在を認識


佐橋と同じ東京城南地区に生まれ育ったChar。凄腕の若手が揃っていた佐橋の音楽仲間の中にもCharと共演してきたミュージシャンは多かった。だが、佐橋自身がCharと共演するようになったのは比較的最近のこと。意外なようでもあるが、憧れの人にはなかなか出会えないというのもまた世の常なのかも。

とはいえ、Charのほうにしても、童顔のくせして驚くほどギターがうまい若者の存在は早い段階から印象に残っていたようだ。2014年におこなわれた佐橋のデビュー30周年を祝うスーパーセッションライブ『佐橋佳幸(祝)芸能生活30周年記念公演 ~東京城南音楽祭 T.J.O~』にゲスト出演したCharは、公演プログラムに掲載された “はじめて佐橋と会ったのは?” という質問に “はっきりとした記憶はございませんが、お会いして一緒に演奏したのは意外と最近です。しかし、彼のプレイは30年以上前から存じております。” と答えていた。佐橋の存在はUGUISSのデビュー前から認識していたわけだ。

「たぶんね、それ、慎嗣に紹介された時のことだと思うんだ。もしかしたら同じ時期、何かにアマチュアとして出演したのを見てくれていたのかもしれないけど。初対面は間違いなくその練習スタジオ。それにしても、アマチュアバンドがジョニー・ルイス&チャーと同じ練習スタジオを使っていたりさ。こういうことがフツウに起こるのは、やっぱ東京城南地区という土地柄ならではのことだよね」

Charが還暦を目前にリリースした「ROCK+」


そのデビュー30周年イベントと同じ時期、Charは還暦を目前にしていた。そこで2015年5月、還暦アニバーサリーアルバム『ROCK+』をリリース。老若男女音楽ファンの間でおおいに話題になった。

還暦というのは生まれてから干支が5周巡るということだ。そこでCharは十二支それぞれの生まれ年のアーティストを12人選び、それぞれに1曲ずつプロデュースを依頼。泉谷しげる、布袋寅泰、ムッシュかまやつ、石田長生、奥田民生、松任谷由実、佐藤タイジ、JESSE、福山雅治、宮藤官九郎、山崎まさよしといった豪華な面々と共に、佐橋佳幸も光栄にも “丑年” 代表アーティストとして指名されたのだが。このプロデュースをCharから依頼された際のエピソードがいかしている。

「ちょうど僕はキョンさん(Dr.kyOn)と一緒に、松たか子さんが主演する自由劇場の舞台『もっと泣いてよフラッパー』で音楽を担当していて。本番では舞台上で演奏もしていたんです。忘れもしない、その日は松本公演。夜、ホテルでぼーっとしていた時、ケータイが鳴って、見たらCharさんからだったんです」

Charから “今、何してるんだ?” と聞かれて、なんの用事だろうといぶかりながら、かくかくしかじかでキョンさんと松本にいるんです… と説明したところ、Charはいきなり本題に入った。

「おめでとうございます」

「は? なんすか?」

「私の還暦記念アルバムのプロデューサーに、佐橋くんは選ばれました」

そんな感じだったらしい。還暦祝いのサプライズ… というのは珍しくもないが、祝われる側から祝う側へのサプライズとなると、これはなかなかに珍しい。

「もう、めちゃめちゃCharさんらしいでしょ。いきなり電話がかかってきて “数ある強敵をなぎ倒して佐橋くんが選ばれましたよ” って。どうですか、このカッコいい “上から目線”(笑)。僕も何を言われているか意味がわかんないまま、“えっ、そうなんですか!? ありがとうございます” とか答えて。その後ようやく、この『Rock+』というアルバムについて説明してくれたの。で、たくさんの丑年アーティストの中から僕が選ばれた、ということだった。そりゃもうふたつ返事。喜んでやらせていただきますってことになったんですけど。後から他のプロデューサーの方々の名前を聞いてびっくり。ユーミンさんまでいる、ものすごいメンバーじゃないですか」

サハシが手がけた会心の1曲、「Still Standing」


そんな丑年のサハシが手がけたのは、アルバムの2曲目に収録されている「Still Standing」。英語による詞は、COSA NOSTRAなどでも活躍してきたボーカリストの鈴木桃子が手がけた。

「曲のイメージとしては、僕が初めてテレビで見た頃のCharさん。「Smoky」だったり、「Shinin' You Shinin' Day」だったり、あの頃の感じをやりたくてね。だから、曲も僕に書かせてくださいってお願いして。歌詞は英語にしたかったから、当時よく仕事をしていた鈴木桃子ちゃんにお願いした。「Still Standing」というタイトルは最初から決めていたので、タイトルと、だいたいの内容を伝えて書いてもらった。具体的には、ファンキーで骨太なロックだね。ロックなのに、そこに平然とR&Bの16ビートのテイストをぶち込んだ人がCharさんだったと思うんだよね。僕にとってはそれがハンパなく新しくてカッコよかった。でも、そういえばCharさん、最近そういう路線の曲ってあまりやってないんじゃないかなと思ったの。だから、子供時代の僕が出会いざまに衝撃を受けた、そういう曲を書くんで歌ってください!そういう気持ちで作りました」

結果、ふだんあまり表には顔を出さない “ギター少年・サハシ” が、思わずガッツポーズするような会心の1曲が仕上がった。

「本当に僕に全部まかせてくれてね。レコーディングでも、“お前が作ったリフなんだから、リズムギターはお前が弾け” みたいな感じでさ。もう、B.B.キング状態(笑)。メンバーもいろいろ考えて、うまくいったなぁ。まず、ドラムスは屋敷豪太。ジャック・ブルースが来日した時、Charさんと豪太と3人でクリームの曲を演奏するライブやったんだよね。その話を聞いていたから、絶対に豪太だな、と。こういう曲のビートを叩かせたら豪ちゃんの右に出る者はいないしね」

「あと、Charさんが以前からよく、シカゴ時代のアース・ウィンド&ファイアーがとにかくすごいインパクトだったって話をしてくれていて。だからスカパラ・ホーンズにも来てもらった。ライブ感のある、ちょっと荒々しい感じが欲しくて。で、ベースは有賀(啓雄)。有賀は米米CLUBのてっぺーちゃん(石井竜也)の監督した映画で、てっぺーちゃんとCharさんと3人で主題歌のためのユニット “ACRI(アクリ)” っていうのをやっていたしね」

「あと、パーカッションはCharさんと付き合いの古い江川ゲンタ。キーボードの斎藤有太は、なんたってミッキー吉野さんの一番弟子だし。という、世代は下だけど、確実にCharさんの系譜に縁のある人たちが集まってくれた。で、コーラスは鈴木桃子とZOOCOのコンビ。レコーディングも楽しかったよ。ホーン入れも含めて、ほぼ1日で終わったんじゃなかったかな。Charさんが来て、仮歌を歌って。でも、Charさん、自分はソロだけだからそれは自宅のスタジオでゆっくりやる、と。だから先にオケ録っちゃったほうがいいだろって言ってくれて。それでも、ずっとスタジオにいてくれたな」

ギタリスト同士のスリリングな “会話”


Charはこの曲を、佐橋と一緒に共演する限られたシチュエーションでしか演奏していないらしい。そんな限られた機会のひとつに、コロナ禍に “テレワークver.” として配信されたYouTubeでのアコースティックデュオというのもあった。リモートで繋いだ完全なプライベートなセッション。1対1の真剣勝負。バンド編成で演奏されたバージョンとはまた違う、ギタリスト同士のスリリングな “会話” をたっぷり見せつける名演だった。

佐橋が子供のころから憧れていたミュージシャンと共演する機会は少なくない。いや、もはや憧れていた人たちとはほとんど共演してきたのではないだろうか。でも、多くの場合は大好きだったシンガーソングライターとか、ヴォーカリストとか…。憧れのギターヒーローと佐橋がお手合わせ… 的な場面、実はあまり見たことがない気もするのだが。

「たしかに、考えてみるとそうだよね。たとえばTIN PANの再結成を手伝った時に、初めて鈴木茂さんとがっつりとお仕事させていただいたんですよ。もちろん、はっぴいえんどの頃からずっと聴いてきた大・大・大憧れの人だから、すごくうれしかったけど。ただ、大人になってからは、僕もスタジオミュージシャンとしての仕事を始めているから、どこか “同業者” としての大先輩というか。同じ仕事をしている、憧れの人としてのリスペクト… というかね」

「でも、Charさんの場合、そういうのとは全然違っていて。この『ROCK+』のレコ発ライヴを武道館でやった時には、ハウスバンドの音楽監督をやらせてもらったんだけど。リハーサルでも、“この曲、お前は初めて? じゃ、今、覚えろ” “はい” “メモるな!” みたいな感じで(笑)。全部譜面なし。Charさんが口伝えで教えてくれるのを覚える。で、“この曲は知ってます” って言うと、“じゃ、いきなりやりまーす” って。本当にいきなり始まるの。なんというかね、他のリハーサル現場ではない “稽古つけられてる” 感じなのよ。それがね、なんか楽しかったりするのよ(笑)」

僕がいちばん好きな、日本でいちばん素晴らしいロックギタリストChar


前述の30周年ライブでのアンケートに戻ろう。“忘れられない佐橋エピソードは?” という質問にCharは、“マニアックなシンセのフレーズをギターで表現したときです” と書いていたのだが…?

「ああ、これね。何かのリハの時、Charさんの初期の曲の話になって。その曲でシンセが弾いてたフレーズを “ここのフレーズが印象的だったんですよねー” って弾いてみせたら、ちょうど後ろを向いていたCharさんがガバッと振り返って “お前、今、ギターで弾いたのか!?” って。“はい、ギターしか持ってないんで” と言ったら、“フツウそこギターで弾くか!?” ってビックリされたの。そもそも、そのフレーズに目をつけるやつはいないぞって話でさ。しかも、それをギターで完コピして弾いたやつはお前が初めてだって言われたんです。呆れられたし、感心された」

Charとのエピソードになると、佐橋はにっこにこ。すっかりギター少年の顔になってうれしそう。

「とにかく『Rock+』のプロデュースをすることになって、“おめでとう” って連絡が来た時は本当にうれしかったです。だって子供の頃から憧れていた、僕がいちばん好きな、日本でいちばん素晴らしいロックギタリストだと思ってる人から直々にプロデュースをしてくれって電話が来たんだよ。今まで頑張ってきて、こんなご褒美もあるんだな… と。僕にとっては、まさに “おめでとう” だよ。夢のようでしょ。松本で電話をもらった時は松さんも一緒だったから、すぐに “たいへんなことになったよ!” って報告して。オレ、よっぽどうれしそうにしてたんだろね。松さんも “よかったわねぇ…” ってしみじみ言ってくれました(笑)」

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