Yahoo! JAPAN

振り返りとは“自分のトリセツ”を作ること。人気統計家・サトマイさんが5年間「週報」を書き続けた理由

MEETS


仕事で結果を出し続けている人や望むキャリアを実現している人は、得てして「振り返り」が上手いと言われます。この場合の振り返りとは、やったことをただ羅列するだけでなく、仮説・検証・改善のプロセスを繰り返すこと。その営みを通じて振り返りの精度が上がり、結果として仕事の質も上がっていくのだとされています。

では、あるべき振り返りの形とはどのようなものか。今回は「週報」を2016年から約5年間書き続けたという、人気統計家のサトマイさんにご登場いただき、週報の書き方や続け方、そして振り返りの本質について語っていただきました。

「ミスの原因が分からずミスを繰り返してしまう」
「“なんとなく”で仕事を進めてしまう癖がある」
「PDCAサイクルを回すのが苦手」

そんな悩みを持つビジネスパーソンの皆さんは必見です!

サトマイ(佐藤舞)さん。データ分析、活用コンサルタントとして活躍する傍ら、YouTubeチャンネル『謎解き統計学|サトマイ』を運営する。福島大学を卒業後、26歳で起業。現在は、企業のマーケティングリサーチや需要予測調査を手掛ける合同会社デルタクリエイトの代表を務める。著書に『はじめての統計学 レジの行列が早く進むのは、どっち』(総合法令出版)、『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』(KADOKAWA)など。

※取材はリモートで実施しました

振り返りをしないのは「自分の取扱説明書を読まずに自分を操縦するようなもの」

──ざっくりした質問で恐縮ですが、そもそも「振り返り」とは何なのでしょうか。サトマイさんはどう定義されていますか?

サトマイさん(以下、サトマイ):「予測誤差(編注:予測した値と実績の違い。統計学上の概念)の修正」でしょうか。仕事を進める上では、後の展開や将来起こりうる問題を予測することが不可欠です。が、その精度を上げるには、予測が実際にどの程度当たったかを振り返り、予測と結果の誤差を修正しなければなりません。そして、このプロセスを習慣化すると、仕事の質やスピードが格段に上がり、どんな課題にぶち当たっても本質を上手く見極められるようになるのではないか、と思います。

──そう考えると「振り返りの上手な人は仕事もできる」とも言えそうですね。仕事とは、突き詰めれば、予測して、仮説を立てて、行動して、修正する、というプロセスの繰り返しなので。ということは逆に、振り返りを習慣化できていない人は、仕事も上手く進められない可能性があるのでしょうか?

サトマイ:そうでしょうね。例えば、経営者が頭の中で思い描く売上と実際の財務状況に大きなズレがある場合、間違った意思決定をしてしまうかもしれません。また、一般のメンバーが何かしらの企画を立てる場合も、毎回「なんとなくこれでいける」というスタンスで進めたら、合意形成のプロセスを明文化(言語化)するのが難しくなります。これは仕事の進め方として非効率ですし、何より意思決定が属人化するリスクも高いです。

振り返りをしないというのは、いわば自分の取扱説明書を読まずに自分を操縦するようなもの。そういう人は、他人が発信する成功法則を盲信して思うような結果を出せないこともしばしばです。成功法則には個人差があるので、あらゆる人・状況にフィットする法則というものは存在しません。だからこそ、まずは自分の取扱説明書を理解した上で、自分のスキルや性格、現状に最もフィットする法則に従うべきなんですよね。

──サトマイさんは振り返りの一環として、「週報」を5年間つけていたと伺っています。

サトマイ:2016年に会社を退職する直前から約5年間、毎週休まずに書き続け、週報を通じて自分の強みやどんな分野で起業すれば成功確率が高そうかを分析し続けました。その結果、2017年に個人事業主として開業し、翌2018年には売上1000万を達成できました。現在は週報の代わりに毎朝、会社のチームメンバーと振り返りをする時間を設けているので、形は変わったものの似たような習慣は続けています。

──日報や月報ではなく、「週報」という単位にしたのはなぜでしょうか?

サトマイ:振り返りとは、データから要因を分析して適切な改善案を導き出すことです。そのためには、1日だとデータの量が少な過ぎて改善案の信頼性が下がるし、逆にひと月だとデータの量が多過ぎて脳が記憶を捏造してしまうかもしれない。人間の脳は案外いい加減ですからね。その点、1週間というのはデータの量としても適切ですし、記憶の捏造も起きにくいように思うんです。

週報で「自分の“傾向と対策”をつかむ」。サトマイ流振り返りの技術

──では、実際にサトマイさんが実践されていた週報の書き方を教えていただけますか?

サトマイ:はい。大きな要素として「今週やったこと」「その振り返り」「本当はどうなりたいか」「その結果を得るためのロールモデル」「次週何をするか」という5点を毎回書き出すようにしていました。

まず「今週やったこと」と「その振り返り」ですが、ここではシンプルにやったことを箇条書きにし、その感想をメモします。私の場合は「セミナー参加×4」「インプット疲れで頭に入らなかった、まあいっか」……といった感じで、かなりゆるめに書いていました。ポイントは、やったこととその結果という客観的な情報、自分がどう思ったかという主観的な感想の両方を書くことです。

《画像:サトマイさんが2021年頃に書いていた週報の一部》

──こなしたタスクを淡々と記録するのではなく、自分の感情も併せてメモするのはなぜですか?

サトマイ:先ほど、振り返りとは自分の取扱説明書を作ることだとお伝えしましたが、私自身も、週報で自分の「傾向と対策」を明らかにする(自己理解を深める)ことを重視していました。そのため、やりがいを感じたことや人に言われてうれしかったことなどもラフに書き残すようにしていたんです。ただ、タスクの内容を定量的、機械的に振り返ることには、苦手意識の強い作業でも思いのほか結果が出る場合もあることに気付ける、というメリットもあるので、こちらも重要ではあります。

──週報に、自分の価値観を深堀りしていくという目的を持たせるのは面白いですね。

サトマイ:はい。そのために一番大切なのが、「本当はどうなりたいか」という項目です。ここを書く上では自由にトピックを設定して構いません。私の場合は「この世界に何を残したいか」、「なりたい姿」、「今年の目標」、「真・善・美」(自分にとって何が正しいおこないで、どんなことを美しいと感じているのかの定義)、「こだわり」(自分がやりがいを感じ、強みを生かせるような働き方)、「ドメイン」(自分が開発する商品やサービスに反映したいこと)、「やらないこと/苦手なことリスト」(経験上、生産性が上がらなかったり苦手だと感じたりした仕事)、「誰と仕事をするか」といったトピックを設けていました。個人的に、週報の肝はこのトピックを自分でアレンジし細分化していくことにあると考えています。

──そういった自分の価値観はあまり頻繁に変化しないようにも感じるのですが、週報で毎回確認したほうがいいのでしょうか?

サトマイ:人は自分で設定した目標や目的をすぐに忘れてしまうので、毎週触れるのが実はとても大切です。まずは一旦思いついたことを書き記して、週報を続けるなかで「ちょっといまいちだな」とか「価値観が変わってきたな」と感じるタイミングがあれば随時修正していくのがいいかなと。私自身、週報を書き始めた頃はコロコロ変わっていたのですが、3年目から徐々に固定化されてきて、5年目になるとほとんど変わらなくなりました。

──とはいえ、「あなたのなりたい姿とは?」といきなり聞かれてもなかなか言語化できる人は少ないように思います。

サトマイ:そうですよね。だからまずは、漠然とした目標を設定するだけでOKです。というのも、週報を通じて日常を振り返るなかで、当初思い描いていた目標の解像度がどんどん上がって、自然と具体的になっていくはずなんですよ。まるで秘伝のタレが継ぎ足し継ぎ足しでどんどんおいしくなっていくように。大事なのは、最初から立派な目標を立てるのではなく、振り返りのなかでその目標を微修正していくことです。振り返りにおいては、目標設定力よりも軌道修正力のほうがはるかに大切。あのピカソも「描こうとするものを知るには描きはじめねばならない」と言っています。

《画像:サトマイさんが書いていた目標も、週報を始めた当初は「3年以内に年収1000万円を達成する」「親に海外旅行をプレゼントする」といった粒度だったという》

──その次の項目が「自分が得たい結果を得るためのロールモデル」と「次週何をするか」ですね。ロールモデルをどう設定するか悩む人は多いと思うのですが、ポイントはありますか?

サトマイ:会社員の方であれば、自分が出したい結果を出し、自分と似た属性を持つ人を社内で探すのが近道かなと思います。周囲でロールモデルが見つからない場合は、これまでに触れて印象的だった本やYouTubeの動画、SNSなどを参考に憧れの人をとりあえず書くだけでもいいと思います。私の場合は週報をつけていた時、確率や統計を活用したゲーム研修を開発してトライアルリリースすることを大きな目標にしていたので、そのために参考にしたい人や会社を思いつく限り書いていました。

《画像:ロールモデルはひとりだけではなく、この部分はこの人、この部分はこの人……といった形で複数出すのがポイント》

──先ほど、週報の項目は自分でアレンジして細分化していくことが重要だと伺いましたが、初めて週報を書く人がまずはおさえておくべき項目はあるでしょうか?

サトマイ:マストで書くべきは「今週したこと」と「その振り返り」です。先ほどお話しした通り、目標が具体化されるまでにはある程度の時間がかかります。そのためまずは事実としてやったことと、そこで湧いてきた感情や得た学びを書くと、自分の価値観を深掘りしやすくなると思います。

また、「やらないことリスト」を作るのもおすすめです。やらないことを明文化しておくと、仕事などを引き受けるかどうか迷った際の判断基準になるからです。ただ実際には、自分がやりたくない仕事で結果が出ることもありますし、他人が嫌がる仕事を進んで引き受けることが強みになる場合もありますよね。そして、そういったデータを毎週取り続けると「この仕事でこの部分は苦手だけど、ここは得意」といった感覚が細分化され、自己理解にもつながると思います。

目標設定が苦手な人は「目標設定による成功体験」を積んでいない

──週報を書く上では「続ける力」も求められます。サトマイさんのように5年間とまではいかずとも、三日坊主では終わらないようにサトマイさんが実践されていたことはありますか?

サトマイ:すでに習慣になっているものとセットにすることだと思います。例えば私の場合は、毎週日曜日の朝、起きたらすぐに週報を書くと決めて、カレンダーにも予定を入れていました。やり始めた最初の半年くらいが一番きついと思うのですが、そこを乗り越えると、歯磨きなどと同じく、やらないと気持ち悪いと感じるようになってくるはずです。

あとは他人からフィードバックをもらうこともおすすめしたいですね。以前、参加していたビジネス系のコミュニティ内で週報を投稿するようにしていたのですが、メンバーからリアクションを得たり、自分も他の人の週報にコメントしたりすることが続ける上で大きなモチベーションになっていたので。余談ですが、パーソナルトレーニングも「トレーナーさんのために頑張る」というフェーズになると続く、という印象があります。

──とはいえ、やはり人間ですから、書き忘れたりサボりたくなったりする時もあるのでは。サトマイさんには「先週書き忘れたからもういいや」と投げ出したくなったタイミングはありませんでしたか?

サトマイ:私は比較的、苦にならず続けられました。目標設定が苦手な人っておそらく、目標設定をすることによる成功体験が少な過ぎるんだと思います。会社だと目標を達成できなかったら上司に詰められるようなケースもありますよね。そういった嫌な記憶から「目標設定をしても結局達成できず、自己肯定感が下がるだけだからやりたくない」とおっしゃる方も多いです。でも、どんなに簡単なことでも構わないので、目標設定して達成する体験を一度積むと「やっぱりやったほうがいい」というふうに、マインドセットが自然と変わるように思います。

あと、自分の価値とやったことを別々に考えるようにすると、おだやかに、仏の感情で目標設定ができるようになりますよ。特に週報は誰に強制されるわけでもなく自分のためにやっているわけなので、評価者は自分だけだし、その評価は結果に対してのものであって自分自身に対する評価とはイコールではない、と少し肩の力が抜けるのかなと。

──サトマイさんは週報を5年間続けた結果として、どのようなことができるようになりましたか?

サトマイ:自分が苦手なことやできればやりたくないことにチャレンジした時に、意外にも結果が出たケースと出ないケースの違いを分析する癖ができましたね。言い換えれば、PDCAサイクルを回す力が身に付いたのだと思います。結果的に、悩んでいるクライアントに対して「過去同じ状況に陥った時、上手くいった時と上手くいかなかった時の違いを教えてもらえますか?」などコーチング的な視点でクリティカルな質問ができるようになりました。

──ありがとうございます。週報を書くメリットや書く上で必要なマインド、そして振り返りの本質が理解できました。最後に、マイナビ転職は現在「給与アップ応援宣言」というプロジェクトで、あらゆるビジネスパーソンの年収アップを支援しているのですが、やはり年収を上げる上でも「振り返る力」は重要だと思いますか?

サトマイ:非常に重要だと思います。もちろん振り返るだけで年収が上がるとは思いませんが、自分を取りまく環境の中で努力して解決する部分とそうでない部分を選別することにはつながりますよね。選別した上で、場合によっては副業や転職などの選択肢も視野に入れる。その時、手持ちの経験やスキルのなかで何が年収アップに結びつきそうかを考える際にも、振り返る力は必須です。いま会社員の方もそうでない方も、望むキャリアを手に入れて、年収を上げるために振り返りの習慣はきっと役立つはずです。


振り返る力はキャリアを育てる力に直結します。振り返りを通じて「なりたい自分」の解像度を上げながらキャリアアップしてみませんか? マイナビ転職には「給与アップ」を実現する求人が数多く掲載されています。ぜひチェックしてみてください。

( https://tenshoku.mynavi.jp/content/declaration/?src=mtc )

取材・文:生湯葉シホ
編集:はてな編集部
制作:マイナビ転職

//

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. チワワ「わたしが仕留めました」 犬が待つ家に帰ったら...広がる光景に1.3万人ビックリ「完璧な仕事を見た」

    Jタウンネット
  2. 徳島市・鳴門市|修業を積んだ料理人の腕が光るグルメ2選/ランチ/スパイスカレー/洋食/モーニング

    あわわ
  3. ペロリといけちゃうよ。【永谷園公式】の「お茶漬けの素」の食べ方がウマい

    4MEEE
  4. チョコレート専門店「ドレンティチョコレート」看板商品の新フレーバーもおいしそう♡阪急うめだ本店・博多阪急の期間限定ショップで買えるよ。

    東京バーゲンマニア
  5. サンシャイン水族館で深海生物の秘密に迫る展示

    東京バーゲンマニア
  6. 飼い主が避けるべき『犬用品』6選 買わない方がいいグッズや危険な理由まで

    わんちゃんホンポ
  7. 【激かわ】八天堂の「ミッキー型くりーむパン」が可愛すぎ!パッケージもキュート、関東で買えるチャンスも♪

    ウレぴあ総研
  8. いちごをふんだんに使用した贅沢なパフェ

    東京バーゲンマニア
  9. 『おジャ魔女どれみ』25周年の新作グッズにひとめぼれ!なりきりエプロンも♪

    ウレぴあ総研
  10. 神戸ポートタワーで『ミニポートタワーを作るワークショップ』が開催されるみたい。ランチまたはスイーツ付き

    神戸ジャーナル