新米ママのための基礎知識「乳腺炎」 ベテラン助産師が教える予防法
お産の支援はもちろんのこと、妊娠中のママの体調管理をアドバイスし、産後のママと赤ちゃんの健康をサポートしてくれる助産師さん。彼女たちは、授乳やおっぱいについてのエキスパートでもあります。
新米ママのための基礎知識「乳腺炎」の2回目は、「ベテラン助産師が教える予防法」と題して、多くのママたちのおっぱいの悩みに寄り添い、解決を手助けしてきた横浜市のアールアンドワイ桶谷式母乳育児相談室の助産師・福田良子先生にお話を伺います。
正しい抱き方で授乳をすれば、おっぱいのつまりはかなり予防できます
福田先生が横浜駅近くに相談室を開設したのは1985年。以来40年にわたり、たくさんの新米ママたちの授乳や育児の相談に応えてきました。そんなベテラン助産師の福田先生は、この20年で「自分の子どもを産むまで赤ちゃんを抱っこした経験がない」という新米ママがとても多くなってきたと感じているそう。それと並行して、おっぱいの悩みを抱えるママも増えてきているとか。
「うまく抱っこできないことが、授乳トラブルの原因になっている可能性は否定しきれないと思っています。たとえば乳腺炎で相談に来られたママさんに、実際にどんな授乳をしているのか見せてもらうと、ほとんどの方が赤ちゃんを授乳クッションに寝かせて真横抱きの状態でおっぱいをあげています。生まれたばかりの赤ちゃんは小さいうえにからだがフニャフニャしていて、慣れないママにとっては抱きあげるのは怖いのでしょう。ただ、この姿勢で授乳すると、赤ちゃんはおっぱいを上手に飲むことが難しいんです。そしてうまく吸わせられていないことが、乳腺炎を引き起こす原因にもなってしまうんですよ」(福田先生)
乳腺炎の発症には、おっぱいの与え方が大きく関わっているという先生。それでは乳腺炎を予防するための正しい授乳法を教えていただきましょう。
授乳は赤ちゃんとママの目が合うように抱っこして
横向きに寝かされた赤ちゃんがママの乳頭をくわえると、乳頭が左右から押しつぶされ、これが母乳を詰まらせてしまう原因になります。こういう抱き方での授乳は、「赤ちゃんも飲みづらいし、おっぱいを詰まらせる可能性がある」と福田先生はおっしゃいます。
全体を横に抱いたままの授乳では、赤ちゃんもおっぱいを飲みづらくなります
基本は、赤ちゃんの口とママの乳頭が同じ高さになるように赤ちゃんの上半身を少し起こして斜めに抱っこすること。そうすると、赤ちゃんの口が上と下からママの乳首をはさんでくわえる形となり、母乳を飲みやすくなります。授乳クッションはちょっと脇に回してママの腕を支えたり、抱っこの高さを変えたりするのに便利です。
横抱っこではなく、首を腕で支えるようにして赤ちゃんの体を起こして授乳をすれば、乳頭を正面からくわえられるようになります
「ママの乳頭は、上下にくわえたときに一番伸びて母乳が出やすくなります。それに私たち大人でも寝ながら横向きで水を飲むのは難しいのと同じで、赤ちゃんも縦に抱かれた姿勢の方がおっぱいを飲みやすいんです。できるだけママの乳頭を上下にくわえられるように、抱っこの仕方を工夫していただくといいのではないでしょうか。縦でなくても斜めに抱けば、赤ちゃんとママの目が合います。おっぱいをあげている間はそうやってアイコンタクトをとりながら、親子の絆を深めてください」(福田先生)
乳輪まで入るよう、深くくわえさせてください
赤ちゃんにママのおっぱいを乳輪までくわえさせることも大切です
「浅くくわえて乳頭の先だけを吸っていても、母乳はうまく出てきません。あまり出てこないから、赤ちゃんは満足できなくていつまでも吸い続ける。そうすると、ママの乳頭がつぶされたり切れたりして、傷ができやすくなります」(福田先生)
乳腺炎の原因の一つに、乳頭の傷から常在菌が入って炎症を起こすことがあるのは、新米ママのための基礎知識「乳腺炎」 専門医が解説する原因と症状と対処法の記事の中で吉村先生が教えてくださいました。
生まれたばかりの赤ちゃんの口は小さいし、ママのおっぱいや乳頭の形はそれぞれですから、すぐにうまくできるわけではありませんが、授乳のたびに赤ちゃんが乳頭・乳輪を深くくわえているか気をつけたいものです。
1回の授乳で左右のおっぱいを両方与えましょう
「赤ちゃんが、母乳が出やすい形で上手に飲めるようになったら、授乳に長い時間をかける必要はありませんよ」と福田先生。
ママのおっぱいの出方も赤ちゃんの吸い付き方もそれぞれに個性があり、その時々で違います。でも、例えば右のおっぱいを数分飲ませ、赤ちゃんが一息ついたら左のおっぱいに変えて、最初よりちょっと長めに飲ませ、もう一度右に戻って飲ませるという具合に、左右交互に授乳すると、だいたい20分以内でほとんどの赤ちゃんは満足するそう。
「右のおっぱいを飲ませていると、左のおっぱいも出てきます。ですから頃合いを見計らって左に変えると飲みやすいんです。そうやって左右のおっぱいを交互に飲ませてあげると、赤ちゃんは短い時間でたくさん飲むことができますし、ママにとっては母乳の詰まりや乳腺炎の予防に効果があります」(福田先生)
おっぱいが詰まりぎみになると、そちらのおっぱいばかりを与えて詰まりを解消しようとしがちですが、片方だけで授乳していると、反対側の詰まりを引き起こしかねないので、左右のおっぱいは均等に授乳したほうがいいとのこと。ちなみに個人差はありますが、母乳は赤ちゃんがおっぱいをくわえて、1分程度の刺激で湧いてくるとのこと。案外短いようです。
「だからといって1分ずつで左右交互に与えるのではなく、赤ちゃんの表情や雰囲気を見ながら、ママと赤ちゃんのリズムで上手に与えてください。そのリズムは、ママと赤ちゃんだけのものです」(福田先生)
授乳中に痛みや違和感を覚えたら、すぐに専門家に相談を
乳腺炎の前兆として、「授乳中に感じるチクチクと棘が刺さったような痛み」があります。乳頭に白斑ができたり、乳栓(白いニキビのような突起物)が詰まったりして、おっぱいに固い部分ができると初期症状です。
乳腺炎かもしれないと慌てて先生の相談室を訪れるママのほとんどが、「2週間ぐらい前から固まりができて痛かったけれど、忙しさに紛れて我慢していたら熱っぽくなってきた」と訴えるそうです。
「赤ちゃんが小さいうちは、外出もままならないのは分かります。慣れない赤ちゃんの世話に疲れてもいるでしょう。それでも乳腺炎を悪化させないためには、おっぱいに異常を感じたら、早めに助産師や専門の医師に相談していただきたいです」(福田先生)
初期の乳腺炎なら、助産師さんに乳房マッサージで詰まりを取ってもらうだけで治ることが多いそうです。でも炎症がひどい場合には、病院で治療や投薬を受けなければなりません。乳腺炎かもと思ったら、早めに助産師さんにサポートしてもらいましょう。
かわいいわが子の満ち足りた表情を眺めながら授乳するのは、ママにしか味わえない至福のひととき。それが乳腺炎で痛みや苦しみに変わってしまわないように、ぜひ妊娠中から授乳時の抱っこやおっぱいケアについて学んでおいてくださいね。
福田良子(ふくだ・りょうこ)アールアンドワイ母乳育児相談室 院長 助産師
助産師として病院で勤務しながら、桶谷式乳房管理法を学ぶ。1985年横浜市にアールアンドワイ母乳育児相談室(https://www.ray-oketanishiki.jp/)を開設。「子育てを一から見直すプロジェクト」代表、日本抱っこ法協会公認ホルダー、公益社団法人桶谷式母乳育児推進協会理事を務める。自らも娘さんを育てた先輩ママでもある。