【発達障害と決めつけてしまう前に】「親が子どもにかけたいことば」と「子どもが自分で言えるようにしたいことば」/公認心理師:湯汲英史
最近、ほかの子に乱暴する子どもの相談が増えています。大人には、はっきりとした理由が思い浮かばないこともあります。
5、6歳になると、自分の感情をことばで表現できるようになります。例えば、「楽しいね」「怒るよ」「かわいそう」などと話すようになります。ことばであらわすことで、ほかの子との共感が生まれ、互いに理解を深めます。
不機嫌で急に怒りだすような子は、大声でわめく、ものを投げるといった行動に出てしまいます。そのような姿を見て、この子は自分の気持ちがよくわかっていないのでは、と考えるようになりました。自分の気持ちがわからなければ、ほかの子の気持ちはわかりません。
「気持ちの切りかえを促すことば」は、子どもが自分の気持ちを理解し、コントロールする力を与えます。これらのことばを意識的に使って関わることで、子どもの気持ちは安定していきます。
『0歳~6歳 子どもの感情コントロール力の育て方』(Gakken)では、「気持ちの切りかえを促すことば」について、「気持ちをコントロールすることば」「視点を変えることば」「理解力を高めることば」に分けて、親が子どもにかけたいことばと子どもが自分で言えるようにしたいことばを紹介しています。
今回は、その中から3つの「親が子どもにかけたいことば」と「子どもが自分で言えるようにしたいことば」を抜粋してご紹介します。
ここ数年、不機嫌な子どもたちが目立つように
保育園などの巡回相談で、主に発達障害のある子の発達の評価と、保育に関するアドバイスを行っています。
40 年ほどやっているのですが、ここ数年、気になっていることがあります。それは、不機嫌な子が目立つようになっていることです。
例えば、登園の際、日によってスムーズにお支度ができません。行動にムラがあり、気持ちが安定していません。ある女の子は、保育者の言うことを聞いて楽しそうにしていたかと思うと、急にすねて不機嫌になり、保育者の話が耳に入らなくなってしまいます。
午前中はおおむねグズグズし、集団行動がなかなかとれない子もいます。無理に誘うと、泣いたり騒いだりします。ある男の子は、気に入らないことがあると手や足が出ます。気に入らないことといってもささいなことです。同じようなことがあっても、乱暴しない時もあります。対応が安定しません。
この不機嫌な子どもたちには、知的障害や発達障害はありません。中には優秀な子どももいます。こういう子どもたちが、一つのクラスに1人ではなく、2~3人いる園もあります。
「不機嫌」の問題は、子どもの感情が明るさを失っていることです。
明るい気持ちとは、外の世界に心が開かれている状態ともいえます。外の世界に心が開かれているから、子どもは何事にも好奇心を向けていきます。物事に積極的に関わることで、子どもは成熟に必要なことを学んでいけるのでしょう。
不機嫌さは、子ども同士の関係を悪化させる原因になったり、社会性の発達に悪影響を及ぼしたりする可能性があります。
感情に振り回されていれば、日々の生活は不安定になります。心穏やかに過ごせません。怒りや悲しみなども含めて、人にとって感情のコントロールは一生の課題でもあります。
自分の気持ちがわからなければ、ほかの子の気持ちはわからない
子どもの気持ちに寄り添う、ということばをよく耳にします。しかし、人の気持ちほどわかりにくいものはありません。そのうえに、移ろいやすくもあります。
自分の気持ちがわからなければ、ほかの子の気持ちはわかりません。子どもに注意する時に、「たたかれたら、いやな気持ちになるでしょう」「大声で言われたら、悲しくなるでしょう」と話しても、相手が「いやな気持ち」や「悲しくなる」ことを想像できないのかもしれません。
自分の気持ちを理解できるよう、子どもに「今、怒っているよね」「悲しい気持ちかな」と、その子の気持ちを想像しながらことばで伝えるようにしましょう。子どもが自分の気持ちに目を向け、それをことばであらわせるようにしたいからです。
気持ちの切りかえを促すことば
子どもの気持ちを切りかえることばを紹介します。「気持ちの切りかえを促すことば」として、具体的なことばかけの仕方をお伝えします。
「気持ちの切りかえを促すことば」は、子どもが自分の気持ちを理解し、コントロールする力を与えます。これらのことばを意識的に使って関わることで、子どもの気持ちは安定していきます。
ここでは、「気持ちをコントロールすることば」「視点を変えることば」「理解力を高めることば」に分け、親が子どもにかけたいことばと子どもが自分で言えるようにしたいことばを紹介します。
※『0歳~6歳 子どもの感情コントロール力の育て方』(Gakken)では、「気持ちの切りかえを促すことば」として25例紹介しています。今回は、その中から3つのことばを抜粋してご紹介します。
気持ちをコントロールすることば「泣くのはおしまい」
感情のコントロールは、人生において一生続く課題だといえます。子どもは幼児期に、感情のコントロール力を身につける時期がやってきます。
気持ちを切りかえる
泣いて自己主張する子には、2歳台から「泣くのはおしまい」と伝えていきましょう。
実際に泣いて要求されても、親としては何をしてほしいのかがよくわからないこともあります。
子どもの側からいえば、自分の考えがはっきりし始めると、泣いても自分の思いが通じないこと、泣くよりもことばで表現した方が、自分の思いが実現しやすくなることがわかるようになります。
泣くことをコントロールできるようになる一方で、自己表現の力が伸びてくるのです。
泣くのではなくて「ことば」で伝える
子どもがことばで表現することの大切さを知れば、その方が相手に伝わりやすくて便利なことがわかります。また、ことばの方が理解し合えると感じることでしょう。
子ども同士でも同じです。泣いて要求しても、わかってもらえず相手にされないことがあります。このことが、子どもを急速に成長させると思います。
怒って話しても伝わらない
「表現が激しい」といわれる子どもがいます。よく話を聞くと、「喜怒哀楽」のうちで人と人を結びつける、喜びや楽しみの表現はあまりありません。
怒ったり、泣き騒ぐといった表現がほとんどです。これらの表現は、ある程度コントロールされないと、人と人との関係を断ち切る可能性があります。
理由は丁寧に教える
子どもが何かを要求する時には、その子なりの理由があります。
「なんで」「どうして」と質問しだすのは3歳前後で、理由を話せるようになるのは4、5歳くらいからです。それまでは、理由表現を丁寧に教えていきましょう。
視点を変えることば「おしまいだね」
「あきらめる」ことがうまくできない子がいます。
「仕方がない」と考え、気持ちを切りかえることがスムーズにできません。一つには、感情のコントロール力が弱いことが理由として考えられます。好きなおもちゃが壊れる、楽しいあそびにも終わりがあるなど、子どもは我慢してあきらめることを学ぶ必要があります。
あきらめることによって、新しいことに気づき、再出発ができるようになるともいえます。
あきらめる
2歳台から、子どもは泣いたり騒いだりして自分の要求を通してはいけないことを親や周囲の大人から教わり、理解していきます。
「泣いていてもわかりません」「泣かないでことばで言いなさい」と言われ、ことばで表現することを学び始めます。
子どもの感情のコントロール力が弱いと感じる場合、これまでこういう関わり方をしてこなかった、あるいは体験が少なかったのかもしれないので、ことばで表現することを伝えていく必要があります。
子どもが3歳前後なら、「残念だけど壊れたね」「楽しいよね、でももうおしまいだよ」と終わりを告げるようにしていきましょう。こういったことばかけによって、自分の感情をコントロールし、気分を転換できるようになっていきます。
思い通りにはならない
「物事には終わりがある」ということがわかりにくい子もいます。
何事も自分の思い通りになると思っている子です。このような子には、思い通りにならないという体験も必要です。「おしまいはお母(父)さんが決める」と言い、終わりを決めるのはだれかを明確に伝えましょう。
家族で暮らしていくために、それぞれの家庭にルールがあるはずです。大人数で暮らす際には、そのルールをはっきりさせなければ、家庭は安定しないでしょう。
ところが現在は、核家族や2、3人といった少人数の家庭が多くなっています。そのためか、家庭で子どもが思い通りに振る舞う姿が増えているのかもしれません。
幼児期を過ぎ、小学校で学ぶようになると、ある程度先生の決めたことに素直に従わなければ、学習は進まないでしょう。思い通りにしたい気持ちが強ければ、学校になじめない可能性があります。思い通りにならないこともあるという体験はとても大切です。
理解力を高めることば「わからないんだね」
子どもはできるようになりたいと思っています。
そこで素直に「できない」や「わからない」と言って、ほかの人に助けを求められる子がいる一方、素直に助けを求められない子がいます。
できないことを過剰に意識し、それをいけないことと感じているのかもしれません。できないことへの自己評価が、過敏のような気がします。
わかりたい気持ち
子どもは学びたがっている存在です。
幼児期の子どもを見ていると、運動、身辺自立、文字、数、認知など、その学習量の多さに驚きます。
学習は、ある順序をもって進み、大多数の子どもが膨大な量の学習をこなしていきます。この学習を支えるのは、親や周囲の大人であり、兄弟姉妹や仲間などです。
絵本や紙芝居、アニメなども重要な教材です。しかし、幼児期において自学自習は簡単なことではないので、人に助けを求め、教えてもらった方が合理的に学べるはずです。
子どもに「わからないんだね」「難しいね」などとことばをかけ、「できるようになりたいよね」「『教えて』と言えるといいね」と、助けてもらえるように伝えていきましょう。
「困っていること」に気づけるように
子どもの中には、できないことに気づいていない子がいます。
折り紙などで、何を作らなくてはいけないかが、イメージできていない場合があります。このような子の場合は、完成形を見せて元の折る前の紙に戻してから折るようにしたり、プロセスの写真を見せたりするなど、イメージをしやすくする工夫が必要でしょう。兄や姉がいれば、子ども同士で教え合うのも、よい刺激になります。
気になる子どもたち
現在は、発達障害の情報が広がりすぎて、少し変わった子を発達障害と決めつけてしまう風潮があります。
「過剰診断問題」として、専門家から憂慮の声も聞かれています。
子どもは未熟な存在です。成熟に向かう、発達途上にあります。育つ中で、たくさんの失敗や行きすぎた言動をしてしまいます。
ただ、このような失敗や行きすぎた言動を通して、状況に応じた振る舞い方を学習していきます。子どもは過ちを犯すことによって、学んでいくのです。
中には、はっきりとした発達障害があるわけではないのに、集団にうまくなじめない子がいるのは確かです。「気になる子」といわれる子どもたちです。
気になる子どもたちは、よく見てみると幾つかのタイプに分けられます。
『0歳~6歳 子どもの感情コントロール力の育て方』(Gakken)では、気になる子どもを4つの原因(「社会性の問題」「理解の問題」「感情コントロールの問題」「養育環境の問題」)に分け、対応法を紹介しています。
この本の目的は、子どもの感情世界を紹介しながら、子どもの気持ちのありようを考えることです。あわせて、子どもの気持ちの背景にある理由を理解することで、対応法を見つけることができます。
子どもがその対応法を自分で学べば、怒りのコントロールも含めて、感情への抑制力を身につけていくことでしょう。
それは、一生の課題を解決する第一歩につながるかもしれません。
0歳~6歳 子どもの感情コントロール力の育て方
湯汲英史(著)
定価 1,650円 (税込)
★★ママ・パパが絶大な信頼を寄せる保育士てぃ先生推薦!
「子どもの心がわからない!」……と、思ったら読む本★★
気持ちをことばにできないから、怒りを反射的にあらわす、乱暴な振る舞いをしてしまう…。感情をコントロールできないまま成長し、良好な人間関係を築けず、友達ができない、そんな「不機嫌になりがち」な小学生が増えています。
本書では、発達心理の専門家が、0歳~6歳の発達のポイントを押さえながら、【子どもの感情世界】を解説。【具体的な活動(あそびやお手伝い)】や【気持ちの切りかえを促すことば】も紹介します。親を含めた周囲のかかわり方だけでなく、子ども自身がその対応法を身に着ければ、怒りのコントロールを含めて【感情のコントロール力】を身につけることができます。
子どもを知れば、子育ての悩みは消える!――てぃ先生
▼こんな【子育てのお悩み】を持つ方におすすめ
・感情の起伏が激しい
・すぐ怒る
・すぐ手や足が出る
・落ち着きがない
・友達と仲良くあそべない
・ほかの子にちょっかいを出す
●例でわかる!【感情をコントロールするのに役立つ活動10例】
◆例:線を意識したあそび◆
駅で「白線の後ろに下がって」と言われてわかるようになるのは2歳台です。線を意識しだすと、走る前に線に並ぶこともわかるようになります。スポーツは線を意識したルールで勝敗が決まります。その第一歩が、「線から出ない」という理解から始まります。
※発達過程はあくまでも目安です。発達には個人差があります。
●すぐためしたくなる!【気持ちの切りかえを促すことば25例】
【気持ちをコントロールすることば】【視点を変えることば】【理解力を高めることば】に分け、親が子どもにかけたいことば、子どもが自分で言えるようにしたいことばを紹介します。
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気持ちをコントロールする:手はおひざ/後で/半分の力で…など
視点を変える:おしまいだね/~かもしれない/約束だよ…など
理解力を高める:はんぶんこ/順番ね /~番目にやって…など
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※本書は、保育者向け『0歳~6歳 子どもの感情コントロールと保育の本』(2020年発売)を保護者向けに調整・一部加筆したものです。