【「ポスト岸田」候補】菅義偉氏は首相に向けて退陣要求と取れる発言、9月総裁選へ向けて早くも動きが。首相再選は?有力候補者は?
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ポスト岸田候補」。先生役は静岡新聞の橋本和之論説委員長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年6月25日放送)
(橋本)自民党の菅義偉前首相が23日公開のインターネット番組で、派閥の裏金事件による国民の政治不信は、責任を取っていない岸田文雄首相に一因があるとの考えを示しました。9月の総裁選では、新たなリーダーが出てくるべきだとの認識も表明しました。
通常国会が21日に事実上終わり、23日閉会したんですが、その日にいきなり自民党総裁選に向けた具体的な動きが出てきたということで「おっ」と思い、このニュースを取り上げてみました。
(山田)菅前首相が、「岸田さん次はもう出るべきじゃない」と言ったということですよね。菅さんは、今、力がある人なんですか。
(橋本)元々「自民党は派閥政治だ」と言われていてますが、今回の裏金の件で基本的には幅が解消された形になりました。ただ、政策集団として残った団体が二つあります。
菅さんは元々無派閥ですが、周りには菅さんを慕う人たちが集まっていました。今回、裏金事件で派閥が解消された状況になったので、無派閥の中心人物というか、キーマンということで注目されるようになっています。岸田さんを支えている元の安倍派や麻生派などの主流派ではない方、つまり非主流派の勢力の中心にいるということになります。
(山田)ということは、この発言は結構大きい影響力があると。
(橋本)そうですね。ただ、菅さんは岸田さんとは前から距離を置くような感じがあったんです。菅さんとしては国会が閉まるタイミングであえて記者たちに「ノー」を突きつけたということだと思います。
最近は次の総裁候補というと必ず、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相、あと茂木敏光幹事長らの名前が上がりますね。そういう方たちと会食したというニュースが今国会の終盤に報じられてましたので、いよいよ今回のネット番組の発言で「反岸田の狼煙を上げた」っていうような見出しをつけて、報じていたところもありますね。
岸田内閣の支持率は、危険水域とされる30%をずっと下回っていて、調査によっては10%台の数字も出ています。岸田さんは9月の総裁選再選を目指しているとずっと言われていて、本人もまだ意欲を示していますが、だんだん難しくなっているということじゃないかと思います。
(山田)ここに来て、菅さんのこの一言ですもんね。菅さんが岸田さんに退陣を求める理由っていうのはどういうところにあるんですか。
(橋本)岸田内閣だけではなく、自民党も裏金事件で相当支持率を落としていますので、次の衆院選で政権を失いかねない状況になっています。そういう危機感が最大の理由だと思います。
ただ、菅さんは2021年の前回総裁選の前に解散しようとしたものの党内の反対できなくて、内閣改造をやろうとしたけれどもそれも周りの賛同が得られなくてできませんでした。その時にちょうど岸田さんが「次の総裁選に出ます」と手を挙げて流れができてしまい、菅さんは次の総裁選に出ずに退陣せざるを得ませんでした。
その道筋を作った人物のうちの1人が岸田さんであるため、菅さんとしてはそのことをどう思ってるかということがあります。周りからは、「やっぱりそのときの遺恨があるんじゃないの」と見られているということです。
しかも菅さんの岸田首相批判というのは今に始まったことじゃないんです。
(山田)そうなんですね。
(橋本)昨年の1月に内閣支持率が30%台に落ちたときに、「派閥政治を引きずっている」と批判して、話題になりました。「前首相は現職の首相を批判することを控える」というのが自民党内の暗黙のルールなんですが、これを破ったわけです。
さきほど言ったように菅さんは無派閥で自民党非主流派のキーマンですが、岸田さんは当時、首相は派閥を離れるという慣例に従わずに、岸田派の会長をずっと務めていたので、「それはいかがなものか」と菅さんが苦言を呈したわけです。
そうした菅さんの個人的な部分と、「このままだと本当に政権交代になる」と心配していること、その二つが今回の発言の大きな理由なんじゃないかと思います。
岸田首相は総裁選に出られるのか…?
(山田)こうやって菅さんが岸田さんに交代を求めるというようなコメントをしてますけども、岸田さんは総裁選に出られなくなるんですかね?
(橋本)それだけで決まるわけではないと思います。岸田さんは、最大の政治課題が次の総裁選で再選することだと位置付けて、そのためにいろいろこれまでやってきた方です。その中で予期しない裏金問題などに対応しなくてはならなかったのですが、その対応は国民の理解を得られませんでした。もっと上手な思い切った改革をすることで理解を得られたかも知れませんが、それができなかったということですね。
元々は、再選をするために安倍派や麻生派から支持をもらい、見返りとして人事などに最大限配慮して党内基盤というのを固めてきました。
岸田派は第4派閥だったので、一番大きい安倍派や茂木派、麻生派といった他の主要派閥の支持をもらって、再選に向けて着々と準備を進めてきました。ところが、裏金事件などもあって国民から支持を得られず今に至り、再選が危うくなってると。でも、本人としては、まだ出馬に意欲があるとされています。結構「鈍感力」の人とも言われますから。
(山田)鈍感力。
(橋本)出られると本人は思っているのではないかと想像します。まだ3カ月弱あるので、その間に政局がどうなってるかや、党内の権力争いみたいなものがどうなっていくかによって、出られるのか、前回総裁選のときの菅さんのように出られなくなってしまうのか決まります。現時点ではちょっと判断がつきません。
(山田)まだわからないけれど、出馬できない可能性も十分あるということですね。
(橋本)あるいは自分も出るけど、勝てないということもあるかもしれませんし、まだ何パターンかあって、今後どうなっていくかわからないということですね。
最新の世論調査で、「ポスト岸田」1位は石破氏
(山田)先ほど、次の総裁として、石破さん河野さん茂木さんの名前が出ましたけども。今のところ、次に首相になる人の予想はどうなんですか?
(橋本)初めに紹介した、菅前首相の発言についての記事が掲載されたのと同じ日に、共同通信が行った週末の世論調査の結果が出ていました。それによると、1位が石破さん、2位が小泉進次郎元環境相、3位に上川陽子外相と河野さんが同率でしたね。5位に高市早苗経済安保担当相というような並びになっていました。
同じような調査をずっとやっているので、3カ月前の調査と比べてみましたが、そんなに順位は変わってませんでした。3カ月前も石破さんがトップ。河野さんと高市さんの順位が今回、ひっくり返っていました。6位は前回も今回も岸田さんという並びになっています。
(山田)そうなんですね。
(橋本)河野さんはマイナンバーのことでもいろいろ批判も受けましたので、4月ぐらいには首相候補からちょっと後退したんじゃないかといった観測もありましたね。
(山田)小泉進次郎さんって可能性はあるんですか。
(橋本)国民的人気はありますが、それだったら石破さんかなという気もします。党内の国会議員に人気のない石破さんが総裁になるのは、もう本当に次の選挙をやったら野党に負けて政権交代になってしまうというときだと思います。少しでも国民に人気のある総裁を立てて選挙をやらないと、とても勝てないというときだと思うんですよ。
そうすると、小泉さんと石破さんのどちらかを選ぶなら、人気がより高い石破さんが選ばれやすいんじゃないかなと思います。党内には石破さんへの拒否反応がある人もたくさんいますが、小泉さんではやはりまだちょっと若すぎるという感じもあります。大臣の時に発言が批判されたこともあったので、そうしたことを含めて考えると石破さんが票を集める可能性のほうが高いのではないでしょうか。
(山田)上川さんという可能性はどうですか。
(橋本)昨年の秋ぐらいから、もしかしたらという話が出て、世論調査でも一定の票を取っています。支持があるというのは確かだと思うんですね。党内でも、例えば麻生さんは「上川さんはありなんじゃないか」と言っているという話は聞きますけれども、岸田さんと同じ岸田派なので、もし岸田さんが総裁選に出ると、それに対抗して上川さんが出るというのはないんじゃないかなと思います。今までの自分のボスだった人にあえて対抗してそこで出るという選択肢は、ないんだろうということですよね。
岸田さんが出なかった場合でも、上川さんは自分の派閥を持っていないので、推薦人とかを集めるためにはある程度グループで応援してくれる人たちがいないと難しい。そうなると岸田派だった人、さらに他の派閥だった人たちからも支持をもらわないと総裁になれません。
(山田)ハードルがありますよね。
(橋本)それと自分が首相になろうと思ってそうした体制を準備してきた人でないと、ただ、周りに担がれただけで首相になるということはなかなか難しいんじゃないかなと思います。
(山田)上川さん本人がその今のハードルを越えて自分でやるかっていうと、ちょっとまだわからないですね。
(橋本)首相になろうとする人は、その何年も前から準備をして、支持基盤を固めているものです。それがないと、なかなか戦えないと思います。女性の首相というと高市さんか上川さんかという話になるので絶対にないとは言えないですが、私個人としては可能性は薄いんじゃないかなと考えています。
首相交代なら、支持率が上がる?
(山田)これでもし、岸田さんから総裁が変われば、支持率は多少上がるでしょうか。
(橋本)田村憲久政調会長代行がこの前の菅さんの発言があったときに、別で発言をされていて、「総裁に変わっても支持率が上がるほど甘い状況ではない」と言っているんですね。多少上がるかもしれませんが、今10%台とか20%と、危険水域の30%より遥かに低い状態にあるので、ここで看板を掛け替えたからと言って、やっぱり自民党に任せましょうということになるかどうかはなかなか厳しいのかなと思います。
(山田)そうですね。
(橋本)それに、もしもこれから内輪もめのような権力闘争を3カ月弱ほど見せつけられると、有権者がさらに冷めてしまうということもあると思うんですよね。
(山田)そもそも冷めてきているときに、より、ということですね。
(橋本)だから、自民党は先の通常国会でやりかけた政治改革、あるいは物価高で苦しんでいる国民の生活を良くする政策などで具体的な実績を上げて、「自民党頑張ってるな」という評価をもらわないと、首相が変わることだけで支持率を上げようと思っても私はちょっと難しいと思います。
国民はみんなそういうふうに見てると思うんですが、肝心の永田町の先生方がそれをあまりよくわかってないというのは、なんだか不思議ではあります。
(山田)9月に総裁選ということで、今後注目していかないといけませんね。今日の勉強はこれでおしまい!