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徹底解説!レディー・ガガ演じる“ジョーカー崇拝者”の真の目的とは?『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』※ほぼネタバレなし

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徹底解説!レディー・ガガ演じる“ジョーカー崇拝者”の真の目的とは?『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』※ほぼネタバレなし

ジョーカーの前に突然現れたリーとは何者なのか?

「こんな素敵な人が、なぜここに?」

アーカム州立病院に収容されている囚人の若い女性、リー(レディー・ガガ)は、憧れの存在であるジョーカーことアーサー(ホアキン・フェニックス)にそうささやく。「5人殺した。君は?」と返すアーサー。リーは微笑んでこう答える。「実家に火をつけた」――。

希代の問題作の続編『ジョーカー2』こと『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』には、殺人犯アーサー……ならぬ、彼のペルソナ(仮面)であるピエロのメイクを施し、悪のカリスマとしてメディアを騒がせたジョーカーを「私のヒーロー」と崇拝する新キャラクターが登場する。それが歌姫レディー・ガガ扮する、放火魔として逮捕されたと自称する謎の女性リーだ。

前作を超える問題作? 世界中で賛否が真っ二つ

今年9月初頭のヴェネツィア国際映画祭で初お披露目となった『ジョーカー2』。観客からは12分間ものスタンディングオベーションが巻き起こったが、同時に批評家からの賛否がはっきりと分かれたことも話題になった。

だが賛否両論は当然だろう。『ジョーカー2』は単なる続編や延長ではない。前作が巻き起こした「ジョーカー現象」に自ら責任を取り、我々にその本質を改めて問いかける極めて批評的なアンサーになっているのだ。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

ジョーカーを偶像視する信者の拡散力と有毒性

深夜テレビ番組の生放送中にセレブ芸能人、トークショー司会者のマレー・フランクリン(ロバート・デ・ニーロ)を殺害し、理不尽な社会への反逆者、不満だらけの民衆の代弁者として祭り上げられ、いまや時代の寵児となったジョーカー。さらに彼の自伝的ドラマは高視聴率を獲得。この事件の衝撃に魅せられたリーは、ジョーカーをまるでロックスターのように偶像視している。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

監房内で初めてアーサーを見つけた時の、リーの輝かしい目や表情が印象的だ。「あの事件を目にして、生まれて初めて孤独を感じなかった」――そう熱っぽく告白するリー。彼女の姿は、例えば日本映画『接吻』(2007年)の主人公・京子(小池栄子)――テレビで観た無差別殺人の凶悪犯に自分と同じ孤独を見いだし、恋心をエスカレートさせていく女性と印象が重なったりもする。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

そう、おそらくリーのような人間は他にもたくさんいる。ジョーカーを自分の「推し」として、自らのアイデンティティを仮託するフォロワーたち。インターネットミームがSNSで拡散するように、この社会には無数のジョーカー・フォロワーたち、彼の“My Shadow“(=リー)が存在し、今もどんどん増殖している。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
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「“本当の”あなたが見たい」

「ファンダム」と呼ばれる熱狂的なファン文化がある。宗教的と言えるほど過剰にスターやアイドル、作品・ジャンルなどひとつのカルチャーの対象にのめり込んでいる者たちと、その同志的なネットワークを指す。

ただしファンが愛するのはあくまでその「キャラ」であり、コアゾーンに行けば行くほど、自分が選んだファンダムの世界観を裏切るものを認めない閉鎖的な傾向もよく指摘される。言い換えれば、ファンダムは自分が愛するキャラクターに基づいたフィクションをメタ視点で生成し(例えば「N次創作」のようなもの)、そのストーリーの中でリアルな人生を生きている個人や集団の総称である(もちろん対象への熱狂度や距離感は人それぞれであり、ほとんどのファンは良識的に愉しんでいることを大前提として付記しておきたい)。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

その意味でリーは、ジョーカーのファンダムの代表であり象徴と言える。リーは等身大のアーサーにはまるで興味がない。強いジョーカーこそが「本当」の姿だと思っている。「本当のあなたが見たい」と言って、リーは素顔のアーサーにピエロのメイクをする。リーにとって「本当のあなた」はアーサーではなくジョーカーなのだ。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

リーがアーサーから、ジョーカーを呼び起こす?

これまでまともな恋愛経験のないアーサーにとって、自分を必要としてくれるリーは初めての「恋人」だ。『ジョーカー2』の物語は、ボニー&クライドやシド&ナンシーをも連想させるような、はみ出し者の異端の男女のラブロマンスへと展開する。しかしリーはアーサーではなく、ジョーカーと触れ合うために誘惑を重ねる。つまりリーは、アーサーの中からジョーカーを呼び起こしていく触媒として働きかけるのだ。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

タイトルの「フォリ・ア・ドゥ(Folie à deux)」は、フランス語で「二人狂い」という意味。ひとりの妄想がもうひとりに感染し、二人あるいは複数人で妄想を共有する感応精神病を指す。これはまさしくアーサー/ジョーカーとリーの関係性を表している。彼らは互いに手をとりながら、むしろリーが積極的にリードする形で、当人たちにとっては幸福の絶頂にある「二人狂い」を暴走させていくのだ。

その「二人狂い」の高揚をミュージカル仕立てで描くのが『ジョーカー2』の特徴である。例えばアーカム州立病院のイベントで、MGMミュージカル映画の名作『バンド・ワゴン』(1953年)が上映される。その有名なミュージカル・アンセムである楽曲「ザッツ・エンタテインメント」を、アーサー/ジョーカーとリーは共に歌い踊る。このシーンで一体何が起こるのか――本作のハイライトのひとつと言える極めて鮮烈な場面だ。そして二人は手を取り合って外に走り出す。

PrimeVideo『バンド・ワゴン(字幕版)』© 1953 Turner Entertainment Co. All rights reserved.

ジョーカーとリー。二人が共にシング&ダンスする時、この世界に彼らしか居ないような甘いロマンティシズムが映画のスクリーンを包み込む。

しかし周知の通り――美しい音楽とダンスに包まれたミュージカルは、どこまでもファンタジーの様式である。みじめな「現実」のアーサーに対し、ジョーカーはリーと共にファンタジーの世界で生きている。それを「現実」の側はどこまで許容するのか? またリー(=ファンダム)が共有するジョーカーの精神は、果たしてどこに向かうのか? これは『ジョーカー2』の核心となる重要なテーマだ。ぜひ念頭に置いて本編をご覧いただきたい。

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』©︎ & TM DC ©︎ 2024 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

文:森直人

『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』は2024年10月11日(金)より全国の劇場で公開中

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