『新長田駅南地区』再開発で、人口増もテナントの半数超が「売れ残り」になっているみたい。にぎわいづくり課題
画像:神戸市資料より
阪神・淡路大震災からまもなく30年。甚大な被害を受けた長田区の「新長田駅南地区」では、今年10月に再開発事業が完了しました。震災前よりも人口は増加したものの、神戸市が所有する再開発ビルの商業テナントは、今なお半数以上が売れ残っています。
防災拠点・良質な住宅など、復興と共に「災害に強いまち」に
新長田駅周辺は、約60年前に策定された「神戸市総合基本計画」で西部副都心として位置づけられたエリアです。震災で甚大な被害を受けた市街地の復興と共に、防災拠点の構築や良質な住宅の供給などで「災害に強いまちづくり」が進められてきました。
画像:神戸市資料より
新長田エリアは、「大正筋商店街」周辺、鉄人28号モニュメントのある「若松公園」周辺、「新長田駅」周辺と、大きく3エリアに分かれています。
再開発では、44棟の再開発ビルのほか、公共設備では道路17路線・公園3カ所を整備。今年10月末に「新長田キャンパスプラザ」が完成して再開発事業が完了し、記念式典イベント「新長田未来祭」が開催されました。
新長田エリアの人口は震災前より4割ほど増え、2019年に完成した「新長田合同庁舎」により関係人口も増加。
一方で、市が所有する再開発ビルの商業テナントに売れ残りが多く、まちの活性化に課題が残っています。
テナント9割超が賃貸で埋まるも「にぎわい実感」至らず
当初、再開発ビル完成後に市が保有した区画数は「364区画」。2024年7月末時点の状況としては、11区画(約610㎡)が処分されたものの、現在も保有する353区画のうち、賃貸は9割超の「330区画」、残りの「23区画」は未利用区画になっています。
報道によれば、賃貸物件として埋まっている中には「倉庫」など店舗以外の用途に使っているケースもあり、地元住民の実感としては「にぎわいが戻ってきた」とは言いがたい状況なんだそう。
画像:神戸市の発表情報を基に作成
2024年6月末時点の神戸市の予測では、事業全体の支出は2,277億円で、事業収入は1,775億円。
保留床の処分見込額が178億円で、保留床がすべて売却できたとしても「324億円」の赤字になる計算になるそうです。
従来の「簿価売却」に加えて「時価売却」も導入
震災の復興事業などで整備した再開発ビルの保留床について、神戸市はこれまで、変動のない「簿価売却」を基本としてきました。そのため価格が高止まりし、購入をためらうことにつながったという見方も。
売れ残りが懸念されるテナント売却を進めるために、市は2024年度から不動産市況に沿う方式を採用し、時価での売却が導入されたそうです。
報道によれば、時価売却の対象となるのは、「すでに支払ったテナント賃料の総額」と「時価の合計額」が簿価を上回るケース。新長田駅南地区の再開発ビルで2016年から営業している飲食店の事例では、借りている区画の簿価が「約1,600万円」で、時価は「約1,400万円」。支払い済みの賃料が「約800万円」なので、時価で購入できるということになります。
市は2024年に、新長田駅南地区の再開発ビル保留床の効率的な管理・運営や、集客・利用者サービス向上などのため、管理運営事業者を公募。優先交渉権者との交渉を進め、2025年4月からの5年間を契約期間として事業を進める方針です。
復興と共に災害に強く、きれいなまちになった新長田駅周辺。テナントの売却が進み、まちづくりの担い手が増えれば、にぎわいにつながっていきそうですね。