ボトムから誘い上げて食わす快感!最先端のジギングメソッド「スピネギ」とは?
ボトム界隈の魚を誘い上げて食わす。それが「スピネギ」という最先端のジギングである。ヒットする魚種の顔ぶれは多彩。不意の大物との遭遇もある。全国の海域で試してみたい釣り方の基本を、スピネギを生んだ磯見政斗船長に聞いた。
写真と文◎編集部
誘い上げるジギング「スピネギ」の爆発力と道具立て
根魚ねらいのジギングを通称「ネギング」と言い、山陰地方で流行しているのがスピニングタックルを使った「スピネギ(スピニングネギング)」である。
この釣り方を命名し、盛り上げているのが島根県・瀬崎港にある船宿「龍勢丸」の磯見政斗船長だ。幼少期からウキフカセ、バス、ロックフィッシュ、エギングとさまざまな釣りを楽しみ、オフショアのルアーフィッシングを本格的に始めるとジギングに熱中。2014年から遊漁船をスタートした。
スピネギの操作の基本は10~15mジグを投げ、着底後は15~20m上のタナまで一定のピッチで誘い上げる。アタリがなければ頻繁に回収をして打ち直すことも大事である。ジグを誘い上げることで上のレンジの青物との遭遇率も高い。また根から離した位置で掛けることでキャッチ率も高まる。
磯見船長が「上げの釣り」と言うこの操作は、10年ほど前まで小馬鹿にされていたという。「私が遊漁船を始めたころはスロージギングが隆盛でした。スローは一定レンジをゆっくりと探り、さまざまなジャークを織り交ぜながらフォールで食わせる釣り方です。ボトムから離して斜めに引き上げる釣りなんか根魚が釣れるわけがないと常連さんにはずいぶん馬鹿にされたんです」
龍勢丸の磯見政斗船長が手にするのはスピネギの本命魚といえるアマダイ
スピネギのタックルとジグ
ではなぜスピニングタックルが有効なのか。ジギングファンにはベイトの愛用者が多い。重いジグが扱いやすく、着底感度が高いのと巻き上げのパワーもある。またフォール時のスラック(イトフケ)が少なく、バイトをとらえやすいからだ。しかし磯見船長はスピニングタックルのほうが「軽快でテンポのよい釣りができる」ことに気付いた。
「スピニングはフォールがスピーディーです。キャストして沖に着底させるのも落とし直すのも早い。それと私の場合はベイトよりスピニングのほうが巻き上げは楽でジャークのテンポも取りやすいと感じています」そう話す磯見船長の推奨するスピネギの道具立てとは?
ロッド
専用ロッドはロンググリップが特徴だ。脇に挟んで操作をしやすくロッドを寝かせ気味にする綱引きファイトも行ないやすい。磯見船長が愛用するのはUroco「エアコロスピネギカスタム」。全長6フィート6インチ、適合PEライン2号、マックスジグウエイトが160gのロッドである。
Uroco・エアコロスピネギカスタム
リール
スピニングリール4000番のXG(シマノ)もしくはXH(ダイワ)が好適。
ライン
スピネギはあくまでアマダイや根魚をねらう釣り方だが、不意の大物に備える意味と、ジグロストの軽減をするためにも船長はPEライン2号を推奨している。
リーダー
船長が推奨するのはナイロン10号、長さ3ヒロ(約4.5m)のリーダー。これも不意の大物に備えるため。ナイロンは伸びる。ライン負荷が大きくかかる綱引きファイトでもラインの破断やフックが伸ばされるのを防いでくれる。
メタルジグ
軽い入力で動くずんぐりとしたフォルムの「ショートジグ」がよく120~150gが基本になる。磯見船長が愛用するのは「Urocoジグショート」で「軽いジャークでもフラッシングをしてロールもする。移動距離の短いジグがいいんです」と話す。なおカラーセレクトも重要だ。「根魚はとにかくグローが大好き」と言い、必ず携帯して欲しいとのこと。
Urocoジグショート。スピネギ専用のメタルジグではないがスイミングしやすく軽めのワンピッチでも動かしやすい。
フック
リアのアシストラインはエビ防止のため1cm、フロントのアシストラインは2cm。ジグが跳ねた時にリアのアシストラインが長いとリーダーに絡みやすい。またフロントフックのアシストラインは魚の歯が当たると傷つきやすくリーダーを守るために2cmと長めに取る。フックサイズは1/0が基本。寒ブリの時期や大物が多くゴリゴリ巻きで取る時は2/0と太軸にする。
以上のような道具を使うが、あくまで船長目線のタックルバランスである。
「根魚をねらうスピネギですが不意に大型のヒラマサやブリが食ってきます。私のこれまでの実績は20kgが最大で数100尾のヒラマサを取ってきました。こうした大物もお客さんが取ってくれたほうが船長としては助かる。細いラインでも取れなくはないですが、ファイトにどうしても時間がかかる。そうなると周囲のお客さんを待たせることにもなるので、バランスのよい道具を使って欲しいのです」
スピネギで釣れる魚種
出雲周辺海域は豊穣の漁場であり、スピネギをすると多彩な魚種がヒットする。
「探る海域は概ね70~90mの水深です。このくらいの水深がスピネギはやりやすい。お客さんは特定のターゲットをねらいに来てはおらず、だいたい10魚種は釣って帰ります。特に喜ばれるのはアマダイ。根魚ではないですがスピネギの本命魚といってもよいです。砂地の微妙な変化を探り1~3月の低水温期以外は周年ねらえます。根周りをねらえばキジハタ、チカメキントキ、マハタ、クエ、イサキ。このほか砂地でも根周りでもレンコダイ、マダイ、アオハタ、ヒラメ、マトウダイ、マアジ、ブリ、ヒラマサといろんな魚が釣れます」
龍勢丸は定員8人の船である。最大で左右4人ずつ両舷に並ぶ。スロージギングや昔ながらのジギングでは、ジグを重くして底に留めていく釣りをするが、スピネギはジグをまめに回収することがキモだという。
「魚の目の前からジグをリセットする意味でも回収したほうがいいんです。あと根魚にはグローのジグが効くんですが、10分、15分と海中にあったままではグローの効力が落ちてしまう。特に落としてすぐに釣れる時はグローに反応している魚が多いんです。周囲の釣果を見てこんな状況であれば回収はマメに行なってください」
スピネギは根魚をベースにねらう釣り
スピネギの釣り方は一定のリズムを刻むのがコツ
スピネギの釣り方の手順は以下の通り。
1.10~15m沖にキャスト
2.着底後、一定リズムの1/2ピッチジャークで15~20mほど誘い上げる
3.タナまで誘い上げたら、ジグを落とし直して再度誘い上げる
操作のキモとなるのはジャークのリズム。「1ピッチ、1/3ピッチとさまざまなジャークを試してきましたが、最適なのは1/2ピッチです。ティップを斜めに下げ、ジグを小刻みに跳ねさせる。その時に水面付近のラインが"チョンチョン"と音が出る。このリズムが特徴です。このピッチだと根魚も釣れるし、大型魚も誘えます。この釣り方をスピネギと名付ける前は"チョンチョン釣り"と呼んでいたくらいです(笑)」
ロッドの角度を斜め下に向け、大きくシャクらず1/2ピッチで一定のジャークを行なう
ハンドルを1/2回転につき1ジャークをするのが1/2ピッチである。チョンチョンと鳴るのはスラックを作ってそれを引っ張る音。この音がしないとなかなか釣果を出せないそうだ。頭で分かってもいざやろうとすると手もとがぎこちない人は多いというが、1日やれば様になるそうだ。
ソフトにしなやかにジャークを行なうために磯見船長はグリップをこのように握る
前アタリを感じられる面白さ
磯見船長はかつて周囲の先輩から「根魚は底から3mまでが勝負。15m、20mも食い上がってくるわけがない」と言われていたそうだ。ところがスピネギでねらう根魚はかなり上のタナまでジグに追従してくるし、そのジャレ付く感触まで分かるのだ。
「ジャークの中で一瞬テンションを抜きますが基本的にラインは張り気味。だからバイトが伝わりやすいのだと思います。慣れてくるとジグにジャレ付く感触が分かります。それも釣っている本人だけでなく、隣で見ていても分かるくらいにはっきりとした反応が出る。一定のリズムで誘い続けるからこそ、変化も分かりやすいのだと思います。来るぞ、来るぞ、と思う感触があって、そのうち"ゴッ"とロッドが入る。この前アタリを感じられるのがスピネギの面白さと言ってもいいです」
ジグは海中でどんなイメージで動いているのだろうか?「リアが小刻みに跳ね上がるイメージです。上手くリズムが取れないとリーダーを拾ってエビになってしまいますが、そうなる前に次のジャークを入れる。上手くいくとブルッ、ブルッという感触がきます。これを一定のリズムで行なうシンプルな釣りです」
バイトが出ているのに乗らなかった場合や浅掛かりでバレてしまった場合は、その場で即座にジグを落とし直すとヒットの確率が高まる。「マダイとか青物とかレンコダイなどの遊泳力がある魚は、当たってもシャクり続けていれば食ってきます。けど根魚の場合は高確率で根に戻ります。だから落とし直しが効率的で私はベールを返す癖が身に付いています。しかも同じ所に何尾かが固まっていることが多く、当たった魚が釣れなくてもほかの魚がアタックする可能性もある。次の誘いはまるで弱った魚が落ちてきたようにゆっくりとした速度でジャークを行なうと食いやすくなります」
根魚も宙層までジグを追ってくる
やり取りはハンドドラグを活用
スピネギの道具立てで大型ヒラマサを何尾も釣ってきた磯見船長はファイトのやり方も一家言がある。
「ロッドをしっかり曲げて取ろうと思っても、スピネギ専用ロッドではバットパワーが足りません。ロッドは曲げるほどドラグの滑りが悪くなります。ドラグは締めない。イメージとしては満月ではなく三日月くらいの曲げ加減をキープしてハンドドラグを活用してください」
ハンドドラグを多用するのもやり取りのキモ
スピネギはまだ山陰地方の一部のエリアでしか盛んではないが、全国の海域で通用するポテンシャルを秘めている。ジグにジャレ付く魚の感触を味わいながらヒットに導く釣趣はスリリングであり、アマダイをはじめとする多彩な美味魚も釣りやすい。ジギングの可能性を大いに広げてくれるだろう。
※このページは『つり人 2025年8月号』を再編集したものです。