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第14回 遂に開催された「1.5 WRESTLE DYNASTY」~AEWによる初の日本進出は、果たして満足のいく成功を収めたのか!?

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第14回 遂に開催された「1.5 WRESTLE DYNASTY」~AEWによる初の日本進出は、果たして満足のいく成功を収めたのか!?

■AEWによる満を持しての本格的日本初進出興行
2024年夏、AEWのCEOであるトニー・カーンの口から突如として開催が発表された「WRESTLE DYNASTY」が、ついに先日の2025年1月5日に東京ドームにて開催された。新日本プロレス(以下、新日本)の主催興行ではありながらも、AEWとして全面協力の上、ROH、CMLL、そしてSTARDOMとの計5団体による合同での選手と対戦カードを提供するとの発表に、多くのファンが開催を待ちわびていた今年最初を飾る注目の大会だった。

特にAEWとしてはこれまで、ジョン・モクスリーやブライアン・ダニエルソンなど、団体内でもトップ級のレスラーが新日本マットに参戦している経緯もあり、今回の「WRESTLE DYNASTY」は本格的な日本市場進出への、極めて大事な足掛かりとなる第一歩目となることを、筆者としても信じて疑わずにいた。

前日の毎年恒例の1.4と合わせて、「世界を動かす2DAYS」として喧伝された本大会は果たしていかなるものだったのだろうか。当日観客席から観戦した筆者の率直な意見を語ってみたい。

■既視感ばかりが目立った対戦ラインナップ
「WRESTLE DYNASTY」の開催が発表されたのは、前述した通り去年6月30日の現地アメリカでのPPV大会の折だった。現地を熱狂させているアメプロの雄であるAEWが、設立から5年でいよいよ本格的な日本進出かと、その時には大いに胸が躍った向きも、多かったことだろう。トニー・カーン社長による発表はそれほどに日本のAEWファンを歓喜させるものだった。

だが、日を追うにつれ、その興奮は段々と冷めていくことになる。開催発表当日には公表されていなかった対戦カードが、なかなか決まらないのだ。加えて、「WRESTLE DYNASTYは日本版のForbidden Doorである」との報を伝え聞くにつけ、一抹の不安のようなものを感じてしまっていた。つまり、WRESLE DYNATYは新日本所属レスラーとの夢の対戦カード的なラインナップがメインの大会になると感じられたためだ。

純粋なAEWファンとしては、何も新日本所属のレスラーとの対戦ではなく、本場のAEWの雰囲気が、ここ日本でも存分に味わうことができるという体験こそが「夢」であったわけだ。ただ、興行的な面で考えれば、あくまでイッテンゴは新日本主催である前日のイッテンヨンに関連した大会という立ち位置であり、AEW単独での対戦カードは日本初進出という側面から考え合わせれば、リスクが高過ぎるとの計算なり、打算があったことも想像に難くない。だとするなら、日本マットには未だ登場したことのないレスラーが出場してくれさえすれば、という少々消極的な思いにトーンダウンしながらも、対戦カードの発表を待ち望んでいた。

だが、12月になって並んだ当日の対戦カードを見るにつけ、筆者としては大きな失望を感じざるを得なかった。AEWから出場を果たす選手は、超ヘビー級のブロディ・キングを除いて、いずれもが過去に新日本のマットに上がったことのある選手ばかりだったのだ。さらに落胆させられたのは、それらの選手と対戦する新日本側のレスラーである。

海野翔太、辻陽太、ザック・セイバー・Jr.、デイブ・フィンレー、内藤哲也、高橋ヒロム、ジェフ・コブなど、いずれもが前日イッテンヨンにも出場するレスラーばかりなのだ。新日本も、あるいはAEWも団体でもトップとも言える所属レスラーの巨大なロースターを誇りながら、東京ドーム大会2連戦のいずれもの試合に出場するというのは、一体どういう判断なのか。しかも、前日イッテンヨンで王座タイトルマッチに挑むレスラーが、その試合結果の如何によらず、次の日も試合を行うというのでは、新日本における王座戦の意義やステータスを棄損するマッチメイクではないだろうか。

筆者は決して、試合に出場した選手の個々を批判したいのでは断じてない。あくまでレスラー達の起用や選定の方法、マッチメイクに大きな問題点を投げかけているだけだ。これでは、イッテンゴに出場したAEWの選手達は、単に新日本のレスラーのいい当て馬のように扱われただけではないだろうか。

実際、試合結果を俯瞰すれば分かるが、イッテンヨンに出場した新日本のレスラーは、いずれもがイッテンゴで勝利を収める結果となっている。これではあまりに茶番が過ぎると言えないだろうか。

■圧巻だったケニーvsゲイブの一戦
そんな既視感ばかりが目立つマッチメイクにあっても、この大会における文句なしのベストバウトとも言える珠玉の名勝負が行われたことは、せめてもの救いではあった。言わずと知れたケニー・オメガ対ゲイブ・キッドの一戦だ。確かに稀に見る迫力ある凄惨さが全面に出た遺恨決着マッチであり、憩室炎という大病を患いながらも、一年以上ぶりの復帰戦を見事勝利で飾るという離れ業を演じてみせたケニーの、類稀なる”バスト・バウト・マシーン”の潜在能力の賜物ではあったもの、ここにもやはり納得のいかない違和感を筆者としては感じてしまっている。

そもそも、「WRESTLE DYNASTY」発表当初では、ケニーの復帰戦ができるのかどうかも全くの未知数の状態であったことは、当コラムの中澤マイケル氏のインタビューでも分かる通りだ。当のケニーは、去年夏の時点で通常生活にも支障をきたすほどの重病であり、今回イッテンゴでの復帰戦はまさに彼の超人的な回復力と、ファンの期待を裏切りたくないという鋼のようなプロ意識と意志によって実現したものだったと言えるだろう。

その後、来日した折のケニーとゲイブとの間で、バックステージでの諍いがあったことから、なかば強引とも思えるように対戦が発表され、イッテンゴのラインナップに加わったことは、いまさら詳細を語る必要はないだろう。試合当日に向けた舌戦をこれでもかと繰り返す両者の発言が、いわばプロモとして耳目と注目を集め、より期待される試合へと昇華されていったわけであり、その辺りはケニーにしろ、ゲイブにしろ、プロとしてただ物ではないと言えるだろう。

だが、結果的にケニーによるゲイブとの一戦こそが、今大会で一番の試合と称されたことは、冷静に俯瞰して見ると、一つの興行として非常に大きな問題だとも思えるのだ。つまり、もし仮にケニーによる今回の一戦が、なんらかの理由により万が一大会にラインナップされなかったとするなら、ファンはどれだけの期待を持って新春の東京ドームへと足を運ぶことになっただろうか。それを考えると、稀代の名レスラーたるケニー・オメガには、試合内容以上の称賛を贈らなければならないと考えるのは、果たして筆者だけだろうか。

■疑問が残るAEWの日本進出への本気度
結論からすれば、今回の「WRESTLE DYNASTY」は、新日本の新春恒例となった興行である「イッテンヨンからの二連戦の二日目」という域を超えなかったという印象だ。これは印象だけの話ではない。後日の主催者発表によれば、今回の両大会における観客動員数は、前日のイッテンヨンの24,107人に対して、イッテンゴは16,400人。ざっと8,000人ほどの開きがあるわけだが、これはいかにして起きたものだっただろうか。

現地の会場を見る限り、イッテンゴでのアリーナ席の埋まり具合についてはまずまずで、およそ8~9割ほどの席が購入されたものと見ていいだろう。では、それ以外で何が振るわなかったかと言えば、想像するに比較的安価な座席の集客が芳しくなかったと言えるのではないか。実際、東京ドームでの興行という面からすると寂しいほどに、2階席はかなりの空席が目立っていた。

これは筆者の想像でしかないのだが、おそらくイッテンゴのアリーナ席の購入は、おそらくはチケット発売開始と同時に我先にとよりよい席を確保しようした純粋なファンによるものだろう。「WRESTLE DYNADTY」というAEWの歴史的な日本初進出の現場の当事者になるべく、大きく期待を膨らませた人々だ。それに対しスタンド席を購入する面々は、「もし面白いカードがあるなら」として一旦身構えたはずだ。その後、対戦カードのラインナップが徐々に発表されるにつれ、その興味が増した人だけがチケットを購入し、逆に琴線に触れなかったファンは購入を踏みとどまったという構図ではないだろうか。

加えて、新日本の選手がいずれの大会にも出場するのであれば、イッテンヨンをこそメインで観戦するべき興行として捉え、特にAEWやCMLLにそこまで深い憧憬がないファンは、「イッテンゴはいわばイッテンヨンのおまけ的な興行」としての位置付けとの感覚をもったとしても、なんら不思議なことではない。

■AEWにとって外せない裏の事情
では、なぜAEWとしてはこういう事態が容易に想像されたにも関わらず、自身が持つ良質な所属レスラー達を、今回「WRESTLE DYNASTY」の舞台へと送り込むことができなかったのか。それには、AEWにおける裏の事情が実はささやかれている。

AEWは、今年から北米ネットワークのテレビ放送に加え、新たな大型契約と共にストリーミング配信による番組のサービスを開始した。AEWが設立当初から軸としている、最も重要なテレビプログラムである「Dynamite」の初回配信日こそが、2025年1月1日だったのだ。

AEWとしては、この放送に最大限のクオリティと内容で注力せざるを得ず、結果的に現在活躍するトップレスラー達の東京ドームへの派遣は見送られたというのだ。その中には、去年衝撃的な移籍劇で話題となったウィル・オスプレイやオカダ・カズチカ、あるいはジェイ・ホワイトなど、かつての新日本の所属選手ももちろん含まれている。

だが、そんなことはイッテンゴの大会を大いに期待した日本のファンにとっては、いわば関係のないことなのも事実だ。そうしたタイミングの悪さも、今回はAEWに不利に働いてしまった点は否めない。

「WRESTLE DYNASTY」では他にも、メルセデス・モネとの白川美奈によるダブルタイトルマッチや、竹下幸之介と石井智宏による超肉弾戦、さらには団体設立以来およそ5年振りとなるヤングバックスによるIWGP王座タッグ奪取といった、見どころのある試合も確かにあった。だが、「世界を変える2DAYS」と謳った二日目である「WRESTLE DYNASTY」が、プロレス界において、あるいはAEWにとってどれだけ実りのあるインパクトをプロレス界に与えたかという点については、大いに疑問を持たざるを得ないというのが、筆者の総合的な結論なのである。

AEWの今後の世界進出戦略の躓き、あるいは新日本の凋落にまで繋がるような”忌まわしき新春二連戦”といった汚名を、近い将来冠することのないよう、一ファンとして切に望みたい。

岩下 英幸


(いわした・ひでゆき)

AEWインフルエンサー。ゲームクリエイター。1970年、千葉県生まれ。幼い頃からゲームセンターやファミコンに親しみ、それが高じてゲーム業界入り。プロレスを題材に開発した「バーチャル・プロレスリング」シリーズが国内外で高い評価を獲得し、米ゲームエキスポ「E3」では、格闘ゲーム部門の最優秀賞を2年連続で受賞する快挙を達成。現在、奥深いプロレス知識をもとにAEWにまつわる執筆活動中。最新作は2023年製作の「AEW : FIGHT FOREVER」。

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