七瀬つむぎ「自分の声が誰かの力になる、その可能性を信じたい」【声優図鑑 by 声優グランプリ】
キャラクターの裏に隠された声優たちの素顔に迫る、インタビュー企画『声優図鑑 by声優グランプリ』。
今回登場していただいたのは、ゲーム『学園アイドルマスター』の有村麻央役で声優デビューを果たした七瀬つむぎさん。
子供の頃から「声優になりたい」という気持ちを一途に抱き続け、高校では演劇部、専門学校では本格的な表現の仕方を学びながら夢に向かって歩み続けてきました。憧れのシリーズへの出演、ライブパフォーマンスへの挑戦、そして麻央というキャラクターと向き合うなかで育んできた実感と覚悟。表現することへの真っすぐな姿勢と、迷いながらも届けたいという気持ちに正直に向き合う彼女の今を、たっぷりとお届けします。
七瀬つむぎ
ななせつむぎ●6月1日生まれ。大阪府出身。ホーリーピーク所属。主な出演作は、ゲーム『学園アイドルマスター』(有村麻央)、音楽「キミとセミブルー」、「雪解けに」ほか。
公式HP:https://holypeak.com/talent/voice-actor-women/七瀬-つむぎ/
X:@tsumugi_nanase
★七瀬さんの手書きプロフィール&コメント動画は2ページ目に!
ほかの職業に就いている姿が想像できなかった
――声優という職業を意識しはじめたきっかけは何ですか?
明確なきっかけがあったわけではないんですけど、小学校から中学校に上がる頃、『銀魂』にハマっている友達がいて、その話についていきたいなと思って観はじめたのが最初でした。アニメって、子供が観るものだとなんとなく思っていたんですが、観てみたら全然そんなことはなくて。内容が面白くて引き込まれて、そのなかで「このキャラクターの声を演じてる人って誰なんだろう?」と調べてから、声優という職業を初めてちゃんと意識するようになりました。
――アニメを好きになることから声優という仕事への興味が芽生えていったと。
そうですね。そこから、声優さん自身の出演するイベントやライブにも興味を持ちはじめて、実際にライブに行ったんです。そこで目にしたのが、ステージ上でマイクを握ってパフォーマンスをしている声優さんたちの姿でした。アニメやゲームの中で声を届けてくれるだけじゃなくて、こうして生のエンターテインメントを届けているんだっていう衝撃を受けました。
――声優になりたいという夢を持ったのはその頃ですか?
はい。中学生の頃にはもう「将来の夢=声優」と自分の中で固まっていました。ほかの職業に就いている自分の姿が、まったく想像できなかったんです。たとえば、オフィスでパソコンを打っている自分とか……全然イメージが湧かなくて(笑)。声優という夢がすごく自然に自分の中に溶け込んでいて、「あ、私きっとこの道に進むんだな」ってどこかで確信していました。
――周囲に同じ夢を持つ人はいましたか?
声優になりたいと言っていた友達はいました。でも、実際にその道を選んだのは私だけで、ほかのみんなはそれぞれ別の夢を見つけて進んでいきましたね。
子供の頃って、「公務員になりたい」とか「保育士さんになりたい」っていう友達も多かったと思うんですけど、私はなぜか、声優以外の選択肢が頭に浮かばなくて。自分でも「なんでこんなに確信があったんだろう?」って思うことがあるくらいです(笑)。
――高校生になってからは、実際に演技の勉強を始めたんですよね?
そうです。声優を目指していたとはいえ、それまで演技経験がなかったので、まずは演じることに慣れたいと思って、思い切って演劇部に入りました。演劇部といっても、大きな大会に出るような部活ではなくて、どちらかというと少人数で地道に活動するタイプの部でした。でも、それが逆に良かったなって今は思います。
――部員同士の距離感も近かったのでは?
そうですね。同期や後輩と一緒に、本当にゼロから作品を作っていく感覚でした。公演のたびに「どうしたらこのセリフがもっと伝わるか」「このキャラクターの感情はどこから来てるのか」って何度も話し合って。この経験は今もすごく生きている気がします。
――演劇部ではどんな役を演じたんですか?
最初に出た舞台は、桃太郎をアレンジしたような作品でした。先輩が書いたオリジナル脚本で、桃太郎を目覚めさせるために仲間が奮闘する物語だったんです。私はそこでキジ役をやったんですけど、劇中で桃太郎を起こすために、身長の高い先輩を思い切りビンタするシーンがあって(笑)。ぴょんと跳ねるように手を伸ばして、すごく緊張しながら演じたのを今でも覚えています。
――初めてステージに立った時のことは覚えていますか?
演技は文化祭のステージで発表したのですが、初めて大勢の前に立ってお芝居をして、拍手をもらった時の感動は今でも忘れられないです。それまで舞台の上に立つなんて考えられなかったのに、「表現するのって、こんなに楽しいんだ」って心から思えて。演じることが夢じゃなくて、本当にやりたいことと思えた瞬間でした。
ステージは麻央ちゃんと一緒に立っている感覚
――その後、専門学校で本格的に声優の道へ進まれたんですよね。
高校卒業後に、専門学校の声優コースに進学しました。演技はもちろん、ナレーションや歌、マイクワークなど、本当に幅広く学びました。同じ夢を持った仲間たちと出会って、自分の中で「ここで負けられない」「埋もれたくない」という気持ちが強くなっていって。負けず嫌いなんですよ、私(笑)。
――印象に残っている出来事はありますか?
卒業公演のオーディションが、私にとって一つの転機だったと思います。本当はかっこいい、強い女性の役をやりたかったんです。でも、自分の身長や雰囲気からして「合わないかも」と思い込んで、ほかの役にしようか迷っていました。そんなとき、先生が「自分がやりたい役を、やりなさい」と背中を押してくれて。それで勇気を出して受けてみたら、見事その主役を頂けたんです。
自分には無理と決めつけていたのは、自分だったんですよね。だからこそ、自分の可能性を信じることの大切さを実感しました。それ以来、挑戦することに対して恐れが少なくなったと思います。もちろん今も不安になることはあるんですけど、やってみないとわからないという精神で前向きに捉えるようにしています。
――事務所に所属したのは専門卒業と同時だったそうですね。初めての仕事は覚えていますか?
アイドルマスターシリーズの『学園アイドルマスター』で、有村麻央という役を演じさせていただいたのが初めてのレギュラー仕事でした。実は、私は中学時代からアイマスシリーズのファンだったので、「この作品に関われるかもしれない」というオーディションの案内を頂いた時点で、すでにドキドキが止まりませんでした。
――憧れの作品への出演、かなり緊張したのでは?
本当に緊張しました。しかも、最初に挑戦したのは主人公3人の役で、残念ながらその時は結果につながらなかったんです。でもその後、再び麻央ちゃん役でチャンスを頂いて、「もうこのチャンスを逃したら一生後悔する」と思って、全力でぶつかりました。朝早くからカラオケに行って発声練習したり、セリフを何度も読み込んだりして……。まさに全力投球でしたね。
――麻央というキャラクターには、共感する部分もあったそうですね。
背が低いことにコンプレックスを感じていたり、かわいらしい見た目とクールでかっこよくありたいという理想とのギャップに悩んでいたり……。自分にも同じような葛藤があって。だからこそ、この役は自分にしかできないと思い、気持ちを込めて演じました。結果として、自分自身がそのキャラクターから勇気をもらえたような感覚になりましたね。
――実際にライブにも出演されていますが、ステージに立った時の感覚はいかがでしたか?
もう、ただただ感動でした。最初は不安のほうが大きくて、「私にできるのかな」「本当にここに立っていいのかな」って、ずっと思っていました。でも、ステージに立ってお客さんの持つサイリウムの光が見えた瞬間、胸の奥から熱いものが込み上げてきて……。「これが夢の景色なんだ」って感動しました。
――小さい頃はAKB48に憧れていたと聞きました。声優としてステージに立って歌って踊るというのは感慨深いですね。
当時はただ憧れていたアイドルの世界に、自分が少しでも近づけた気がしました。もちろん、アイドルとはまた違った立ち位置ではあるけれど、ステージに立って、誰かに何かを届けるという意味では同じだと思うんです。歌やダンスが得意だったわけではないし、今も自信があるとは言えません。でも、それ以上に「届けたい」という気持ちが勝ったから、怖さも乗り越えられたんだと思います。
――苦手意識を越えて、楽しさが勝ったということですね。
もちろん不安はあるんですけど、不安を忘れるくらい楽しいんです。麻央ちゃんと一緒にステージに立っている感覚があるのも大きいのかもしれないです。
――お仕事が増えていくなかで、悩んだり迷ったりすることはありましたか?
たくさんあります。本当に……毎日のように考え込む日もあって。特に最近は、「私って何ができるんだろう」「ほかの人に比べて何が強みなんだろう」って、自分の無個性さに悩むことが多いです。夜になると特にそういう考えが浮かんできて、頭の中でぐるぐるしてしまうこともあります。
――それは、周りがすごいと感じてしまうからこそ、ですか?
そうだと思います。現場でご一緒する方々が本当に演技力も個性も豊かで……。そんな中にいると、「私って何なんだろう」って、ふと立ち止まってしまう瞬間があるんです。でも、そんなときに支えてくれるのが、応援してくださる方の声や、家族の存在です。
――ご家族にも相談されるんですね。
あまり言葉にはできないんですけど、ちゃんと気づいてくれてるんですよね。私が何も言わなくても「大丈夫?」って寄り添ってくれる感じがして。特に母は、私が一番に相談できる存在で、真央ちゃんの役が決まった時も最初に電話したら号泣してくれました。本当に心強い存在です。
「この作品に出会えてよかった」と思えるような声優に
――趣味の話もうかがいたいのですが、手芸がお好きなんですよね。
まとまった時間があると、ついつい手を動かしてしまいます。最近はブックカバーを作っていて、行き当たりばったりで布を切って縫ってというのがすごく楽しいんです。集中していると時間があっという間に過ぎてしまいます。
――いつ頃から手芸を?
本格的に始めたのは、上京してからですね。もともと母が手芸好きで、昔から傍らで見ていました。でも、自分でやってみようと思ったのは、何か形に残る特技が欲しいなと思ったからです。そしたら、思った以上にハマっちゃって。今では『学マス』のキャストさんに小物を作ってプレゼントすることもあります。
――素敵ですね!
もう本当に、皆さんすごく喜んでくれて……こっちが泣きそうになるくらいの笑顔で受け取ってくださるんです。「こんなに喜んでくれるなら、もっと作りたい!」って思っちゃいます(笑)。
――今後、声優として挑戦したいことはありますか?
演じてみたい役でいうと、かっこよくて強い女性ですね。私自身の声が比較的低めなので、戦う系のアニメやクールなキャラクターに挑戦してみたい気持ちはすごくあります。逆にハジけた女子高生とか、あまり自分にないタイプのキャラもやってみたいです。演じることで、自分の幅をどんどん広げていけたらいいなと思っています。
――最終的には、どんな声優を目指したいですか?
大きな夢を与えるような存在とまではいかなくても、「この作品に出会えてよかった」「この声を聞けて元気が出た」と思ってもらえるような声優でありたいです。私自身がそうやってたくさんの作品に救われてきたので、今度は届ける側として、誰かの背中をそっと押せるような存在でいられたらと思っています。
撮影/石田潤 取材・文/川崎龍也
七瀬つむぎさん手書きプロフィール
七瀬つむぎさんコメント動画
▼動画URLはこちら
https://youtu.be/4lZhxI_qDik
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