創業15周年を迎えた『フォリウム・ヴィンヤード』岡田岳樹スタイルのピノ・ノワール
1883年、ニュージーランドの北島ワイララパ地方に初めてピノ・ノワールが植樹された。1980年代後半から地元での人気が高まり、1990年代に入ってからは、国際市場でも注目されるようになる。今や、ピノ・ノワールは栽培面積でもソーヴィニヨン・ブランに次ぐ第2位の存在である(出典:※ニュージーランドワイングロワーズ)
ヴィンテージごとの個性
2010年、ニュージーランドの南島北東部マールボロ地方のブランコット・ヴァレーに創業した『フォリウム・ヴィンヤード』は、ピノ・ノワールと白ブドウのソーヴィニヨン・ブランとシャルドネに特化したワイナリーで、栽培兼醸造家の岡田岳樹氏が総括している。キーワードは、“フォリウムならではのスタイル=ヴィンテージごとの個性”であり、味わって即座に生産者が思い浮かぶようなワイン造りを目指している。
総面積8.4ヘクタール。氷河期に氷河の移動でもたらされた粘土質と、ワイラウ川の氾濫によって運ばれた砂礫が重なってできた土壌は、ブドウの生育に必要な水分を保っている。2011年からドライファーミング(非灌漑)を導入した。地中深く根を張り、雨が降らない年でも力強さを発揮しているブドウ樹。岡田氏は「気候変動の影響は、それほど感じてはいない。栽培や醸造はほぼ同じやり方なので、ヴィンテージごとの違いは明確に表現できている」と力説。マールボロ地方の大半のワイナリーでは灌漑を行っているが、差別化を目論み、小規模生産者ならではのワインスタイルを貫くフォリウム・ヴィンヤード。今年は創業15周年の記念年だ!
熟成に関する考察
「近年の研究で、液体とコルク栓との間の空間からごく少量の酸素分子、水分子が移動することが明らかになった。タンニンや色素、酢酸や澱などの役割も解明されてきているが、熟成のメカニズムについては未知なる部分が多い」と岡田氏。自らが手掛けるソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールの熟成についての要旨は、
■一般論として、マールボロのソーヴィニヨン・ブランは熟成しないと言われている。理由は、チオール(柑橘果実似の香り)とピラジン(青っぽさを伴った香り)にある。前者は熟成とともに減少し、後者はワイン中に残り続けるので、最終的にバランスの悪い熟成をすると思われている。しかしながら、フォリウム・ヴィンヤードでは、非灌漑での栽培が功を奏し、完熟したブドウが収穫できるので、ワインはチオ―ル優先ではなく、ピラジンも低数値。ゆえに、マールボロの他のワイナリーのソーヴィニヨン・ブランとは異なる熟成のパターンを歩んでいると推測。
■全島の2000年代のピノ・ノワールを試飲して、きれいに熟成しているものが多いと感じた。90年代はコルクの品質に問題があったので、熟成のばらつきが散見された。翻って、フォリウム・ヴィンヤードのピノ・ノワールは、タンニンを多めに圧搾しているので、熟成のポテンシャルは高く、加えて、2010年代のワインは現時点で良い熟成状態を示している。直近のヴィンテージは、ワインにフレッシュさがあるので、以前のものより、長く熟成すると予測。
『The World Atlas of Wine』の著者ワイン評論家のヒュー・ジョンソン氏とジャンシス・ロビンソンMWは、同書のなかで、「品質のすぐれたワインについて予測できることは、予知することが不可能だということである」と記している。熟成に関しての謎が、すべて解明されていないだけに、熟成に通じるワインのベストな飲み頃に触れた二大巨匠の“予知は不可能”には納得できる。
お薦めしたいブルゴーニュに代わる冷涼エリア
ピノ・ノワールの本家フランス東部に位置するブルゴーニュ地方。日本にはピノ・ノワール愛好家が多い。昨今、インフレや円安、コスト高で、ブルゴーニュワインが高騰していて、熟成を経たワインとなると、さらに入手困難だ。ブルゴーニュに比肩しうるエリアとして人気があるのは、オレゴンやタスマニア、南アフリカ、そして、冷涼産地ニュージーランドだ。ヴィンテージごとの個性を反映させたフォリウム・ヴィンヤードのピノ・ノワールは、まさに、試して価値ある逸品といえる。
※ニュージーランドのワイン生産者団体
text & photographs by Fumiko AOKI
【問い合わせ先】
WINE TO STYLE(株) TEL.03-5413-8831