ビルの足元にある定礎板、そのバリエーションを楽しむ
街を歩いていると、ビルの足元に「定礎」と書かれたプレートを見ることがよくある。普通の住宅にはあまり見られないこの定礎板、何のために設置されているのだろうか。
まるでタイムカプセル
そもそも「定礎」とは、建物の着工に際して土台となる礎石を据えることを指す。鉄筋コンクリート造の建物などでは、工事が完了した際に定礎式を行うことが多く、プレートはこの時に設置されるようだ。単なる記念プレートではなく、この定礎板の中には定礎箱が設けられることも多く、建築図面や関係者氏名、建設時に発行されていた新聞などの記念物が納められるそうである。まるでタイムカプセルのようでワクワクする。
もちろん、通りがかっただけの我々は定礎箱の中身を見ることはできないが、表面に設置された定礎板も、なかなか趣深いものがある。今回はこうした定礎板を追ってみたい。
バリエーション豊かな定礎板を見ていこう
まず多く見られるのは、御影石などの石材で作られている定礎板だ。
黒いものはよく目立ち、白い石は景観を邪魔しない落ち着いた雰囲気を保っている。
字体も、品よくまとまっているものから、板いっぱいに大書されたものまで個性豊かだ。
書かれている情報も見てみよう。一番シンプルなものは「定礎」と年月日のみである。この年月日が何なのかと言えば、おそらくは竣工(工事の完了)の日付なのであろう。「竣工」だけではなく、施工者の名前が記されている場合もある。
新宿のビルで見つけた定礎板には、デザイン担当、設計者、施工者と刻まれており、情報が盛りだくさんであった。
石以外の素材でできた定礎板もある。『多摩六都科学館』(西東京市)の定礎板は金属でできていた。
また、素材は石ではあるのだが、建物の壁と一体化している定礎もあり、この場合はどこに定礎箱が納められているのかが不思議である。
とうとう定礎が独立しはじめるようになった
定礎板の設置場所についても考えてみる。街を歩いていて定礎板を発見できるということは、建物の外壁に設置されていることがほとんどなのだが、たまに建物の内側に設置されている定礎板がある。
広島カープの本拠地・マツダスタジアムの「定礎」も、正面ゲートを入った内側に設置されていた。
定礎自体が主張し始める場合もある。壁面に板状に貼り付けられているのではなく、まるで碑のように建っているケースだ。
それでも建物に寄り添って存在している場合はまだわかる。西武新宿線久米川駅の南口ロータリーの植え込みで発見した定礎は、何に対する定礎なのだろうか。
仙台で発見した定礎も、もはやモニュメントである。とうとう定礎が独立しはじめるようになった。
定礎板や定礎箱自体は、特に設置の義務のあるものではないようだ。しかし今後も、建物を建てる人は、バラエティに富んだ定礎を作っていってほしいと思う。
イラスト・文・写真=オギリマサホ
オギリマサホ
イラストレータ―
1976年東京生まれ。シュールな人物画を中心に雑誌や書籍で活動する。趣味は特に目的を定めない街歩き。著書に『半径3メートルの倫理』(産業編集センター)、『斜め下からカープ論』(文春文庫)。