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「シャネル」はなぜ、売上高を5年で倍にしたヴィアールと再契約しなかったのか?

セブツー

意外かもしれないが、世界有数のラグジュアリーブランドである「シャネル(CHANEL)」の財務情報は、未上場企業であるにもかかわらず、2018年発表の2017年12月決算から毎年公表されている。その「シャネル」が今年6月に発表した2023年12月期の決算は、売上高が前年比15.8%増の197億4400万ドル(約3兆405億円*)、営業利益は同10.9%増の64億700万ドル(約9866億円)、純利益は同3.0%増の47億3200万ドル(約7287億円)だった。

1910年のブランド創設以降、それまで一切の財務情報が秘密のベールに包まれていた「シャネル」だが、「2017年度の売上高が100億ドル(約1兆1000億円、発表当時のレート換算)弱であり、ラグジュアリー業界最大ブランドのルイ・ヴィトンに迫る数値である」と2018年6月に初公開された際は、この開示自体がニュースになったほどである。

では、なぜ「シャネル」は2018年6月から財務情報を公開するようになったのか。そういえば、1983年のデザイナー就任以来、「シャネル」ブランドを復活させたカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)が2019年2月20日に85歳で急死することをまるで知っていたかのようなジャストタイミングでの開示だった。あの初公表に続いて2019年6月に発表した2018年12月期決算は、言ってみれば創業デザイナーに匹敵する功績を残したカール・ラガーフェルド時代の総決算ともいうべき素晴らしい決算であり、カールへの「はなむけ」のように感じられたものだ。

直近では2024年6月の2023年12月決算発表と同時に、カールの後任アーティスティック・ディレクターとして2019年2月から陣頭指揮を執っていたヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)が5年の契約を終えて退任することが発表されている。ヴィアール就任後の初決算を振り返ると、2020年12月期はコロナ禍の影響が大きく、売上高は前年比17.6%減の101億800万ドル(約1兆5566億円)で、営業利益は同41.3%減の20億4900万ドル(約3155億円)、純利益は同42.4%減の13億8800万ドル(約2137億円)だった。コロナ禍の影響があったにせよ、やや不安な立ち上がりだった。

しかし、在任の最終年度の売上高を見ると5年間でほぼ倍増しており、これはヴィアールの面目躍如といったところ。契約継続には何の問題もなかったはずなのだ。しかし、「シャネル」は5年契約を更新する気はさらさらなく、次のアーティスティック・ディレクターを求めた。当然のことながら、それは人気・実力ともに世界ナンバーワンのデザイナーだろう。2020年から2022年の3年間のコロナ禍を含むと、ヴィアール在任中の5年間でモード界の皇帝の影を払拭し、新時代を迎える準備ができたということなのだ。

だが最大の課題がある。無尽蔵のクリエイティブや新たなアイコンの創出、時代の流れを汲む力はデザイナーにとって不可欠であるが、さらに世界中に顧客を持つ「シャネル」の本丸、オートクチュールを手掛けることができるファッションデザイナーとなるとなかなか見当たらないのだ。

今週、ジョン・ガリアーノ(John Galliano)が「メゾン マルジェラ(Maison Margiela)」を去ることが発表された。ヴィアールの後任として有力候補のひとりではあろうが、退任は来年秋の予想で、時期的にどうだろうか。下馬評では4月に「セリーヌ(CELINE)」からの退任がリークされたエディ・スリマン(Hedi Slimane)が有力。存命中の皇帝が心酔したほどのデザイナーである。いずれにせよ、結論はすでに出ているはず。まもなく発表があるはずだ。

文:北條貴文
*1ドル=154円換算(7月24日時点)

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