横山拓也のファンタジックコメディに江口のりこ、松岡茉優、千葉雄大、松尾諭らが挑む 『ワタシタチはモノガタリ』会見&公開稽古レポート
2023年の『モモンバのくくり罠』で第27回鶴屋南北戯曲賞を受賞した劇団iaku 代表・作家の横山拓也による書き下ろし作品『ワタシタチはモノガタリ』が、2024年9月8日(日)より開幕。演出を手掛けるのは、雷ストレンジャーズ主宰、2018年に翻訳・演出を務めた『チック』で第25回読売演劇大賞優秀演出家賞、小田島雄志・翻訳戯曲賞を受賞するなど活躍を続ける小山ゆうな。出演は江口のりこ、松岡茉優、千葉雄大、松尾諭ら、様々なフィールドで活躍する実力派が顔を揃えている。
開幕に向け、メインキャストと作家の横山拓也、演出の小山ゆうなによる会見と公開舞台稽古が行われた。
ーー初日を前にした思いを教えてください。
横山:新作は吐き気がするほど緊張するもので、今日初めて劇場で見るんですが、ずっと心臓がバクバクいっています。
小山:PARCO劇場が大好きなので、横山さんの書き下ろしを素晴らしいメンバーで上演できるのが嬉しいです。それぞれのちょっと違った一面も見られる作品になると思うので、お客様と共有できるのを楽しみにしています。
江口:体調に気をつけて最後まで頑張ろうと思います。
松岡:私と千葉さんは二役演じるんですが、それがどう作用するかも楽しみにしていただきたいです。
千葉:舞台美術も面白いので、どうなるか楽しみにしていただけたらいいなと思います。
松尾:比較的リラックスしていたつもりですが、横山さんが吐きそうな気持ちで見ると聞いて、そんな人の前でやるのは嫌だなと思っています(笑)。
ーーキャストの皆さんのちょっと違った一面が見られるというのは。
小山:横山さんの本に書かれていることをいかに再現できるかが私の役割です。稽古をするにつれて、皆さんの繊細さやパワフルな部分など、様々な魅力と意外な一面が見えてきました。
ーーリアルと空想の世界が描かれているとのことですが、どのように感じていきたいと考えていますか?
江口:たくさん稽古してきた中で、日々発見や疑問がありました。本番の中でも毎回何か発見できたらいいなと思っています。
松尾:想像上の人たちとの芝居をするわけですが、舞台での表現として、関係性を面白く表現できるなと感じます。本番中の発見でどんどんふくらんでいくと思いますね。
松岡:個人的な話になりますが、舞台が久しぶりなんです。1冊の台本をみんなで1ヶ月以上の時間をかけて作っていくのが本当に楽しくて。私が演じるのが空想上の理想の人物。富子さんが作家として描いた中で一番お気に入りのヒロインだと思っているので、富子さんと江口さんを愛して楽しみたいと思っています。
千葉:僕が演じる二役で、現実に存在する役の方が空想っぽく感じることもあるんです(笑)。お客様の反応がわからないという意味で、現実のキャラクターが難しく感じますね。
ーー江口さん演じる富子の理想の存在を演じるのが松岡さん。改めて共演してみていかがでしょう。
江口:映像は何度かありますが、舞台は初めて。茉優ちゃんに助けられることが本当に多いです。稽古中、自分の番が終わって席に戻るとサッと食べ物を渡してくれたり(笑)。
松岡:嬉しい。役柄もあるのか(千葉と)よくお話しするんですが、富子さんが嬉しいと私たちも嬉しいです。描かれている人物たちはちょっと子供のような感じがあって。
横山:そうですね。みんなで育てていく感覚があります。
松岡:江口さんが喜ぶことをたくさん考えていきたいです。今日は水茄子で喜んでくださいました(笑)。
江口:明日持ってきてくれるそうです(笑)。
ーーお客様へのメッセージをお願いします。
江口:難解な作品ではないので、私としては大人だけではなく子供にも見てほしいです。劇場でお芝居を見るのは楽しいなと思ってもらえたら嬉しいです。
松岡:この作品には、根っからの悪人は一人も出てきません。苦しいシーンがないので、この1ヶ月、ポジティブに役と作品について考えて過ごせました。来てくださるお客様にもあたたかい気持ちで帰っていただけるように務めます。
千葉:脚本を初めて読んだ時と今で、抱いた印象が変わっているので、お客様がどう感じてくださるかすごく気になります。たくさんの方に見ていただき、感想をいただけたら嬉しいです。
松尾:思春期を過ごした方なら思い当たるエピソードがちりばめられています。皆さんキュンとするところがあるんじゃないかと思いますね。あとはラブコメですから、面白い部分は声を出して笑っていただきたいです。
※以下、公開稽古の写真と1幕の内容あり
物語は大学卒業を控えた富子(江口のりこ)が中学時代の同級生・藤本(松尾諭)に手紙を書くシーンからスタートする。藤本の結婚式で15年ぶりに再会した二人のリアルな距離感が描かれる一方、富子が理想の中で生み出したミコ(松岡茉優)とリヒト(千葉雄大)の甘酸っぱいロマンスが進行していくのが面白い。現実と虚構のギャップ、友人のひかる(橋爪未萠里)との気楽な会話で、冒頭から引き込まれた。
江口は富子の夢見がちな一面、「小説家」という目標に対する強い思いを魅力的に描き、松尾は鈍感だがまっすぐな藤本を愛嬌のある人物として表現する。「独身のまま30歳になったら結婚して」と頼む富子の拗らせっぷり、それを本気にしない藤本の鈍さにヤキモキしつつ、どちらにも共感できてしまう。
松岡は女優として活躍する丁子、千葉は新進気鋭の現代アーティスト・ウンピョウも演じており、個性の強いキャラクターの演じ分けも楽しい。丁子の昔馴染みで映画監督の間野(入野自由)、文芸部顧問の大江田先生(尾方宣久)や藤本の妻(富山えり子)といった人々もそれぞれ魅力的だ。
また、会見で千葉が話していたように、紙の重なりを思わせるような舞台美術が印象的。過去と現在、現実と富子の理想の切り替えがわかりやすく表現されている。富子の空想をポップに見せたり、二人がやり取りしたたくさんの手紙を想像させたり、時に現実とイマジナリーフレンドをオーバーラップさせたりしながら、物語に奥行きを生み出していた。
富子が書いた小説『これは愛である』をきっかけに、それぞれの人生が交差していく本作。軽やかに笑えて、共感や懐かしさも覚えられる作品を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
『ワタシタチはモノガタリ』は2024年9月8日(日)より渋谷・PARCO劇場にて開幕。10月には福岡・キャナルシティ劇場、大阪・森ノ宮ピロティホール、新潟のりゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場でも公演が行われる。
取材・文・撮影=吉田沙奈