【シナモンロールに導かれ/豪徳寺】10月4日はシナモンロールの日!お茶時間に欠かせないスウェーデン菓子「FIKAFABRIKEN(フィーカファブリーケン)」
シナモンロールが好きだ。吸い込まれそうな渦巻き、半分に割った時の縞模様。そのアーティスティックな姿に何度陶酔したことだろう。
溶けてしまいそうな甘さと芳香に満たされ、私の奥底に眠るシナモンロールの記憶を呼び起こす。もっとシナモンロールのことが知りたい。シナモンロールに会いたい。
シナモンロールは私をあちらこちらに連れ出し、縁を繋いでくれる。さあ、今日も今日とてシナモンロールを求め西へ東へ…
――――――――――――
「シナモンロールの日」は1999年にスウェーデンで制定され、現地では「Kanelbullens dag (カネールブッレンス・ダーグ)」と呼ばれている。
スウェーデン人にとってシナモンロールは、日本のあんぱんのようなもの。ベーカリーやカフェだけでなく、コンビニにも売っているほど身近なのだそう。
日本にも北欧発のインテリアショップなどはあったものの、北欧の食文化についてはあまり浸透していなかった十年ほど前。
都内の屋外マーケットに出店していたスウェーデン菓子の店「FIKAFABRIKEN(フィーカファブリーケン)」との出会いが私に新しい世界を魅せてくれた。
スウェーデン菓子を通して知った北欧の奥深さ、スパイスの世界。今回は愛するシナモンロールとともに、北欧の文化についてを深掘りしていく。
自然とコミュニケーションが生まれるお菓子工場
小田急小田原線・豪徳寺駅から豪徳寺商店街へ。
スーパーマーケットにお花屋さん、パン屋さんやコーヒースタンドとお店が軒を連ね、街に暮らす人々で平日でも人通りが絶えない。
招き猫で有名な「大谿山 豪徳寺」の方向に進んでいくと、左手に看板が見えてくる。
スウェーデンにはFIKA(フィーカ)という習慣がある。
ランチの前や後に、テーブルを囲んでコーヒーとお菓子を食べながら語らうお茶時間で、分け隔てなく交流できるコミュニケーションの場としても大切な時間だ。
その「FIKA」と、工場を意味する「FABRIKEN(ファブリーケン)」を組み合わせて名付けられた店名。
スウェーデンでの留学を経験しその国民性に惚れたオーナーが、日本でもスウェーデンの暮らしを感じてほしいとスウェーデン菓子のお店をスタートした。
私が「FIKAFABRIKEN」と出会った当時はイベント出店のみのお菓子屋さんだった。
店舗をオープンしたのは2017年。豪徳寺はオーナーが学生時代を過ごした馴染みの場所で、和気あいあいとした人との距離感やゆったりとした雰囲気がどこかスウェーデンに似ているため、自然とこの場所を選んでいたという。
慣れない海外生活で、コーヒーを飲みながら友人たちと会話をする時間は安心感を与えてくれた。
この素晴らしい文化を日本で体験できる場所がないことに気づき、パティシエとしての経験や磨いた技術を活かし「FIKAFABRIKEN」に思いを詰め込んだ。
毎日をハッピーにする合言葉
「Ska vi fika?(スカ ヴィ フィーカ?)」は「お茶をしませんか?」という意味で使われるのスウェーデン語。
家事や仕事の合間に手を止め、休憩しながら会話を楽しむ——そんな時間が集中力も増して仕事の効率も上がるのだとか。
学生であっても同じだ。オーナーも留学時代、授業の合間にFIKAをしていた。
デンマークやフィンランドにもFIKAに似た概念はあるが、はっきりと示したものはなく、スウェーデン独特の文化と言える。
スウェーデンの人々は、家や職場に限らず、それぞれに行きつけのカフェを持っているほどカフェにもよく訪れる。
コーヒー好きが多く、「バッチブリュー」という大きなドリップマシンで何杯分かをまとめて抽出しているため一杯注文するともう一杯おかわりできるシステムが主流。
そしてコーヒーと同じくらい好きなのが、スウェーデンで最もポピュラーなペストリー、シナモンロールだ。
北欧のシナモンロールは生地にカルダモンを入れているのが特徴。巻き方は国によって様々で、食感も変わってくる。
スウェーデンでは渦巻き型やねじり渦巻型で、映画で有名な「コルヴァプースティ」はフィンランドの巻き方だ。
ちなみに現地ではシナモンロールの隣に決まってカルダモンロールも並んでおり、一・二を争う人気とか。
もしかしたらスウェーデン人はカルダモン好きなのかも?と、インタビュー中に淹れてくれたカルダモン入りアールグレイを飲みながらオーナーと笑い合う。
伝統を重んじるスウェーデンでは元のレシピを大切にしたクラシカルなものが多く、日本のようにアレンジすることはあまりないという。
しかし、最近では観光客が増えたことも影響してかメニューも多様化してきたといい、春の訪れを告げる伝統スイーツ「セムラ」もチョコやピスタチオなど種類豊富に。
オーナーは毎年スウェーデンに訪れ、変化も敏感に感じ取りメニューをブラッシュアップ。
実はシナモンロールも、創業当時とは装いも味も進化している。
「現地の味に負けないおいしさ」と自信を持って提供する「FIKAFABRIKEN」のシナモンロール。スウェーデンにいるような気持ちで味わってほしい。
おいしさを分かち合いたい!誰かと話たくなるシナモンロール(イラストあり)
今回いただいたのは
●Kanelbulle(カネールブッレ) ¥300(税込)
●Oatmilk latte(オーツミルク ラテ) ¥700(税込)
スウェーデン語でシナモンロールは「Kanelbulle(カネールブッレ)」。「Kanel(カネール)」はシナモン、「bulle(ブッレ)」は甘いパンを指す。“FIKAといったらブッレとコーヒー”というのがスタンダードだ。
本場のブッレはサイズが大きいので、「FIKAFABRIKEN」では他のお菓子と一緒に楽しめるよう小ぶりのサイズ感に。
生地もパン寄りではなく、粉を変えお菓子的な食感になるようアレンジしている。
歯切れよく、むぎゅっとした噛みごたえのある生地。しっかりと焼きこまれ、バターの香ばしさと卵のコクがぎゅっと詰まっている。
口に入る瞬間、シナモンよりもまずかけめぐるのはカルダモンのさわやかさ。
ホールから粉砕された香りはとても華やか。表面のニブシュガーも本場のものを取り寄せており、強すぎない甘さとカリカリのアクセントが愛おしい。
お菓子らしい甘美な味わいが、パンとは一味違ったおいしさを連れてくる。
ゆっくり食べようにも、鼻をくすぐる香りに手が止まらない。カルダモンのあと口の中に溶け出すシナモンと砂糖の甘い余韻がコーヒーを誘う。
今回合わせたのは、オーツミルクラテ。オーツミルクの発祥もスウェーデンだ。
乳糖不耐症やアレルギーのある方のために1990年に開発された代替ミルク。
スウェーデンでは定番の食材であるオーツ麦を原料としており、穀物由来の自然な甘味と香味、牛乳のようなコクが味わえる。エスプレッソとの相性も抜群。
この日のコーヒーは経堂にある「Raw Sugar Roast(ローシュガーロースト)」さんの中煎り。
オーツミルクのすっきりとした味わいはコーヒーの旨味を消さず、とてもまろやか。口当たりのやわらかさに思わずシナモンロールを浸したくなる。
コーヒーはディカフェも選べる他、北欧紅茶にココア、レモネードなども用意。お子さん連れの方も大歓迎だ。
心を緩め、人との距離を縮めよう
FIKAのおもてなしには7種類のお菓子を用意するのがよいとされている。店舗でも常時7種類のクッキーが並び、オリジナルのクッキー缶も人気だ。
オーナーは2024年に初のレシピ本を出版しており、おうちでも簡単にスウェーデン菓子が作れる。
読んでみると材料はいたってシンプル。だからこそ作り手の愛情深さが繰り返し食べたくなる味を作り出すのだろう。
現在では「FIKAFABRIKEN」「torpet」「BACKEN」と3つのカフェを経営し、それぞれ異なる切り口でスウェーデンの文化を届けている。
私もここでのFIKAをきっかけに、忙しなく埋め尽くされた時間から解放されリフレッシュする大切さ、人と心を通わせる喜びを実感することができた。
ただ味わうだけでなく、伝統や生活習慣の違いを楽しみながら相手を尊重するところに魅力を感じる。北欧への憧れは高まるばかりだ。
いつかは私もスウェーデンへ…
WRITER:まるやまひとみ
=================================
【SHOP INFORMATION】
SHOP:FIKAFABRIKEN(フィーカファブリーケン)
ADDRESS:東京都世田谷区豪徳寺1-22-3
OPEN:9:00~18:00