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小さな蟹からはじまる<いきもの×SF物語>? 漫画『琉球蟹探訪』ブックレビュー

サカナト

『琉球蟹探訪』(さとかつ(2025)、小学館クリエイティブ/提供:SAKANA BOOKS)

先日、東京・学芸大学駅前に、琉球列島のカニが複数現れたというニュースが話題になりました。路上を歩いていたのは、南の島にしかいないはずの、陸生のカニ「オカガニ」の仲間だったそうです。

なぜこんなところにカニが──?

その原因解明は専門家にお任せするとして、今回はそんな「オカガニ」も登場する漫画『琉球蟹探訪』(さとかつ(2025)、小学館クリエイティブ)を紹介します。

全5話の連作漫画 SF的な設定がスパイスとなる<いきもの物語>

本書は全5話からなる連作漫画。最初に描かれる表題作「琉球蟹探訪」では、沖縄を訪れた研究者のキリコが、人語を話すシオマネキの案内する“沖縄の蟹を紹介するツアー”に参加するところから物語が始まります。

シオマネキ(提供:PhotoAC)

聞くだけでホッコリとする導入ですが、旅の途中では巨大なオオガニに遭遇するなど、思わぬピンチも……。

カニに頬を緩ませ、そして驚かされる──。SF的な設定がスパイスとなり、カニの魅力を一層際立たせながら、南の島の空気や旅情まで運んでくれます。

線に込められた気合と、生きもの愛

本作で印象的なのは、生きものが登場するコマに込められた「気合」のようなものです。どの話でも、生物の姿が現れた瞬間、作者のペンにぐっと力が入るのがはっきりと感じられます。

ページをめくる読者にまで響くような、「いい絵を描くぞ!」という意志がそこにある。同時に、「生きものが大好きなんだろうな」という作者の生きもの愛もにじみ出ているようです。

そして『琉球蟹探訪』は、タイトルに“蟹”とありますが、登場するのは蟹だけではありません。巨大なミミズハゼ、作中では絶滅したとされるアオスジアゲハ、謎めいた寄生生物──。

読み進めるうちに、私たちはどんどん遠く、深く、そして多様な命のかたちへと導かれていきます。

カニがいたほうが嬉しい

喋るカニとのワクワクドキドキの沖縄ツアー。そんな穏やかな導入から始まる本作ですが、やがて舞台は真っ暗な地底や、生きものがいなくなった世界へと移っていきます。

「旅先探訪もの」だと思っていたら、気づけばディストピアのど真ん中に。それでも、その流れは自然で、この作品にとっての“探訪”とは、地図にある場所を巡るだけでなく、想像もしなかった未来まで足を伸ばすことを意味しているのかもしれません。

沖縄の景色(提供:PhotoAC)

最後に収められた描き下ろし「南(ぱい)ぬ蟹探訪」では、舞台は再び沖縄へ。人と蟹の交流を目的とし、もとは蟹の誕生会だったという「カニ祭り」の様子が描かれます。

奇妙でどこか微笑ましい風習を見届けたあと、案内役のシオマネキはふと問いかけます。

「この島のヒトは なぜ我々と生きてくれるのでしょう?」

それ対して主人公のキリコは、こう答えるのです。

「カニがいたほうが嬉しいからだよ」

あまりにも素直で、でも深く心に残る一言です。理由なんていらない。ただ、生きものがいてくれることが嬉しい──そんな気持ちが、この連作全体にもやさしく流れています。

『琉球蟹探訪』は、生きもの好きにも、SF好きにも、そして「この世界にたくさんの生きものがいてくれてよかった」と思えるすべての人に読んでほしい一冊です。

遠くへ、深くへ──あなたもこの探訪に出かけてみませんか。

(サカナト編集部)

参考文献

さとかつ(2025)、琉球蟹探訪(小学館クリエイティブ)

FNNプライムオンラインー【なぜ】「生きたカニ使ってない」近隣飲食店も困惑…東京・目黒区駅前路上に謎の“歩くカニ” 専門家「東京にいるようなカニではない」複数個体出没か

Real Sound-【漫画】カニが案内する沖縄ツアーに参加したら……不可思議で哀愁漂うSNS漫画『琉球蟹探訪』が話題

小学館の図鑑NEO-話題の生き物漫画『琉球蟹探訪』。作者・さとかつ先生のルーツは図鑑NEO『水の生物』!

WEB ザテレビジョンーカニと遊び、カニに襲われ、カニに助けられ…カニと旅をすることで、知ることができたカニの魅力…「こういう漫画を待ってた」と絶賛の声

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