ナーシングホームの仕事って大変?高度な医療ケアと看取りまで行う介護施設
ナーシングホームの定義と特徴
ナーシングホームとは何か
ナーシングホームは、医療と介護の両面で支援を行う高齢者向け施設です。
住宅型有料老人ホームなどの有料老人ホームとして位置づけられていることが多く、その中でも看護師が24時間常駐しており、医療依存度の高い方の受け入れが可能な施設を「ナーシングホーム」と呼ぶことが一般的です。
入居者は主に、指定難病や特定疾病の患者、要介護認定3〜5の高齢者が中心となっています。こうした方々は、一般的な介護施設では受け入れが難しいケースが少なくありません。
ナーシングホームでは、入居者が身体的な状態が悪化しても、ほかの施設に転居する必要がなく、住み慣れた環境で安心して生活を続けることができます。
特に注目すべき点は、ナーシングホームがターミナルケア(終末期ケア)や看取りケアにも対応できる体制を整えていることが多い点です。
医療と介護の専門スタッフが連携することで、最期まで尊厳ある生活を支えることが可能となります。
また、ナーシングホームは病院と自宅の中間的な存在として、退院後すぐに自宅での生活が難しい方の受け皿となる役割も担っています。こうした特性から、今後の超高齢社会においてさらに重要性が高まると考えられる施設形態なのです。
このように、ナーシングホームは地域包括ケアシステムの一環として、医療機関やほかの介護サービスと連携しながら、医療ニーズの高い高齢者の生活を支える重要な役割を果たしています。
ナーシングホームで提供される医療的ケアの内容
ナーシングホームでは、入居者に対してさまざまな医療的ケアが提供されます。その内容は、一般的な介護施設と比較して、より専門的で高度な医療行為を含んでいることが特徴です。
具体的な医療的ケアの主な内容は以下の通りです。
経管栄養(胃ろう)のケア 喀痰吸引(日中・夜間問わず) 酸素療法 褥瘡(床ずれ)の処置 インスリン注射の実施
PwCコンサルティング合同会社の調査によると、特定施設の指定を受けている有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅のうち、6割以上が夜間のたん吸引に対応できる職員がいないと回答しています。
また、東京都社会福祉協議会が2020年に実施した調査では、要介護3以上の入居者を対象としている特別養護老人ホームにおいて、待機者が入居できない理由の9割以上を「医療依存度の高さ」が占めている現状です。
一方で、ナーシングホームでは、医療的ケアが可能な看護師が夜間も常駐しているため、ほかの施設では受け入れが難しい入居者にも対応できるという強みがあります。
さらに、ナーシングホームでは、厚生労働大臣が定める「別表7」に該当する疾病や状態の方の受け入れも行っています。 別表7とは、末期がんやパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、人工呼吸器使用など、高度な医療的ケアを必要とする疾病の基準を指します。
こうした疾患を抱える方々に対しても、適切なケアを提供できる体制が整っていることが、ナーシングホームの大きな特徴です。
また、医師による定期的な訪問診療が実施されており、看護師と医師が連携しながら入居者の健康状態を常に把握し、必要な医療処置を適切に提供することが求められます。
このように、ナーシングホームは医療と介護の両方を提供することで、入居者が安心して生活できる環境を整えています。
ナーシングホームの設備・人員配置基準
ナーシングホームは、医療と介護を一体的に提供する施設であり、一般的な介護施設よりも高度な設備と充実した人員配置が求められます。
ただし、ナーシングホームに特化した明確な法的基準はなく、有料老人ホームの基準をもとに独自の医療体制を整えていることが多いです。
設備面では、酸素供給設備、吸引器、心電図モニター、除細動器などの医療機器を常備していることが多く、なかには感染症対策として、隔離室や衛生管理設備を備えた施設もあるでしょう。
人員配置の面では、24時間体制で看護師が常駐していることが特徴です。前出の調査によると、有料老人ホームでは夜間に看護職員が「0人」の施設が74.6%を占めています。
対して、ナーシングホームでは夜間でも看護師によるケアを提供できるため、入居者の安心感につながるでしょう。
医師が常勤となっている施設もあり、必要な医療ケアを迅速に提供することが可能です。また、リハビリ専門職や栄養士、ケアマネジャーも必要に応じて配置されています。
このように、ナーシングホームは医療依存度の高い入居者に対応するため、一般的な介護施設と比較して、より医療に特化した設備と人員配置を実現しているのです。
ナーシングホームにおける仕事内容
看護師の主な業務と役割
ナーシングホームで働く看護師は、入居者の健康を守るために多岐にわたる業務を担当しています。医療と介護の橋渡し役として、その役割は非常に重要です。
看護師の主な業務と役割は以下のようなものがあります。
医療的ケアの実施 褥瘡(床ずれ)の処置、点滴管理、インスリン注射など、専門的な医療行為を実施します。これにより、入居者の健康状態を維持し、病気の進行を防ぐ役割を果たします。 健康管理 入居者のバイタルサイン(血圧、脈拍、体温など)を定期的に測定し、健康状態の変化を観察します。 医師との連携 訪問医からの指示に基づいて医療行為を行い、医師と定期的にコミュニケーションをとることで、入居者の健康状態を共有します。 薬剤管理 医師の指示に従い、薬剤の管理や投与を行います。入居者が正しく薬を服用できるようサポートし、服薬スケジュールを守ることも重要な役割です。
さらに、介護職員への指導も、看護師の大切な役割のひとつです。医療的な知識や技術について介護スタッフに指導することで、チーム全体のケアの質を向上させます。
また、前出の調査によると、入居者の看取りを受け入れられない場合の理由について、介護付き有料老人ホームと住宅型有料老人ホームのどちらにおいても「夜間は看護職員がいないから」が最も多くなっています。
看護師の配置は、看取りケアの実施可否にも大きな影響を与えます。24時間体制の看護師配置をしているナーシングホームだからこそ、より充実した看取りケアを提供できるでしょう。
このように、ナーシングホームの看護師は、医療的な専門知識を活かしながら入居者の健康と生活の質を支える中心的な存在です。
特に24時間体制の医療ケアが可能であることが、ナーシングホームの最大の特徴であり、その実現には看護師の存在が不可欠といえます。
介護職員の主な業務と役割
ナーシングホームでの介護職員は、医療依存度の高い入居者に対して日常生活の支援を行う重要な役割を果たしています。看護師と連携しながら、入居者の生活の質を高めるためのさまざまな業務に従事します。
まず、日常生活のサポートとして、食事、入浴、排泄、着替えなどの基本的な生活動作をサポートします。特に身体機能が低下している入居者には、適切な介助技術を用いた支援が求められます。
また、身体介護も重要な役割です。体位交換や歩行補助、移動介助など、入居者を支える業務を行います。褥瘡(床ずれ)予防や拘縮予防といった医学的な視点も求められるでしょう。
精神的なケアも介護職員の仕事の一つです。入居者とのコミュニケーションを通して、心の状態に寄り添い、心理的な支援を提供します。特に終末期のケアを行う際には、このような精神的なサポートが非常に重要となります。
また、レクリエーションの企画・実施により、入居者の社会的なつながりを促進し、精神的な健康を支えることも期待されています。
ナーシングホームの介護職員は、一般的な介護施設と比べて、より医療的な知識や観察力が求められる点が特徴的です。看護師と緊密に連携しながら、医療依存度の高い入居者の生活を総合的に支えるのが主な役割となっています。
多職種連携によるチームケアの実施
ナーシングホームにおける多職種連携は、質の高いケアを提供するために不可欠な要素です。看護師、介護職員、医師、栄養士など、さまざまな専門職が協力し、入居者の健康と生活の質を向上させるためのチームケアを実施しています。
具体的には、各専門職がそれぞれの視点から入居者の状態を評価し、ケアプランの立案や見直しなどを行います。特に医療依存度の高い入居者の場合、医療的な側面と生活面の両方からアプローチする必要があるため、多職種間の情報共有が重要となります。
多職種連携の大きな利点は、入居者の状態変化に柔軟に対応できる点です。例えば、入居者の体調が急変した場合、看護師が迅速に医師に連絡し、介護職員と協力して適切な処置を行えます。
また、ターミナルケアにおいても、医療的なケアと精神的なサポートを多職種で分担することで、より質の高い看取りが可能になります。
このように、ナーシングホームにおける多職種連携は、専門性の高いケアを実現するための基盤となっており、チーム全体が一丸となって入居者の生活を支えています。
ナーシングホームの仕事の大変さと意義
医療依存度の高い入居者へのケアに伴う負担とその価値
繰り返しになりますが、ナーシングホームでは、医療依存度の高い入居者に対するケアが求められます。これには身体的なケアだけでなく、精神的なサポートも含まれます。日々の業務は決して楽ではなく、専門的な知識や技術、そして強い責任感が必要とされます。
入居者は慢性疾患や重篤な病状を抱えていることが多いため、看護師や介護士は専門的な医療行為や介護ケアを日常的に行います。そのため、緊張感が伴うことも多く、常に細心の注意を払う必要があります。
また、入居者の急変に対応するために、夜間を含めた迅速な判断と行動が求められることもあります。こうした負担が積み重なることで、スタッフの肉体的・精神的な疲労につながることも少なくありません。
しかし、その一方で、この仕事には大きな意義とやりがいがあります。日々のケアを通じて、入居者が安心して生活できる環境を整え、笑顔を引き出すことができるのは、スタッフにとってかけがえのない喜びです。
医療的なサポートがあることで、入居者だけでなく、その家族にも安心を提供できるのも大きな役割のひとつとなっています。
また、精神的なケアも重要な要素です。医療依存度の高い入居者やその家族は、不安や孤独を感じることが少なくありません。日々のケアを通じて、入居者の声に耳を傾け、寄り添い、支えることで、信頼関係を築くことができます。
小さな変化に気づき、適切な対応をすることで、入居者の安心した表情や感謝の言葉を受け取ることもあり、それが働く人にとっての励みとなるでしょう。
ナーシングホームでの仕事は決して簡単ではなく、負担の大きい場面もあります。しかし、入居者にとって欠かせない存在として支えとなり、人生の最期まで寄り添うことができる社会的意義の大きい仕事です。
困難の中にこそ、この仕事ならではの意義とやりがいが詰まっているのです。
看取りケアに携わることの意義と難しさ
看取りケアは、ナーシングホームにおける重要な役割の一つです。終末期にある入居者が穏やかに最期を迎えられるよう支援することは、大きな責任を伴いますが、同時に深い意義も持っています。
看取りケアの難しさは多岐にわたります。医学的な側面では、症状コントロールや苦痛緩和のための専門的知識が求められます。また、入居者の状態は刻々と変化するため、細やかな観察と迅速な対応が必要となるでしょう。
精神面では、死に向きあう入居者やその家族の複雑な感情に寄り添う必要があります。また、長期間関わってきた入居者との別れは、スタッフ自身にとっても大きな悲しみとなります。
しかし、人生の最期を支えることは、その人の尊厳を守るための重要な行為と言えます。医療と介護の専門性を駆使して苦痛を和らげ、その人らしい最期を支援することは、ケアの究極の形ともいえるでしょう。
特に、病院ではなく「生活の場」で最期を迎えられるよう支援することで、入居者は住み慣れた環境で安心して人生を締めくくることができます。
このように、看取りケアは難しさを伴いますが、人としての尊厳を守り、人生の締めくくりを支える深い意義を持つ業務なのです。
やりがいと専門性の向上
ナーシングホームでの仕事は、高度な医療・介護ニーズに応えることで、専門性を高められる点が大きな魅力の一つです。
ナーシングホームで得られる専門性には、以下のようなものがあります。
医療的ケアの高度な技術と知識の習得 経管栄養や喀痰吸引、人工呼吸器管理など、一般的な介護施設では経験できない高度な医療的ケアを学べます。 ターミナルケアにおける精神的サポートのスキル 終末期の入居者やその家族に対して、適切な精神的ケアを提供するための専門的なコミュニケーション技術を身につけられます。 多職種連携におけるコミュニケーション能力 医師、看護師、介護士、リハビリ職などさまざまな専門職と協働する中で、効果的な情報共有や連携のスキルが向上します。 複合的な問題を持つ入居者への包括的アプローチ 医療と介護の両面からニーズを把握し、総合的な視点でケアプランを立案・実行する能力が身につきます。 緊急時の対応力と判断力 急変時の初期対応や医療職への適切な報告など、緊急時に冷静に判断し行動するための実践的なスキルを習得できます。
このような環境は、キャリアアップの可能性も広げます。専門性を高めることで、将来的には管理職や専門職への道も開かれ、自己実現につながることが期待できます。
さらに、こうしたナーシングホームの役割は、今後さらに重要になっていくことが予想されます。
厚労省によると、85歳以上の人口は今後も増加傾向にあり、2020年の616万人から2040年には1,006万人へと増加する見込みです。
また、85歳以上の高齢者の要介護認定率は約6割近くにのぼっており、医療と介護の複合ニーズを持つ高齢者はますます増加することが予測されます。
今後も、ナーシングホームのような医療依存度の高い入居者を受け入れる施設の重要性はさらに高まっていくでしょう。
入居者の人生に深く関わり、専門性を高めながら支援できる仕事には、大変さだけでなく、大きなやりがいがあります。
高齢化が進む中で、ナーシングホームでの経験やスキルはより一層価値を持つものとなるはずです。