マウント野郎からアットホーム殺人鬼まで、いま映画界で「ジコチュー主人公」がアツい?『二つの季節しかない村』ほか注目作6選
カンヌ常連! トルコの名匠が放つ最新作
第76回カンヌ国際映画祭でトルコ人として初となる最優秀女優賞を受賞した『二つの季節しかない村』が、10月11日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開となる。
本作はカンヌ映画祭で最高賞パルムドールほか、出品毎に常に高評価を得ているトルコの名匠ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の最新作。繊細な人間の感情の機微を圧倒的な演出力で描き出し、圧倒的な広がりを見せる自然の大きさと、自我に縛られた人間の小ささを大胆に対比させている。
私たちの写し鏡?「自分本位な主人公」が登場する秋の注目作!
自らの主張を都合よく展開する屁理屈、もとい論法を“◯◯構文”などと呼んで揶揄する風潮が流行っている昨今。じつは『二つの季節しかない村』の主人公も、「ああ言えばこう言う」的な水掛け論の繰り返しで相手をやり込めようとする屁理屈マウント野郎である。
当然ながら映画の主人公だって、世界を救う超人や他者への優しさにあふれた聖人ばかりではない。閉鎖的な土地で鬱屈した思いを抱える者、内に秘めたる狂気的な感情を抱える者、それらを他人にぶつけてしまう者、と様々だ。
観客として、最初は「こんな主人公やだ~」と思って観ていても、「こういう人、知ってる!」などと周囲を見渡しはじめ、やがて「もしかして、自分にもこんなところあるかも……」「いや、ここまでじゃないでしょ!?」などと内省タイムに突入してしまったりするのも醍醐味の一つではある。
そんなこんなでクセの強いものに惹かれるのも、また人間。はじめは引き気味ながらも、気づけば身を乗り出してガン見してしまう――そんな”自分本位な主人公たち”の登場する映画たちが今秋、まぜか映画館に集結! ということで『二つの季節しかない村』を筆頭に、そんなジコチュー主人公ムービーたちを一挙に紹介しよう。
まったく愛せない、でも他人ごとじゃない!『二つの季節しかない村』
10月11日(金)より全国順次公開(ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督)
▼サメット(デニズ・ジェリオウル)
トルコ・東アナトリアの田舎村の学校で教える美術教師サメット。都会出身で、同僚たちと話すときはそれとなくマウントをとる。「早くイスタンブールに転任したい」が口癖。社会の不正義と戦う英語教師ヌライと論戦を交わす際、「誰かがなんとかしないと」と言われれば、「それは俺の役目か?」と返す皮肉屋。
プライド高く、ひとりよがりで、屁理屈を並べ、すぐにキレて、周囲を見下す、控えめに言っても“まったく愛せない”男。それなのに、なぜか“他人ごと”とは思えない……。周囲と自分を比べ、他者をやりこめようとするサメットのような人は、現代社会のあらゆるところに居るだろう(自戒を込めて)。
天才デザイナーが抱える苦悩と本音とは?『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
9月20日(金)より公開中(ケヴィン・マクドナルド監督)
▼ジョン・ガリアーノ
ジバンシィ、クリスチャン・ディオールと、世界的ブランドのデザイナーに次々と抜擢された<ファッション界の革命児>ことジョン・ガリアーノ。しかし、酒に酔ってユダヤ系女性に「ヒトラーが好き」「お前も殺されればいいのに」と発言したり、差別的な暴言を吐く動画が拡散され、逮捕、解雇……と、すべてを失った。
本作は、ファッション業界で絶頂を極め、超人的な仕事量をこなしながら、大切な人を失い、アルコール依存症になるなど、誰もが憧れた彼の裏側に迫るドキュメンタリー。他者の心を踏みにじる言葉は許されるものではない。けれども、彼は奇跡的に復活を遂げる。ガリアーノ自身のインタビューと栄光を振り返りながら、その軌跡を追う。
お調子者ビートルジュースの新たな野望!『ビートルジュース ビートルジュース』
9月27日(金)より公開中(ティム・バートン監督)
▼ビートルジュース(マイケル・キートン)
ティム・バートン監督が、自身の出世作となった1988年の映画『ビートルジュース』の35年後を描いたホラーコメディ。ビートルジュース(マイケル・キートン)は、名前を3回呼ぶと死後の世界から現れる、お調子者の【人間怖がらせ屋】。彼は35年前に求婚した人間リディア (ウィノナ・ライダー)と結婚を諦めていなかった。
ある日、リディアの娘アストリッド(ジェナ・オルテガ)が死後の世界にさらわれる。リディアはビートルジュースに「結婚するから娘を助けて」と頼むのだが、稀代のトラブルメーカーであるビートルジュースのせいで、事態はさらに混乱していく……。良く言えば一途、健気ともいえるビートルジュースだが、自分の野望のためには暴走しがち。果たして、ハロウィンの夜に訪れる結末とは――?
無意識に悪意を連鎖させる“転売ヤー”『Cloud クラウド』
9月27日(金)より公開中(黒沢清監督)
▼吉井良介(菅田将暉)
『スパイの妻』で第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した黒沢清監督が、見えない悪意と隣り合わせの怖さを描くサスペンス・スリラー。世間から忌み嫌われる“転売ヤー”としてコツコツと働く吉井(菅田将暉)。彼が知らぬうちにバラまいた憎悪の粒はネット社会の闇を吸って成長し、“集団狂気”へとエスカレートしてゆく。
誹謗中傷、フェイクニュースなど、“誰もが標的になりうる”見えない悪意と隣り合わせの生活は、現代社会を生きる私たちの身に覚えがあるはず。日々コツコツと働いて収入を得ている人からすると、右から左へモノを転がして小金を稼ぐ転売ヤーは自分本位に見えてしまうのかもしれないが……。
メタルとカンフーに熱狂する冴えない男!『エストニアの聖なるカンフーマスター』
10月4日(金)より公開(ライナル・サルネット監督)
▼ラファエル(ウルセル・ティルク)
ポップカルチャーが禁じられたソ連占領下のエストニア。青年ラファエルは、革ジャンを着てメタルを鳴らしながら宙を舞う3人のカンフーの達人に出会う。それ以来、ブラック・サバスとカンフーに夢中になるが、ひとりよがりの練習ではちっともカンフーは上達しない。ある日、山奥の修道院で見たことのないカンフーを扱う僧侶たちに出会い、弟子入りを志願するが――。
「ブラックメタル・カンフーで強くなりたい!」と我が道を突き進む主人公。その姿に周囲が唖然としても、まったく意に介さず修行に邁進する姿には羨ましさすらおぼえるが、ある意味では究極の自分本位とも言える?
シャマラン最新作は、優しい父親=残虐な殺人鬼!『トラップ』
10月25日(金)より公開(M・ナイト・シャマラン監督)
▼クーパー(ジョシュ・ハートネット)
『シックス・センス』で全世界を震撼させた M・ナイト・シャマラン監督最新作。溺愛する娘ライリー(アリエル・ドノヒュー)のために、彼女が夢中になっている世界的アーティスト、レディ・レイヴン(サレカ・ナイト・シャマラン)のライブのプラチナチケットを手に入れたクーパー。ライリーは最高の席に大感激だ。
しかし観客が熱狂に包まれる中、異常な数の監視カメラ、会場内外に続々と集結する警察に気づいたクーパー。口の軽いスタッフから「連続殺人鬼を捕まえるため、ライブ自体がトラップ」という情報を得るが、その世間を騒がす残虐な殺人鬼とは、優しい父親にしか見えないクーパー自身だった!
娘のための努力は惜しまない一方、心にモンスターを宿す男。もはやジコチューなどというレベルではないが、振れ幅の凄まじさも常人のそれではない。あの可愛らしかったジョシュ・ハートネットが……という感慨だけでなく、シャマラン監督にふたたび驚かされるはず。