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【小田原 イベントレポ】初三郎式、かながわの描き方 ~地形表現の科学~ - 鳥瞰図から紐解く観光地の歴史

湘南人

画像出典:神奈川県立 生命の星・地球博物館

「神奈川県立 生命の星・地球博物館」で開催中の特別展「初三郎式、かながわの描き方 ~地形表現の科学~」に行ってきました。
大正から昭和にかけて活躍した絵師・吉田初三郎による、空中から見下ろしたような構図の地形図「初三郎式鳥瞰図」から時代背景や地形表現の歴史を紐解きます。

初三郎式鳥瞰図とは?

展示は、5つのコーナーに分かれています。
まずは、吉田初三郎という人物についての紹介から。
1884年(明治17年)生まれの初三郎は、東京と京都で絵を学んだのち、広告などを手掛ける「応用芸術家」となりました。
その仕事の中で描いた名所図絵「京阪電車御案内」が当時の皇太子でのちの昭和天皇から好評を受けたことをきっかけに、各地の鳥瞰図を描くようになったそうです。

初三郎式鳥瞰図では、平野や盆地、山地、湖などがそれぞれの特徴を保ったまま立体的に共存し、さらに鉄道の路線と沿線にある名所が詳細に描き込まれています。

かつては軍事戦略のための役割が大きかった地図が、この頃からは観光のためのポジティブなツールへと変わっていったと言います。
一般的に販売されたほか、当時の主要メディアであった新聞に挟み込む形で配布され、多くの人が手に取りました。
まだ航空機がメジャーでなかった時代に、まるで上空から日本を一望するような視点の鳥瞰図は、人々に自由な観光への大きな期待感を与えたことでしょう。

鳥瞰図は、どうやって描かれたのか?

自身の絵を「手で描くのではなく、足で描き、頭で描く」と話していた初三郎は、複数の弟子と共に現地へ赴き写生を行い、数十枚のスケッチを1点の鳥瞰図に構成していったとのこと。
スケッチは時には数百枚に及ぶこともあったというので驚きです。
「幾何学的な測量図や平面図」と違って、初三郎の目に映った美しい自然の姿をありのままに再現した鳥瞰図は、人々が見て楽しみながら理解できるものとして人気を博しました。

「初三郎式鳥瞰図」では、名所旧跡の位置関係を正確に描き、地形の特徴を適度に強調することでリアルに見えると考察し、デジタル検証を行ったのが2つ目の展示です。
神奈川県全体や小田原・箱根地域の鳥瞰図を、コンピュータ技術を用いて再現するという試みを行っていて、非常に興味深い内容となっています。

鳥のような視点で神奈川の名所を眺める

3・4つ目の展示では昭和初期の「かながわ」と、県内各地の鳥瞰図をたっぷりと見ることができます。
「神奈川県鳥瞰図」は幅4メートル以上の大迫力。

小さな家々までが細かく描き込まれ、当時の交通事情などいくつかの注目ポイントが記されているため、飽きることなく眺めていられそうです。

熱海や湯河原といった温泉地に、小田原の城下町や横浜の市街地、鎌倉・江の島、三浦半島まで、神奈川県の地域ごとの特徴をみずみずしく描いた鳥瞰図がずらりと並びます。

「箱根名所図会」は、八版まで印刷される人気ぶりで、版を重ねるごとに情報と共に印刷精度が増しています。

関東大震災の被災の様子を描いたものもありました。

最後の展示では、地形表現の変化から印刷技術の発展までを振り返ることができました。
今では簡単に衛星写真で見ることができる地形を、そうした技術のない時代にユーモアたっぷりに表現した「初三郎式鳥瞰図」は、当時だからこそ生まれ得た芸術のように感じました。

随所に工夫された展示、学芸員による解説や見学会も

また、床にも面白い展示が。
鳥瞰図が描かれた時代の地形図が貼られており、拡大鏡が入った「大きく見えるくん」で見て回ることができます。

神奈川県の地形の立体模型を、複数の方向から見るとそれぞれの鳥瞰図らしく見える、という展示も実践的で面白く、不思議な体験ができました。

さらに、大きなモニターに映す「時層地図」では、明治時代から現在までの地図や航空写真を表示でき、「神奈川県鳥瞰図」に描かれた名所の昔と今の違いをはっきりと見比べることが可能。

学芸員さんによる解説でより楽しむなら、10月25日(土)、11月8日(土)、11月9日(日)の11:00~11:30/14:00~14:30がオススメ(予約不要)。
また、11月2日(日)は「小田原景勝鳥瞰図に描かれた建造物の石材の見学会」も実施されます(受付終了)。
館内のミュージアムショップでは特別展図録や鳥瞰図集も販売されていますよ。

この特別展はマニアの人にはもちろん垂涎ものですが、今住んでいる神奈川の昔の姿や、身近な観光地の魅力を「初三郎式鳥瞰図」という視点から再確認できる体験は、どんな人の好奇心にも触れるものがあるのではと思います。

「神奈川県立 生命の星・地球博物館」は恐竜や隕石、昆虫など、地球の歴史と生命の多様性を知れる常設展示が迫力大で子供にも人気。
家族で訪れ、それぞれの楽しみを味わうのも良いですね!

「初三郎式、かながわの描き方 ~地形表現の科学~」

開催期間

2025年7月19日〜11月9日 9:00〜16:30(入館は16:00まで)

開催場所

神奈川県立 生命の星・地球博物館
住所:神奈川県小田原市入生田499

駐車場:あり

観覧料(常設展含む)

20~64歳(学生除く):720円(610円)
20歳未満・学生:400円(300円)
高校生・65歳以上:200円
中学生以下:無料

※()内は団体料金

主催

神奈川県立 生命の星・地球博物館

共催

神奈川県立歴史博物館

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