リー・リトナー&デイヴ・グルーシン来日公演!ブラジル音楽とフュージョンの相性はバッチリ
リー・リトナー約4年ぶりとなるアルバム「ブラジル」
ラリー・カールトン、パット・メセニーと並んで、1970年代以降のフュージョンギタリスト・ブームの人気を支えたリー・リトナー。長年にわたっての人気もさることながら、竹内まりや『BEGINNING』(1978年)、カシオペア『4×4 FOUR BY FOUR』(1982年)などの和モノ作品への参加や、エリック・タッグをボーカリストとして迎えたAORの『RIT』(1981年)など、近年の再評価も著しいジャンルへの貢献も多大だ。
そんな彼が、2020年の『ドリームキャッチャー』以来、約4年ぶりとなるアルバム『ブラジル』をリリース。日本国内においては5月22日に先行配信、6月19日にはCD、そして8月3日には180g重量盤LPが発売された。このアルバムは1985年にリリースされて、グラミー編曲賞を受賞した『ハーレクイン』の続編ともいえる作品で、『トゥー・ワールド』(2000年)、『アンパロ~トゥー・ワールドVol.2』(2008年)に続く、デイヴ・グルーシン(p, key)との連名作品である。
リー・リトナーとデイヴ・グルーシンが最初に出会ったのは、1974年にセルジオ・メンデスの自宅で行われたジャムセッションだという。ブラジル音楽の独特なコード進行やリズムに魅せられ、両者の初コラボレーションアルバムとなった『ハーレクイン』では、イヴァン・リンス(vo)を3曲でフィーチャーしてブラジル音楽への傾倒を示しており、本作品にも引き続きリンスは参加している。
ほか、セルソ・フォンセカ(g, vo)、シコ・ピニェイロ(g, vo)、タチアナ・パーハ(vo)、グレゴア・マレ(har)、ブルーノ・ミゴット(b)、エドゥ・ヒベイロ(ds)、マルセロ・コスタ(per)など、現在のブラジル音楽シーンの実力派ミュージシャンたちが演奏を担い、ブラジルのサンパウロでベーシック録音が行われた。
ブラジル音楽への愛情を至極に感じられる作品
リー・リトナーとデイヴ・グルーシンのオリジナル楽曲のほか、ミルトン・ナシメント、アントニオ・カルロス・ジョビン、セルソ・フォンセカ、シコ・ピニェイロの楽曲を選曲。自らが参加したフォンセカとピニェイロの楽曲など、全9曲中4曲にポルトガル語のヴォーカルをフィーチャー。
清涼感を感じさせるアコースティックギターとエレクトリックピアノ、色彩感豊かなエレクトリックギターと生ピアノ。そこに、ボサノヴァやマラカトゥを取り入れた本格的なブラジリアンリズムが加わり、ブラジル音楽への愛情を至極に感じられる作品となっている。無駄が一切なくまとまったサウンドからは、細部まで神経が行き届いた繊細な印象も受けるが、スムースジャズ的に聴いていてもサウダージ感が漂う心地よさを体感できる。
クールに演奏するリー・リトナーとデイヴ・グルーシン
そのアルバム『ブラジル』の発売記念ツアーが、11月14日、15日にビルボード・ライブ大阪で、17日にミューザ川崎シンフォニーホール 『かわさきジャズ2024』で、18日、19日、20日、21日にブルーノート東京で、22日に高崎芸術劇場スタジオシアターで開催された。
“リー・リトナー&デイヴ・グルーシン with ブラジリアン・フレンズ featuring イヴァン・リンス” 名義で、ジャズハーモニカの実力者であるグレゴア・マレこそ不参加だが、アルバムに参加したメンバーはほぼ参加。他にも、ムニール・オッスン(b, vo, g)、リトナーの息子のウェスリー・リトナー(ds)が加わった。そのうち、20日にブルーノート東京で行われたライヴを紹介する。
前半は、リー・リトナー、デイヴ・グルーシン、ムニール・オッスン、ウェスリー・リトナーのカルテットによるフュージョン・コーナー。『キャプテンズ・ジャーニー』(1978年)収録の「Etude」や『シックス・ストリング・セオリー』(2010年)収録の「Lay It Down」などをプレイする。
クールに演奏するリー・リトナーとデイヴ・グルーシンに対して、手数たっぷりに弾きまくるムニール・オッスンとウェスリー・リトナーの対比が興味深く、“半分が若いバンド、片方がもっと経験を積んだメンバー” とユーモアたっぷりにメンバーを紹介。
ブラジル音楽とフュージョンの相性の良さを改めて体感
後半では、ウェスリー・リトナーが一旦舞台を降り、タチアナ・パーハ、ブルーノ・ミゴット、エドゥ・ヒベイロ、マルセロ・コスタのブラジリアン・フレンズが合流。
『ブラジル』に収録の「Cravo e Canela」や「For the Palms」をプレイ。タチアナ・パーハの優しい歌声と、エドゥ・ヒベイロとマルセロ・コスタの生み出すブラジリアンなリズムで、たちまちサウダージな雰囲気に。ブルーノ・ミゴットはピック弾きによるエレクトリックベースとウッドベースを弾き分けて、サウンドに細やかに彩りをつけていた。
そして、割れんばかりの拍手の中、イヴァン・リンスも合流して、名曲「Love Dance」や『ブラジル』に再録されている「Vitoriosa」などを披露。最後は、再びウェスリー・リトナーもステージに上がり、2キーボード、2ベース、2ドラムスに、ギターとパーカッションという編成でアントニオ・カルロス・ジョビンの「Stone Flower」をプレイ。それぞれのソロパートもフィーチャーされ、大団円でライブは終了。ミュージシャンたちの素晴らしい演奏と、ブラジル音楽とフュージョンの相性の良さを改めて体感できた夜だった。
撮影:山路ゆか