集合住宅の設計者に聞く“新築にはない”中古マンションの「本当に価値があり、住みやすい間取り」とは
最近ではあまりつくられなくなった2戸1(ニコイチ)と呼ばれるプラン
このところの新築マンションでは建築費の高騰、販売価格の圧縮を意図してか、間取りのバリエーションが減少傾向にある。
できるだけコストパフォーマンスの良い間取りをというわけだが、それらとは違う間取りをと考えるなら中古マンションに目を向ける手がある。
ここでは1970年から12万戸以上のマンションを設計、それを書籍『本当に価値あるマンションの見つけ方 集合住宅設計のプロが考える心地よさのカタチ』にまとめた日建ハウジングシステム設計部(※出版時の名称。現日建設計)に伺い、最近ではあまりつくられなくなった、でも住みやすい間取りについて教えていただいた。
最初にご紹介いただいたのは初期の団地をバージョンアップし、よりプライバシーと住み心地を考えて設計された2戸1(ニコイチ)と呼ばれるプラン。
言葉通り、フロアごとに2戸でひとつの階段を共有するもので、ひとつの階段を利用するのは2戸×階数という少数だけ。加えて外廊下に面していないことからプライバシーを確保しやすい間取りである。
メリットはそれだけではない。
間取り図を見れば分かるように、各部屋に窓があり、玄関前の階段側、バルコニー側の両面に採光、通風が取られている。どの部屋も明るく、風が抜けるようになっているのである。
また、玄関が住戸の中ほどにあるため、そこを境にパブリックとプライベートが分離できるのも使いやすい。来客は玄関から寝室の前を通ることなくリビングに行くことができ、生活時間が異なる家族がいる場合でもリビングの音が寝室に響きにくい。水回りが集約されているため、改修しやすいのも中古の場合は大事な点だ。
ひとつ注意したいのはエレベーターの有無。1970~1980年代などに建設された古い物件が多く、エレベーターがないことがあるのだ。また、あったとしてもスキップフロア(1~2階おきにしか止まらない)になっている場合があり、すべてのフロアはバリアフリーではないことも。それが辛いということであれば1階や低層階を選ぶのが現実的かもしれない。
一方でエレベーターがない、各階に止まらないということで価格が安くなっている可能性もあるので、階段利用が気にならない人ならその点から探すという考えもある。
窓の多さが魅力、低層壁式構造の雁行型
続いては壁面の形状から雁行型と呼ばれるタイプ。
これは1985~1995年くらいまでに建てられたものが多く、築年では30~40年以上のものが中心という計算になる。各部屋に窓がある、場合によっては1部屋に2ケ所の窓があることもあって通風、採光には恵まれている。外廊下に面していないため、プライバシーが確保しやすい。
ただし、開口部が多くなるため、断熱性能はやや不利。外壁、つまり外気に触れる面が増えることで断熱すべき面が増えるのである。古い物件であればそもそも今ほどの断熱性能は備えていないことも多く、窓が多い部屋は寒暖差の影響を受けやすいことはあらかじめ知っておきたい。
また、玄関からリビングに入る、いわゆるリビングインの間取りも多い。廊下の面積が少なく、専有面積をフルに使えるが、家族はすべてリビングを通って自室へ向かうことになる。家族が顔を合わせる機会が増えて良いと考えるか、顔を合わせたくない日もあると考えるかはその家族次第だろう。ちなみに一戸建てではリビングインは比較的多いタイプなので、一戸建ての居住経験が長い人にとっては違和感はないかもしれない。
ひとつ、面白いのはこの間取りは一般的な柱・梁で支えるラーメン構造ではなく、壁で支える壁式構造で作られていることが多いという点。壁式構造は柱・梁がないため、室内がすっきりしているのが特徴だが、一方で住戸内の壁が構造体となっているため、壁を取り払うことはできない。その分、可変性に劣るところがあり、リフォーム、リノベーションには制限が出ることもある。
最近、壁式構造自体がそれほど作られていないのは面で支える分、ラーメン構造より建物が重くなってコストもかかることに加え、5階建てまでと制限されていることも大きい。2戸1同様、築年数が古い物件が中心になるため、エレベーターの有無は要チェックである。
外廊下と住戸の間に吹き抜けのある空中廊下プラン
フライングコリドー、空中廊下のあるプランも現在見かけなくなった設計のひとつ。
1990~2005年くらいまでは作られていたそうだが、外壁率が高く、吹抜けを作る手間がかかるため、工事費の問題から作られなくなったそうだ。
「一般的な長方形の、いわゆる羊羹型という建物であれば四方に足場を組めば良いのですが、吹き抜けがあるとその内部にも足場がいるなど余分な手間がかかります。そのため、この後でご紹介する外廊下型ツインボイドプランなども今ではほとんど作られなくなっています」と日建ハウジングシステム設計部の渋谷篤さん。
コストを考えるとどうしても羊羹型が多くなってしまうのだ。
この間取りは各部屋に窓があり、外廊下に面していないため、プライバシーが確保しやすいのがメリット。住戸、階段やエレベーターの位置によっては窓を開けていても人目が気にならないこともある。
吹き抜けに面して開口部を作ることができるため、浴室、トイレなどに窓が付いた物件もある。一般的なマンションでは水回りに窓があるのは珍しいが、換気しやすいのでお手入れが楽になると聞いた。
ただし、開口部が多くなるため、断熱性能にやや不利な面もある。
住戸真ん中に吹き抜けのある外廊下型ツインボイドプラン
また最近では希少なのが外廊下型ツインボイドプラン。簡単にいうと住戸の真ん中に吹き抜けがあるというもので、1階ではそれが中庭状になっていることも。暗くなりがちな住戸真ん中が明るくなり、自然を感じることができるようになるのがなにより魅力だ。
だが、これも空中プラン同様に外壁率が高く、吹き抜けなどを作る手間がかかるため、工事費が高くなり、作られなくなってきている。
メリットとしては空中廊下型同様に各部屋に窓がある、外廊下に面していないため、プライバシーが確保しやすい、吹き抜け部分に面して開口部が作りやすいなど。例として挙げた間取りではダイニングはもちろん、風呂にも窓が設けられており、気持ちよい空間になっているだろうことが推察される。
何度かこうした間取りのあるマンションを見学に行ったことがあるが、専有面積が最低でも80m2以上と広めの、やや郊外の物件が多かったように記憶している。間取り的には3LDK、4LDKなど。広さ、快適さ優先で探したい人ならお勧めだろう。
ところで空中廊下プラン、外廊下型ツインボイドプランはいずれもリーマンショック後に少なくなっている。察するに悪化する経済の影響でコスパのよいプランが主流になってきたということだろうか。間取りも世につれて変わるというわけだ。
工事費高騰や建設制限もあり、見かけなくなった地下住戸プラン
1990年くらいから2010年くらいにはかなり作られていた地下住戸だが、最近はあまり見なくなった。この要因には2つあると渋谷さん。
「地下住戸にも工事費高騰の影響があります。かつてなら地下を掘って住戸を増やせば、その分が収益になりましたが、今は地下の工事費が高く、プラスになりません。また、条例などで地下住戸を禁止する自治体が増え、実現しにくくなりました」
関西の阪神間、横浜市など斜面の多い自治体で地下室建設を制限する行政が多いそうで、地下を掘ることで本来建たない高さのマンションが建ってしまう不公平を是正する意図があるのではないかと推察される。
だが、地下住戸には外部空間を利用した暮らしが実現でき、地下にあるのでプライバシーが保持されやすい、地下にマイナスなイメージを持つ人もいるからか、比較的価格がお手頃などといったメリットがある。建物自体が高層の場合には地下住戸が暗くなることもあるが、低層住戸の地下なら想像以上に明るいそうだ。
ただし、選ぶときにはいくつか注意点がある。
ひとつは水害の危険を考えること。ハザードマップで危険性が低いところを選ぶのはもちろん、建物の排水能力を調べ、オーバーフローにならないかチェックする必要もある。また、地下に水が流れ込まないよう、エントランス、廊下、階段などに防潮板が設置できるようになっているかも見ておきたい。
もうひとつは土に対しての対策。土に面していると湿度で悩まされることもあるため、部屋は土に面していないほうがよい。
間口の広い内廊下羊羹型、超高層ワインドフロンテージプラン
快適に暮らすためには住戸の間口、開口部の広さもポイントのひとつ。当然、間口が広いほうが例で挙げた図のように各部屋に窓が作れて快適だ。ただ、最近は効率的に住戸を作りがちなので、どうしても縦長の住戸が多め。間口から選ぶ際には3LDKで11m、2LDKで8.5m程度を最低限の目安にしたい。
各部屋がバルコニー側にあるので、窓があるだけでなく、プライバシーも確保されるのも大きなポイントだろう。だが、そのメリットを享受するためには各部屋が外部に向いて配置されているかをきちんと確認しよう。
逆に間口の狭いプランを選ぶ際には住戸中央の居室が行燈部屋(あんどんべや:暗いため、照明が必要なことからのネーミング)になってしまいがち。築年数の古い物件では暗いだけでなく、エアコンが設置できないこともある。リビングとつなげて使い、エアコンもリビングのものをというのであればよいが、そうでないと昨今の気候では使えない部屋が生まれてしまう。
また、築年数の古いマンションでは行燈部屋以外でもエアコンが設置できない部屋があることがある。特に最上階はただでさえ暑くなるので、そうした物件でかつ最上階は要注意だ。
1階で専用駐車場、離れ付きという特殊プランも
接地階、つまり1階だけに個性的なプランがある物件もある。一般に1階はあまり人気がないため、それをカバーしようと広くしたり、特別な間取りにしたりという工夫をしている物件があるのだ。
数として比較的多いのは専用庭、専用駐車場のあるプラン。自宅の庭が駐車場になっているわけで、趣味的にも、実用的にもうれしい。好きな人にとっては愛車が眺められるし、防犯的にも安心。子どもや高齢者のいる家族には乗り降りが楽というメリットもある。1階でも専用駐車場付きは早く売れたことも多かったそうだ。
だが、1階に専用駐車場をつくる場合、車道に出るためには一度歩道を通過するので歩道部分を低く切り下げる必要が出てくる。これについては道路管理者の承認が必要になるのだが、行政協議で嫌がられることが多いと渋谷さん。
「歩行者との接触の危険性や渋滞が起きやすくなるということなのでしょうが、つくらないでほしいと言われることが多く、つくりにくくなっています」
道路幅、交通量にもよるが、郊外の交通量の少ない場所であればそれほど周囲への影響はあるまい。これから作る物件でもつくれるものならつくってもらいたいものだ。
庭に離れなどを設けた物件も今ならSOHO使用したいと人気になりそうだが、現実的にはあまり見かけることはない。本体の建物を作る際の足場と干渉するなどで手間がかかるからだろう。
以上、新築ではあまり見かけない間取りをご紹介した。
中古には価格、立地以外のメリットもあり、あとは選び方次第。間取りを知って我が家らしい住まいを見つけたい。
■参考図書
『本当に価値のあるマンションの見つけ方: 集合住宅設計のプロが語る「心地よさ」のカタチ』
日建ハウジングシステム設計部 著
https://www.shogakukan.co.jp/books/09311589
この記事では画像に一部PIXTA提供画像を使用しています。