【高校野球の暑さ対策】伝統色から、温度下げる「白」へ!各校の取り組みや、「7回制」巡る議論について紹介!
静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「高校野球の暑さ対策」。先生役は静岡新聞の寺田拓馬運動部長が務めます。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2025年7月17日放送)
(寺田)全国高校野球選手権静岡大会で、各校が暑さ対策に工夫を凝らしています。熱中症など健康被害への懸念が年々高まる中、伝統校のしがらみにとらわれず、帽子などを日光が反射しやすい白色に変えたチームも現れました。
(山田)今日は高校球児の暑さ対策のお話です。すごいですね。帽子の色まで変えちゃうって。
(寺田)今年も暑いですね。静岡大会ではどんな暑さ対策をしているのか、また、甲子園の歴史が変わるかもしれない「7回制」を巡る議論についても解説したいと思います。
とにかく暑い野球場。体を冷やすことが必須
(寺田)熱中症対策の話をしていきたいと思います。私も取材に行ったんでわかるんですが、野球の球場って、他の試合会場に比べても暑いんですよね。
ベンチを出たら日陰がないんですよね。取材する記者は、どの球場でもバックネット裏にある記者室を使いますが、写真を撮るときは外に出る必要があるんです。球場の構造にもよりますが、撮影するときは一塁か三塁かベンチの上に上がるんです。ここのコンクリートは、直射日光で暑いんですよ。
(山田)うわー。
(寺田)これ、数分間座っていると、火傷しそうで。時々お尻を浮かせながら写真撮ってたんですけどね(笑)。見る方も大変ですが、実際にプレーする選手たちは全力で打って投げて走り、動き回るのでもっと大変です。
(山田)そこにずっといるわけですもんね。
(寺田)そうそう。どのチームも試合より前に、暑さとの戦いに勝たないといけないんですよね。今大会で、各球場で記者がそれぞれのチームに聞いてみたところ、多くのチームが選手の体を直接的に冷やして体温を下げる対策を取っていました。
袋井高や掛川工業高は冷感ポンチョといって、ちょっと濡らして羽織ると涼しくなるものを用意していました。裾野高は、イニングの間にネッククーラーを装着したり。また沼津市立高は、5回が終わった後、グラウンド整備の間にクーリングタイムがあるのですが、この時に手足を水に入れて冷やすとかね。各校工夫してるんですよ。
(山田)本当に各校それぞれで、工夫した暑さ対策をしてるんですね。
(寺田)また、大会の前から暑熱順化っていう対策もとっています。昔からあるやり方なんですが、大会が始まる前から暑さに慣れておくということです。静岡農業高や浜松江之島高、浜松市立高は、夏場になってもグラウンドコートを着て練習したりとかね。
面白いのは藤枝北なんですが、藤枝北は農業系の学科があり、ビニールハウスが校内にあるそうです。急に暑いところに出てもダメなので暑さに慣れておくということで、練習前にビニールハウスの中に入って汗をかいたりしておくそうです。
(山田)それが暑熱順化対策なんだ。へぇー。
さらに進んだ暑さ対策も…!
(寺田)こういう対策は前からあるんですが、こうした対処的な方法だけじゃダメだと考える学校も出てきたんですね。
掛川西高は去年の優勝校で、春夏合わせて10回甲子園に行っている伝統校ですが、今年から、帽子とストッキング、ヘルメットを紺から白に変えました。白の方が日光を反射しやすいですよね。でもね、伝統校でしょ。一部といえども、ユニフォームを変更するって、簡単ではなさそうですよね。
(山田)そりゃそうですよね。ユニフォームの色を見て確認してわかるから。
(寺田)「あのユニフォームを着たいから入部した」などいろんな思いがあると思います。大石卓哉監督は迷ったそうですが、OBにも相談した上で、「選手が最後まで集中して戦い抜ける環境を揃えたかった」と決断したんですよ。新たな白いユニフォームで試合に臨んだ鈴木脩平主将は「体感温度は違う。とてもプラスになっている」と話していたそうです。
(山田)そうなんだ。
(寺田)2022年の優勝校・日大三島高も、今大会は白帽子白ヘルメットで試合に臨んでいるんですね。小林和生主将は「この帽子で威圧感を出せるようにしたい」と話し、新しい帽子で新しい歴史を作ろうと張り切っています。
実は静岡だけではなく、今後の高校野球では、夏場は白い帽子が増えていくかもしれないんです。
(山田)そうですか。
(寺田)というのも、掛川西高が白帽に変更するきっかけになったのは、去年の甲子園に行って、広島の伝統校が帽子とアンダーシャツを黒から白に変えていたことだそうです。大石監督はこれにちゃんと気づいたんですよ。監督は驚いたそうですが、「伝統よりも健康」っていう意識で参考にしたようです。こうした見方が広がっていくんじゃないでしょうかね。
ただ、これだけ対策をとっても、静岡大会1回戦では、熱中症で足がつってしまう選手が続出して、試合が中断される場面もあったんですよ。今年もこれから夏本番で暑くなるって言われています。今や、最高気温が35度以上って言われてもびっくりしないんですよね。
でも、甲子園ってやっぱりこの時期にやるしかないんですよね。春には選抜があるし、秋以降にずらそうと思っても、3年生は進路選択しないといけないので、難しさがあります。また、全国大会を甲子園でやるっていうことは誰に聞いても譲れない点なんですよね。聖地になっていますからね。
「7回制」にすると、野球はどうなる?
(寺田)高校野球界を二分する議論になっているのが「7回制」です。野球は通常9回までです。それを7回で終わりにすれば時間が短縮できて、選手の負担が減るんじゃないかっていうんですが、どう思います?
(山田)僕は高校野球をやったことないから、最初7回制って話が出たときに、確かに選手の安全・健康を守る部分ではいいのかなって単純に思っちゃったんですけども。一概にそれだけじゃないんですよね。
(寺田)そうなんです。実は、既に国際大会では7回戦の試合が行われているんです。28年のロス五輪で野球が追加競技になったんですが、7回戦になるかもしれないと言われています。また、今年滋賀県で行われる国民スポーツ大会では、高校野球は試験的に7回で実施されるんですよ。
(山田)国スポの高校野球が7回!?
(寺田)そういう流れはあるんですが、現場の監督、選手、高校野球ファンの意見ってどんな感じかというと、実は圧倒的に反対の声が大きいんですよ。
ちょっと調べたら、今年の選抜大会出場32校の主将にアンケートをしたら、7回制の賛成は0票、反対が30票、どちらでもいいが2票だったそうです。圧倒的に反対なんですよ。
(山田)そうなんだ。
(寺田)これ、この間亡くなられた長嶋茂雄さんのせいかもしれないと私は思うんです。「せい」って言ったら、怒られちゃいますよね。今や伝説の試合ですが、昭和天皇が初めてプロ野球を球場で観戦した天覧試合で、長島さんは9回裏にサヨナラホームランを打ちました。ここから野球が日本で国民的なスポーツになったんですよ。
(山田)そういう伝説があるわけですね。
(寺田)長島さんの天覧試合を挙げるまでもなく、今の高校野球でも試合の終盤の9回に起きたドラマってたくさんで枚挙にいとまがないんですよ。選手にとっては地区大会も、ましてや甲子園となれば晴れ舞台なので、せっかくなんだから9回までやりたいという気持ちが強くて当然だと思うんですけどね。
7回制についてはいろんな論点がありますが、一つの見方として、考えてみたいと思うんです。野球の試合は9回までやると、短くても2時間程度、長いと3時間以上かかることもあります。サッカーとかバスケは、試合時間が最初は決まってますよね。
(山田)制限時間がありますもんね。
(寺田)こういう競技と比べると、野球は今はやりの言葉で言うと「タイパ」、つまりタイムパフォーマンス(時間的効率)が悪いという人もいるんですよね。
実はルールが近年いろいろ変わっています。その考えのもとにあるのは「選手の健康を守る」という観点です。なぜ飛ばないバットに変えたかっていうと、一番の理由は、打者から距離が近いピッチャーを守ること、ピッチャーライナーで怪我をしないようにということなんですよね。あと、投手の球数制限は1週間で500球以内と決まったんですが、これも高校年代で、肩や肘を使いすぎて故障することがないようにという配慮なんです。タイブレークも投手を始め選手たちの負担を減らすためで、いろいろ変わってきているんですよ。
7回制の前にもっと工夫すべきだっていう考えもあると思います。投手の打順に打者専門の選手を起用するDH制を導入するとか、野球はバスケと違って、一度交代して引っ込んだりして、再出場できないんですが、例えばそれを熱中症の疑いがある場合は、体調が戻れば再出場可能にするとかね。
そんなこともアイディアとしてはあると思うんですよ。他の方策もあると思うんですが、ただ根本的とは言えないですよね。
しがらみにとらわれず、変えていくことも一つ!
(寺田)で、7回制ということですが、野球の根本が変わると話す関係者の方もいます。例えば、現状だと、ピッチャーがいい球を投げてきても打たずに相手投手に序盤から球数を投げさせて疲労を誘って、終盤に後から崩す作戦とかあるんすけどね。7回制になったら、そういう作戦は取りづらくなりますよね。
(山田)確かにそうですね。
(寺田)逆にピッチャーの方も、終盤のスタミナ切れを心配する必要は減るので、序盤から全力投球っていうこともできるんじゃないかと思うんですよね。
(山田)なるほど。
(寺田)「ルールが何のためにあるか」というと、まずは安全性の確保が大事ですよね。また公平性、平等性を高めるための修正も加えられてきています。そしてもう一つは、競技を面白くするためですよね。プレイヤーだけではなく見る人も支える人にとっても、ましてや今だけでなく将来にわたっても、競技を発展させるためなんですよね。だからルールは絶対に守らないといけないけれども、競技を面白くするために常に変化しているんだという話をこれまでも紹介してきました。
掛川西高のユニフォームと一緒で、長い歴史がある9回制というルールを暑さ対策で夏場だけ変えることは勇気が要ることだと思います。でも、優先すべきものは何かを整理し、しがらみにとらわれずに決断する時が来ているのかもしれないと思います。
(山田)なるほど。今の寺田さんの話を聞くと、7回制にして生まれるメリットというか、面白さも十分あるよっていうふうにも思えます。
(寺田)そうなんですよ。7回制を導入するかどうかを検討する機会に、野球の魅力って何かって改めて考え直してみたらどうかと思うんですよね。
7回制にすれば全て問題解決するってわけではないと思います。でももし高校野球が7回制になれば、序盤の探り合いは減って、ワンプレーごとの重みって、ますんじゃないかと思うんですよね。
(山田)見てる我々にとっても、その1球の大事さや緊張感もより高まって、面白くなるって部分もあるっていう。
(寺田)さらに、能力の高い選手が数多くいて何人も交代できる強豪の私立校と、少数精鋭の公立校の力の差が縮まりますから、好勝負が増えるかも知れない。
(山田)意外とメリットもあるよっていうことか。
(寺田)一番大事なのは、高校球児が思い切ってプレーできる環境を整えてあげること。これに尽きるんじゃないかと思うんです。7回制になったとしても、純粋でひたむきな球児たちは必ず私達の心を熱くするはずです。
足元を見れば野球人口は減っているので、間口を広げてあげることは大事だと思います。将来を見据えて、内側だけではなく広い視野で7回制についての議論が進んでいってほしいなと思いますね。
(山田)とにかくこの暑い夏、戦う高校球児たちの安全だったりとか、熱意みたいなものを、この後も見届けていきたいなと思います。今日の勉強はこれでおしまい!