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村上の地酒専門店「益甚酒店」で酒づくりの歴史を知る。

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村上の地酒専門店「益甚酒店」で酒づくりの歴史を知る。

村上市に春の訪れを告げる恒例行事が「越後村上 町屋の人形さま巡り」です。2000年にスタートしてから26年間続いてきた人気行事で、今では県内外から多くの観光客が町屋に飾られた古い人形を見学にやってきます。趣ある外観の「益甚酒店(ますじんさけてん)」へも、ひっきりなしに観光客が訪れ、華やかな御殿雛(ごてんびな)と勇壮な竹田人形、そして地酒の試飲を楽しんでいきます。今回は「益甚酒店」店主の益田さんから、お店の歴史を聞いてきました。

益甚酒店

益田 茂彦 Shigehiko Masuda

1947年村上市生まれ。四代目店主。明治大学卒業後、東京池袋の「東武百貨店」に入社。1973年に村上市へ戻り、家業の「益甚酒店」に就業。1992年からは「大洋酒造株式会社」に入社し、53歳のときに代表取締役社長を就任、66歳で定年退職するまで勤めあげる。趣味は健康づくりを兼ねて8年前からはじめた社交ダンス。

「益甚酒店」と「大洋盛」の意外な関係。

——御殿雛も珍しいですけど、竹田人形も見応えがありますね。

益田さん:これは私が子どもの頃に、五月人形として飾っていたものなんです。40年もの間家のなかに眠っていたんですけど、あるイベントでショーウインドに飾ってみたら、それを見た「千年鮭きっかわ」の吉川社長が「町屋の人形さま巡り」を思いついたんですよ。

——こんなところに人気イベントのルーツが(笑)。人形だけじゃなく、建物も歴史を感じさせますよね。

益田さん:一度モダンな店舗にリノベーションしたんですけど、再び町屋の姿に戻したんですよ。

——そうだったんですね。では、そのあたりも含めてお店の歴史を教えてください。

益田さん:塩町にある「益田甚兵衛(ますだじんべえ)酒店」から分家した益田甚次郎(ますだじんじろう)が、「益甚」としてお茶の販売をはじめたのが創業なんです。こちらへ移転してからは造り酒屋をはじめましたが、「企業整備令」が発令されたことで、昭和20年に15軒の造り酒屋が合併して「下越銘醸(かえつめいじょう)」ができたんですよ。父はその会社で社長を務めていました。

——「下越銘醸」というのは聞き慣れない名前ですね。

益田さん:「下越銘醸」が数年後に「宮尾酒造」と「大洋酒造」に分かれるんです。

——なんと、村上二大酒造の前身だったとは。ところで、益田さんは最初から「益甚酒店」で働いていたんですか?

益田さん:私は大学を卒業してから池袋の東武百貨店に入社したんです。ところが3年目に親父から呼び戻されてしまい、後ろ髪を引かれる思いで村上に帰ってきました。百貨店での仕事にも慣れてきて楽しかった時期だったからね(笑)

——あらら……それは残念でしたね。家業の酒屋で働きはじめていかがでした?

益田さん:大変でしたよ(笑)。規制が緩和されたことでいろいろな会社でお酒が売られるようになって、個人店は苦戦するようになっていったんです。それまでは卸売りをメインにしていたんだけど、顧客の小売店が減っていくもんだから、卸売りよりも店頭売りに力を入れるようになっていきました。

——店頭売りに切り替わる際に、改革したことはあったんでしょうか?

益田さん:いろいろやりましたよ。さっきお話したリノベーションもそうですし、村上ではじめてウイスキーやワインの販売もしたんです。商店街のイベントもいろいろ企画しましたが、大型店が進出してくるなかで、地元商店街は廃れる一方でしたね。そこでこれからはお酒を売るだけではなく、製造に力を入れていかなければならないと思ったので「大洋酒造」へ入社することにしたんです。

観光客をあたたかく迎える地酒専門店。

——入社した「大洋酒造」ではどんな仕事をしたんですか?

益田さん:「社長室企画担当」という肩書きだったので「私は何をやればいいんですか?」って聞いたら「それを考えるのが、あんたの仕事だ」と言われました(笑)

——それで、どんなことをやったんでしょうか?

益田さん:当時は村上にゆかりのある雅子様がご成婚されたばかりだったので、それに合わせた新しい日本酒を売り出しました。すべてのテレビ局や新聞社にニュースリリースのDMを送ったら、朝のワイドショーで紹介されて全国各地から注文が殺到したんです。その他にもいろいろな日本酒の新商品に携わりましたね。

——それはすごい。

益田さん:イベントもいくつか開催しました。私が入社した当時、「大洋酒造」は近所からのクレームがやたらと多かったんです。例えば「敷地内の水溜りに蚊がわく」とか「フォークリフトの音がうるさい」とか……。そこで近所の方々との親睦を深めるために、私が企画して納涼祭を開きました。駐車場に露店を出したり、トラックステージで催しをやったりしたんです。そうして近所と仲良くするようになったことでクレームはなくなりました。

——イベント企画は、商店街のイベントでお手のものだったんじゃないですか?

益田さん:それまでやってきた経験が役に立ちましたね。そのおかげで53歳のときには社長に就任して、66歳で定年退職するまで勤めさせてもらいました。今でも相談役として関わらせてもらっているんですよ。

——お疲れ様でした。その後は「益甚酒店」に戻ってこられたんですね。現在はどんなことに力を入れて営業しているんでしょうか?

益田さん:観光で来られたお客様をメインに営業しています。店の裏に観光バスも停められる駐車場までつくりました。お客様には茶の間で町屋の説明をして、利き酒を味わっていただいています。ウイスキーやワイン、ビールの販売はやめて、地酒だけにこだわった専門店に生まれ変わったんです。

——どうして観光客向けの地酒専門店に?

益田さん:人が少ない地元だけで商売するのは難しいので、外から人を呼ぶしかないんですよ。そこで「千年鮭きっかわ」社長の吉川君達を自宅に呼んで、茶の間で一杯やりながら「観光客の訪れる商店街をつくろう」と相談しました。町屋を生かした街並みをつくるため、川越や喜多方へ行って街並みの視察もしてきたんです。

——それが「町屋再生プロジェクト」なんですね。

益田さん:当時は前の道路を拡張する計画があったんですけど、「観光客の訪れる商店街」をつくるために古い建物を守らなければならなかったんです。そこで吉川君を先頭に反対運動をしたんですが、ほとんどは道路拡張に賛成していたので理解を得られるまでは大変でした。

——でもその甲斐あって、多くの人が訪れる観光地に成長したんですね。

益田さん:3月に開催される「町屋の人形さま巡り」をはじめ、5月の「春の庭 百景めぐり」、9月の「町屋の屏風まつり」といったイベントを続けてきた成果だと思います。

——最後に益田さんおすすめの地酒を教えてください。

益田さん:私が「大洋酒造」に勤めていた頃に提案してつくった「紫雲(しうん)」ですね。「地元のお客様に毎日飲める手頃な価格でお届けしたい」という思いで、普通酒だけど吟醸酒と同じくらいに米を磨いたお酒なんです。淡麗辛口でどんなお料理にもよく合いますので、是非お試しいただきたいですね。

益甚酒店

村上市大町1-19

0254-53-2432

10:00-17:00

水曜休

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