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【京都観光のいま】食や遊び、観光で、人が集う場を創り出し、洛西の魅力発信に挑む~DELICEキョウト~

京都観光Naviぷらす

都の西の郊外に位置する洛西は、古くから竹の産地として知られてきた地域。このエリアを拠点として活動し、京都市が推進する京都観光モラル事業の「持続可能な京都観光を推進する優良事業者」に選ばれた「DELICEキョウト」は、洛西の特産品である筍と冨有柿を生産する農家でありながら、放置竹林や規格外農産物の活用、担い手不足、地域の観光振興といった課題にも取り組んでいます。洛西を盛り上げ、人を呼ぶためのさまざまな企画から地域の課題解決につなげようという活動を取材しました。


◇京都観光モラル
https://www.moral.kyokanko.or.jp/
◇持続可能な京都観光を推進する優良事業者
https://www.moral.kyokanko.or.jp/member



DELICEキョウト 西田圭太さん


洛西の特産・冨有柿の規格外品を使ったスパイスカレー



こだわりのスパイスカレー
[画像提供:DELICEキョウト]


阪急桂駅から徒歩7分のところにある「柿とスパイスカレー」は水曜日限定で営業するカレーの専門店。料理の腕を振るうのは100年続く柿と筍の生産農家の六代目・西田圭太さんで、レストランの運営だけでなく、地域の農業課題に取り組むベンチャー企業DELICEキョウトの代表を務めています。


このお店が話題になっているのは、カレーに欠かせないペースト状の調味料「チャツネ」に洛西の特産品である柿を使っている点、そしてミシュランシェフが監修したレシピで作られる味にあります。このミシュランシェフのレストランでは長年、西田さんが生産した柿や筍を使用しています。そのため素材を熟知し、その良さを最大限に引き出すことができるんです。


そこまで徹底して“ここにしかない味”にこだわったのは「洛西に足を運んでもらうことが目的」と言う西田さん。洛西の農業の発信基地の役割を果たしていきたいと、知り合いのレストランを週1回間借りするかたちで2023年6月に店舗をオープンしました。



柿畑
[画像提供:DELICEキョウト]


実は西田さんは一風変わった経歴の持ち主で、20代の頃はサファリパークで動物の飼育に携わり、その後、営業職を経て妻・愛子さんの実家である洛西の田原農園を継ぎました。


当初は跡継ぎになるつもりはなく、仕事のかたわら農繁期の手伝いをしていました。畑仕事の経験はありませんでしたが、自然のなかで体を動かすことが性分にあっていたそうで、約10年にわたって楽しみながら農園の助っ人を務めていたそうです。


そんな中、西田さんはせっかく育てた作物が規格外というだけで売れなくなることを知ります。「おいしさも、苦労して育てたことも変わらないのにもったいない!」と、活用方法を模索するようになったことが、DELICEキョウトを立ち上げるきっかけになりました。西田さんが起業する姿を見ていた義父から「農園を運営してみないか」と声を掛けられ、本格的に農業に取り組むことにもなりました。


京の名店への飛び込み営業から、販路と人脈を広げて



冨有柿
[画像提供:DELICEキョウト]


西田さんがまず取り組んだのは、6次産業と呼ばれる農産加工品の会社をベンチャーで立ち上げること。柿を使ったジャムやドレッシングなどの加工・販売をスタートさせました。また、農園の運営にあたっては、冨有柿のさらなるブランド化を第一の課題に据えます。


洛西の筍と比べると、冨有柿は特産品と言われながらも知名度が低く、そのおいしさを広く知ってもらうことが先決だと考えた西田さんは、数個の柿を携えて京都の名だたる飲食店に飛び込みで営業を掛けはじめました。味に厳しい有名店ならこのおいしさをわかってもらえるはず、という思いからの行動でしたが「いまから思えば素人だったからできたこと」と振り返ります。



洛西の特産品である筍
[画像提供:DELICEキョウト]


冨有柿は和・洋の名店のシェフたちに好評で、口コミなどでも広がりはじめ、店との信頼関係を築きながら販路を開拓していきました。名店に評価されることで、柿そのものの付加価値を高めることができましたが、ジャムやドレッシングなどの加工品は自分たちで売るだけでは販路が広がらず苦戦を強いられました。商社に販売を委託することも考えましたが、そうなれば薄利になり、事業の安定した継続は難しくなります。加工品製造に限界を感じるなかで西田さんが思いついたのは、柿をもっと使いやすい調味料にできないかというアイデアでした。



チャツネ
[画像提供:DELICEキョウト]


そこで挑戦したのがチャツネの開発。肉料理やシチュー、パスタなど汎用性があり、市販のカレールーに加えればカレーも本格派の味になります。一般家庭での使いやすさを視野に加工・販売の事業を進める一方、実際に洛西に足を運んで食べてもらえる場をつくりたいと店舗の開店を決めます。


当初の飛び込み営業のころから懇意にしてきたミシュランシェフが協力を快諾してくれたこともあり、シェフの名に恥じぬよう調理方法の試行錯誤を重ねたといいます。その甲斐あって店は人気を呼び、週1回のオープンを心待ちにするファンも増えました。厨房に立つだけでなく、自ら接客して感想を聞き、使っている野菜や地域の農産物、洛西の見どころなどの紹介をしながら交流を広げています。


竹林を遊びや集い、リラクゼーションのフィールドに



竹林
[画像提供:DELICEキョウト]


自身の農園の柿をブランド化できた一方で、西田さんが課題に感じていたのは地域全体の農業の底上げです。後継者が不足し、手入れされないまま放置されている竹林は病害虫の原因になるほか、守り継がれてきた里の美しい景観を損なうことになり、日本各地でも問題になっています。


課題を解決するためには「行政が主催してくれるイベントや補助金頼みの一過性の事業ではなく、それら地域の力を借りて“継続してお金を生み出すビジネスモデル”をつくることが必要」と西田さん。現在、DELICEキョウトでその仕組みを模索し、多方面へ提案を続けています。自らつくった農産品や加工品を特産市で売るだけでなく、地域や鉄道会社と協力してマルシェなどの企画も手掛けるようになりました。


そんななか西田さんが着目したのが、手入れされた竹林の美しさです。竹林を筍の生産場としてだけでなく、遊びや集い、リラクゼーションのフィールドとして活用する「竹林パーク」の構想を立ち上げ、次々に新しいイベントを実施しています。



竹林ハンモック
[画像提供:DELICEキョウト]


地元の学校を対象に竹林キャンプの課外授業を行うほか、大手旅行会社とタッグを組んで竹林でのバーベキューや流しそうめん、竹工芸などの体験ツアーを企画。竹林を食やものづくり、農業課題についての学びの場とし、多くの人が実際に竹に触れ、農業に関わり、その思い出を持ち帰ることで、将来の担い手の育成につなげていくことが大きな目標だといいます。


「洛西に来る意味」を大切に、地域の力を生かした魅力的なコンテンツを



京都産業大学との取り組みによるイベント出店
[画像提供:DELICEキョウト]


最近では、地域のイベントへの出展方法も大きく方向転換しました。農産品や加工品の販売ではなく、体験を重視したブースの出展を企画。京都バンブープロジェクトと銘打ち、小学生が竹を使ったものづくりに挑戦し、それを実際に販売するという取り組みをスタートさせました。また、京都産業大学と協力し、学生がマーケティングから販売までを行う活動をサポート。学生たちは農業課題への取り組みや地域のPRに関わってくれています。


 



バンブープロジェクト
[画像提供:DELICEキョウト]

ほかにも竹を使ったエネルギー開発なども見据え、大学や企業など研究機関との連携も進めているという西田さん。食やイベントなど活動が多岐にわたるなか、大切にしているのは継続できること。洛西を盛り上げることで、関わった人にお金が入り、事業に将来性が生まれれば若い人が注目し、移住や就農も増えます。そうして後継者問題が解決することで竹林の整備が進み、そこをフィールドにしてまた地域が盛り上がる―。そんな持続的な好循環を生み出すことが西田さんの目指す地域の未来です。


洛西に足を運んでもらい、地域を盛り上げるためには「ここに来る意味」が鍵になります。だからこそ地域の魅力の発信に力を注いでいるという西田さん。「洛西には面白いことをしている人、イベントなどを企画している人などがたくさんいますが、個々ではなくそれを繋ぐことも重要です。地域がもつ力を生かした魅力的なコンテンツをこれからも常に発信していきたい」と話してくれました。


 


■リンク
◇【京都観光モラル】優良事例集
https://www.moral.kyokanko.or.jp/case
◇DELICEキョウトHP
https://www.delice-kyoto.com/



記事を書いた人:上田 ふみこ
ライター・プランナー。京都を中心に、取材・執筆、企画・編集、PRなどを手掛け、まちをかけずりまわって30年。まちかどの語り部の方々からうかがう生きた歴史を、なんとか残せないかと日々奮闘中。

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