不動産のプロに聞く!福岡の不動産市場と、これからの不動産の投資先【2024年版】
アフターコロナにおいても人口増加を維持し続ける福岡市。分譲マンションの価格は高騰を続け、地価が引きあがる要因となるなど今なお不動産投資先として注目されています。そこで不動産のプロ・不動産鑑定士の佐々木哲さん(佐々木不動産鑑定事務所)に、福岡市における2024年の不動産市場を教えてもらいました。
1.アフターコロナにおける福岡市の不動産事情
コロナ禍には経済の落ち込みや、大都市への吸引力が低下するといったトレンドもみられました。アフターコロナとなった現在、福岡の不動産市場はどのような状況なのでしょうか。
不動産鑑定士 佐々木哲氏
過去3年間の人口増加数は福岡市が全国1位で、毎年1万人以上の人口の増加を維持しており、人口動態で優位性があります。それは地方拠点都市の中でも、背後圏域の人口集積が最も高いことが理由のひとつと言えるでしょう。
総務省が発表した住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査によると、2021年1月から2023年12月における全国市区の人口の増加数は福岡市がトップ(外国人を含む)。また地方四大都市圏の比較を見ても、福岡市と九州地方は人の流動が活発なことがわかります。
図:1-1_国内全市の人口増加ランキング
図:1-2_地方ブロックごとの人口
「九州各地から福岡市への人口集積は、マンション市場やオフィス市場といった不動産価格にも反映されます。現に政令指定都市において福岡市の商業地の平均上昇率は4年連続全国1位なんですよ」と佐々木さん。
半導体企業の誘致により大きな動きを見せる熊本や北海道も話題ですが、天神ビッグバンや博多コネクティッドを代表とする福岡市の商業地は依然として投資マネーが集中しています。
2.ホテル市場の急回復と、インバウンドへの今後の取り組みに注目
令和5年の訪日外国人は約2057万人と、コロナ前の令和元年約3188万人の約80%まで回復。福岡市のホテル・旅館の稼働率や客室単価も高まり、令和6年はコロナ前を超えるほどの急回復をみせています。
また、訪日外国人消費額はコロナ前の令和元年4.8兆円から令和5年には5.3兆円を記録し、過去最高となっています。
図:2_インバウンドとホテル市場は急回復
不動産鑑定士 佐々木哲氏
インバウンドについては、為替レートが大幅な円安に振れていることが大きいと言えます。
市内でもインバウンドの方を多く見かけますが、福岡市はいわゆるゴールデンルートから外れており、いかに消費単価の高い欧米系の人々を福岡市に呼び込むかが課題となりそうです。
インバウンドや国内のビジネス・レジャー需要の回復により、ホテルの取引市場も活況となっています。ホテルの賃貸借契約は、売上に連動する変動賃料が織り込まれている場合が多く、高収益を見込めるためです。
3.さらなる高騰が予見される、福岡市の分譲マンション市場
「福岡市内の分譲マンション価格は昨年を上回り、特に中央区の専有面積当たりの坪単価は坪300万円を超えています」と佐々木さん。
なかでも福岡城周辺では、複数の分譲マンションの開発計画があり、これまでの福岡の水準を大きく上回る分譲価格が予定されています。これらによって、市内のマンション価格が一段と引き上げられることが予想されます。価格の高騰は福岡市周辺部にも波及しており、西鉄白木原駅周辺の新築マンションも坪250万円超ですでに完売。特にブランド力のある高価格帯のマンションはすぐ完売するほどで、地価を引き上げる要因にもなっています。
近年は円安の影響や世界情勢に左右され、建築費や労務費が年々上昇。しばらくこの流れは変わりそうにありません。
4.年末からいよいよはじまる、オフィスビルの大量供給
福岡市の中心部では、天神ビッグバンや博多コネクティッドと言われる再開発が行われ、巨大なクレーンが稼動しているのが目立ちます。
「天神ビジネスセンター」や「福岡大名ガーデンシティ」がすでに竣工し、都心部周辺でも中小型の新築オフィスビルが供給されている状況にあります。
地元精通者によると、現在の空室率は概ね5%前後と言われており、需給とのバランスがとれている状態です。
大手コンサルティング会社や外資系金融機関といった新規の進出もあり、現在は持ちこたえているようですが、今後は天神ビッグバンの進展による空室率の悪化が懸念されます。
図:4_福岡市のオフィス市場について
不動産鑑定士 佐々木哲氏
今年の末から天神ビッグバンによるオフィスビルの大量供給が本格的に始まります。市内のオフィス需要を大きく超える供給量ですので、オフィス市況の悪化は避けられないと考えます。
しかしながら、今回のオフィスビルの大量供給の特徴は、天神地区の明治通りの物件が中心です、つまり、立地条件と建物スペックの両方がAランクの物件が多く、過去の大量供給のときと異なります。
新築オフィスビルは、供給が需要を生むという側面があり、市内の経済全体にとってはプラス要因ですので、今回の大量供給も中長期的な目線で捉えた方が良いと思います。
5.拡大を続ける福岡の不動産証券化市場
不動産の証券化とは、投資家から資金を集めて、賃料収入を配分する仕組みです。
福岡には、ご当地リートである福岡リート投資法人があり、一般の方も馴染みの深いキャナルシティ博多などが組み入れられています。
不動産の証券化は、地域に対してどのようなメリットがあるのでしょうか?
図:5_拡大する福岡の不動産証券化市場
不動産鑑定士 佐々木哲氏
不動産の証券化は、国内外の投資マネーを地元の不動産市場に呼び込む効果があります。証券化することにより、地元の開発業者は資金を早期に回収し、新たな開発に着手することができます。したがって、証券化は、地域の成長に欠かせない手段になっています。
福岡市内では、地場企業による私募リートが立ち上がり、今後も新規の設立が見込まれ、福岡の街づくりの活性化につながるものと考えます。
6.建築工事費の高騰が与える影響は広範囲に
不動産投資を考える上で、現在最も影響を受けているのが建築工事費の高騰です。
その要因は東京オリンピックや再開発といった建設需要の拡大、そして大幅な円安による建築資材費の上昇、さらに労務費の増加が挙げられます。
影響としてはまずマンション価格の高騰。土地価格とともに建築工事費が上昇することで、当然マンション価格が上がってきます。福岡市内、特に中央区はブランド力があるのでまだ高価格帯が売れていますが、それがどこまで続くのかは不透明と言えるかもしれません。
また新築賃貸マンションも、建築工事費の分を賃料に上乗せするので高くなります。新築時はプレミアム性があるので埋まりやすいですが、2回転目は難しくなりがちです。
ほかの影響では、建替え工事や再開発プロジェクトが中止になるケースが散見されます。これらは今後着手する天神ビッグバン案件にも影響を与えるかもしれません。
不動産鑑定士 佐々木哲氏
現時点では、建築工事費が安くなる要因は少ないと考えます。円安などで資材費が上昇することに加えて、職人さんの数は減ることはあれど増えることは考えづらい。なので賃金といった労務費も上がるため、建築工事費は下がりづらいのではないでしょうか。
建築工事費の上昇は、新築工事だけではなく、修繕工事にも影響します。したがって、すでにマンションを所有されている方も、修繕積立金の上昇などを通じて影響を受けると思います。
7.今後の注目エリアは、福岡市東区の「九大跡地」
九大跡地開発は住友商事を代表に、JR九州、西部ガス、大和ハウス、東急不動産、西日本新聞、西鉄などの企業グループが371億円で落札しました。
今後はスマートシティとして2000戸の分譲マンション、賃貸マンションの建設が予定されており、2030年頃に最初の施設が完成する模様です。
不動産鑑定士 佐々木哲氏
九大跡地の開発は東区に大きな影響をもたらすでしょう。JR九州は2027年を開業目標として、貝塚に新駅を計画しています。
ただ2030年くらいから施設ができていく事を想定すると、住宅地として熟成するには、少し時間がかかると思います。逆にいうと今の東区は、都心接近性が良好な割には、不動産価格に割安感があると言えます。
8.不動産投資先としても魅力的な福岡市
コロナ過による冷え込みを乗り越え、今後の開発状況も見え始めた福岡市。アジアの玄関口としてのみならず、観光や商業の街としてさらなる成長が見込まれます。
「住みたい街」との声も多い福岡市は、今後も投資先として注目されてゆくでしょう。